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[書籍化決定・第一部・第二部完結]緑の指を持つ娘  作者: Moonshine
緑の指を持つ娘 温泉湯けむり編

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火の国の王太子であるというのに、フェリクスの魔力は雷だ。


一般的に雷の魔力は火の魔力より高尚とされる。

フェリクスの魔力が雷の最上級の魔力である事もあり、フェリクスが王位に着くことに、誰も異議を唱える隙すらもない。

フェリクスはその血統、その美貌、その能力、その魔力。

全てにおいて一部の隙もない、完全無欠の王太子だ。


ただ、このフェリクスの持つ雷の魔力は非常に制御が難しい。

ましてフェリクスのように、健康に害が出るほどの量の魔力が体内で生成されている場合、少しでも発動させた雷の制御を間違うと発動させた己の指が吹き飛ぶほどの威力となる。


異常な量の魔力の生成をポーションで抑え、フェリクス自身には、雷の魔力の制御の方法を徹底的に覚えさせる。


その間に古い魔力の浄化の方法を探し出す。

皮膚の対症療法としては湯治、そして軟膏の湿布を欠かさずに行う。軟膏については、ノエルからの症状の報告を受けながら医師団が引き続き担当。


一応のフェリクスの治療の方針は固まった。


自助による雷の魔力の制御については、かなり厳しい鍛錬となることは請け合いだが、手術による魔力生成器官の外的処置が却下された以上、フェリクスにそれ以外の道は残されていない。


情報統制の観点から、王家の魔術団出身で、かつてはアビーブの雷と呼ばれたが、今はかなり視力が悪くなり、現場に立てない雷魔法の名手がこの離宮に秘密裏に呼ばれることとなった。


離宮に目の悪い男が湯治にきただけという世間への体面を作るためでも、自らの姿を恥じるフェリクスに、フェリクスの姿が良く見えない男を師につけるという、フェリクスの心を慮ったためでもある決断だ。


そしてポーションは実際のフェリクスの症状を詳しく知るノエルが担当する事になった。


ノエルは、今日、王宮医師団との治療方針の決定を告げに離宮にフェリクスを訪ねていた。


「そうか」


それだけ言って、後はフェリクスは少し鼻を鳴らしただけで、ノエルが報告した治療方法の決定に興味を持つことはなかった。だが明日からやってくるという雷の魔力の使い手が、相当視力が悪くほとんど盲人だという事を聞いて、ほっとした表情を見せた。


フェリクスは己でも受け入れられない己の姿を、人の目に晒す事は、最小限にしておきたいのだ。


ノエルは続けた。


「ポーションは私が担当します。私がこの離宮でポーションに使用する薬草を直接栽培し、精製する方がどこにも情報が漏れずに良いでしょう。多くの魔力を抑える薬草をこの離宮で購入しているとなると、その理由を探る連中が出てこないとも限りません。ついては離宮の温室を使わせていただきたいのですが、管理は誰が?」


この離宮には、かなり立派な王宮式の建物の温室があるが、中が利用されている気配はない。

温室はかつては立派な薬草園だった名残がいくつもあり、ノエルは初めてこの離宮を訪れた頃から、とても気になっていたのだ。

古く頑丈な作りの、王宮式と呼ばれる建築方法で建立された大きな温室は、一般の温室よりも、かなり天井が高い贅沢な作りだ。

温室の中では大きな薬木でも植える事ができるだろう。


「庭師は今は雇っていない。温室の世話は、勝手に誰でもお前の采配で雇っていい。庭の手入れは時々メイソンが外部から雇われ庭師を呼んで芝を整えるくらいだ。温室は随分昔から、放置しているままだ」


あまり興味なさそうなフェリクスに、だがノエルは少し口角を上げた。


「わかりました。では、温室に私の部下を派遣しても? 私が帯同した部下の一人に最高の庭師がおります。お許しいただけるのでしたら明日から温室に連れて参ります。決して殿下の前に姿を見せないように、温室の中だけ仕事をさせますので」


「いいだろう。勝手にしろ」


「ではもう一つ。温室に、いくつか私用の植物も持って行きたいのです。あと少し温室の中を改造したいのですが」


実は、ベスを放っている間にベスが森を散策しては見つけてきて、どしどしと宿の部屋を侵食してゆくベスの植物コレクションにノエルは少し困っていたのだ。


その上、ノエルの目から見たらどの植物も素晴らしい状態なのだが、宿の片隅という環境では植物たちがベスの考える最高の状態がうまく保てず、しょんぼりとしているベスに、ノエルはどうにか何かしてやりたかった。


「どうでもいい。温室はお前の好きにしろ。2度とは言わん」


不機嫌そうに包帯だらけの顔を窓の方を向けて、フェリクスはノエルにそれだけ告げた。


ノエルは黙って頭を下げると、大急ぎで宿に向かった。



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