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[書籍化決定・第一部・第二部完結]緑の指を持つ娘  作者: Moonshine
秋祭り

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23

今日の山車の展示を終え、エズラは屋敷の研究室で静かに物思いに耽って佇んでいた。


今頃宮殿ではこの国の歴史を揺るがす大きな事変が起きているはずだ。


ユージニアにこの策を授けたのは他でもないエズラだ。


王国の魔法軍の参謀として、長く裏の王国の歴史を動かしてきていたエズラの策。

エロイースとナーランダも今頃宮殿内でエズラの極秘の任務についているはずだ。作戦に抜かりはないはず。


(予定では、今頃山車の投票の頃合いのはず)


エズラは、ただ己の館で、全てが終わるのを静かにベスと一緒に待っているはずだった。

ベスにはもちろん、何も知らされていない。


(‥一体なぜ、何の前触れもなしにこれほどの魔力が温室から、なぜじゃ)


ナーランダからの知らせを静かに待っていたエズラは、何の前触れもなく、魔物の首領クラスの魔力が急に魔術院の温室の方向からいきなり発生した事を感知して、大いに取り乱す。


急な大魔力の出現に、脂汗が止まらない。


もしもこの魔力の持ち主が人に害意を持つ魔物であるならば、王都などひとたまりもない、巨大な魔力だ


(何じゃ??? あれはノエル様のおる温室の方向か?温室で一体何が起こっておる????)


温室内は、ノエルが強固な結界を張っている。

ノエルに今日の作戦は一切告げていないはずだ。

ユージニアの強い希望で、ノエルにはこの事変に一切関わらせない事になっている。

定期的にロドニーを見張りにつけて、ノエルへの情報を遮断管理も抜かりなかったはずだ。


(だというのになぜだ。ノエル様はこの事変には、何も関わっていない)


ノエルの張った結界によって、温室内部で発生した魔力が、外に漏れる事はない。

だが、ノエルの魔力の結界を持ってしても、まるで衝撃波のような巨大な魔力の波動がエズラの元にまで風となって直撃してくる。ビリビリと、皮膚に感じる衝撃で痛いほどだ。


温室で、何か大きな出来事が起こっている。

だが、この事態を把握できるのは、おそらくはエズラと、そして魔術院の高魔力を誇る魔術師ぐらいだ。普通の人間にはただの気まぐれな突風にしか、感じないはずだ。


エズラは緊急通信魔法を温室にいるノエルと、魔術院にいるはずのロドニーに撃つ。

だが、エズラの魔術は温室に届くまでに、衝撃波の波動に飲まれて、届かないまま消滅した。


(くそ、今日歴史に起こるはずの大事件は、宮殿内での王女のクーデターだけで十分のはずじゃ)


全く予期していない温室での大魔力の発生に、エズラは混乱した。完全に想定外だ。


(作戦には、穴はない。何が起こっている)


エズラの混乱の中、今度は王都の空が稲妻が覆うがごとくカッと光り、王都に張り巡らされている王家の結界の魔力が、一斉にユージニアの魔力に変わった。


(つまり、クーデターは予定通りに問題なく遂行されているという事だ・・では、あの温室の魔力は一体なぜ)


「うわあああ??エズラ様!!!何ですかこの光???」


エズラの山車を掃除していたベスは、山車の上に急に巨大な黄金の光が立ち、四方に太り光の帯が橋を架けているのを見て大慌てで屋敷の中に転げ入ってきた。


「ベス、大丈夫じゃ落ち着け。王都の祭りの出し物はこんなもんじゃ」


エズラは、ベスを落ち着かせるために、口から大きな出まかせを言う。


「あ、そうなんですね、都会のお祭りはすごいなあ」


何せマカロンもない田舎から出てきているベスは、簡単にこの王国の歴史を揺るがすほどの大事件の目撃者となっている事にも気が付かず、エズラの言葉をケロッと鵜呑みにしてすぐに落ち着きを取り戻した。


だが、エズラの今この瞬間の関心は、エズラの横でびっくりしてケラケラ笑っているベスでも、己が策を授けた、王女のクーデター遂行の瞬間でもない。


(まずい)


エズラは、温室の内部の時空が、魔力によって不自然に歪められている。

そしてその大きな時空の歪みが、なぜかゆっくりとエズラの館の方向に迫り近づいてくるのを感じた。


「危ないベス!!」


「えええ?きゃー!!!これもお祭りの出し物ですか?ねえエズラ様????きゃー!!」


時空の歪みは急にエズラの館の空にパックリと発生し、そのまま真っ直ぐにエズラの山車ごとベスを轟音を立てながら吸い込んで、そして、何事も起こらなかったかのように、消えた。



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