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[書籍化決定・第一部・第二部完結]緑の指を持つ娘  作者: Moonshine
秋祭り

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40/130

(ノエル様は一体どうなされた)

(気が触れたと)

(気持ちの悪い虫に向かって一日話をされているとか)

(その虫に、貴重なクコの実を与えておられると)

(悪魔でもついたのか)


ヒソヒソと温室の向こうからの声が耳に入ってくるが、ノエルは何も気にしない。


「ああ、いい汗をかいた」


新しい畑の畝が完成して、ノエルは満面の笑みだ。

昨日から取り掛かっていた、温室の改造。

ここには芍薬を植えるつもりだ。薬草としても素晴らしいが、何より見目が良い。

芍薬の大きな花畑は、きっとあの娘を笑顔にしうるだろう。


「おいドラ、食事の時間だ、早く来いよ」


ノエルは探索魔術を駆使して、温室にこなくなっていた不細工なドラ猫の行方を探して、(居酒屋のおかみのところでグダグタしていたのを、法外な謝礼を出して引き取ったのだ)改めて温室に呼んだのだ。

名前を覚えていなかったので、安直なベスならばこう名づけるだろうと思い、ドラと名前をつけて、たくさん引っ掻かれながらとりあえず風呂に入れてやり、旨いものを食わせて、もう必要ないからと、エズラの編んだ敷物をドラの昼寝専用に日当たりのいいところにひいてやった。


「ナナちゃん、ちょっと待ってろ」


ノタノタと嬉しそうにノエルの後ろとついて行くのは、ちょっと見たこともないような巨大なバナナナメクジだ。


そして、この国で最も栄誉ある男が、ベスがしていたように、ちょっとだけ温室の窓を開けたり、草を間引いたり、冷たい泉から水を汲んできて、水を与えている。


「ノエル様!こんな所にお越しでしたか、早く議会においでください!」

「ノエル様、魔術院の仕事はエズラ様に引き取っていただいて、早くユージニア様との婚礼の準備を」

「ノエル様!ノエル様!」


大勢の役員が、ノエルの温室の外で大声で喚いている。

この国ではノエルの魔術の能力に適うものは誰もいないし、いたとしても、魔術院の面子くらいだろう。

ノエルの作った温室の結界を破る事はできないのをいいことに、まるでベスがいた時のような素晴らしい温室を作っているのだ。


「こんな庭師の真似事など、気がおかしくなりましたかノエル様!愚かな迷える子供よ、この私が祝福を授けにわざわざやってきたのです。すぐにこの結界を明け渡しなさい、今すぐだ!」


カンカンになって神殿の大神官がノエルに怒鳴りつける。手には祝福を授ける杖まで用意しており、何がなんでも祝福を受け取らせる心つもりなのだろう。


「そうだね」


ノエルはそれだけ言うと、庭のはじにあるスミレに水をやる。スミレは伸び伸びとノエルから水を与えられて、とても幸せそうだ。


ノエルは、外で張り付いている役人達や神官に見向きもせずに、野良仕事に勤しむ。

少し、窓の光の角度が変わった。

ノエルが、窓際の水晶の位置を変えると、温室中に小さな虹の子がいっぱいになった。


ノエルは魔術院に帰って倒れ込んだあの日から、この温室から一歩も出ていない。

少しでもベスの作り出した天国を、この手で再現したいのだ。

もうノエルは、エリクサーを完成させた。ユージニア王女は眠りから目覚めた。


ユージニアの目覚めの後、ノエルはもう何一つ欲しくなかった。


王家も、神殿も、サラトガ家も何も。


ノエルは全ての仕事を放り出して、温室で静かな日々を過ごしている。


「あ、カマキリ見つけた」


ノエルは大きなカマキリを見つけて指に乗せて、実に幸せそうだ。


「ノエル様、今日も楽しそうですね!カマキリか、かっこいいな!俺、今日の昼ごはんのお弁当持ってきましたよ。そろそろ休憩にしませんか」


ロドニーがノエルの結界の一部を壊して、ひょいと、温室の内部に入った。後ろに続こうとした役人達が、すぐに回復した結界に跳ね飛ばされる。


「イタタタ!」

「毎日飽きないね」


ロドニーは苦笑いだ。


「ああ! いつも悪いな。ありがとう」


ノエルはロドニーが結界を壊した事など気にする事でもないように、ロドニーをソファに招く。


ロドニーも当たり前のように、ソファに座って一緒にご飯を食べるつもりらしい。ノエルがちょいちょい、と魔術を使って泉の水を汲んで、二人は手を洗った。


「ノエル様! ノエル様! かくなる上は・・」


宮廷魔術師が、外で議会の審議書を持ちながら、何やら呪術を唱えている。触るものを全て腐敗させる腐敗魔法の一種だ。結界を腐敗させるつもりらしい。


ノエルは顔を少し顰めて、天候に関わる魔術を発動させた。


急に空が黒くなって、あたり一面に雹が降り出し、大きな雷が温室の外だで、発生する。


「ぎゃー!」

「神の怒りじゃ!」


外でごちゃごちゃ言っていた連中は方々に散っていった。


(天候魔法なんか・・こんな簡単に発動させる事なんか、このノエル様以外誰もいねえよ・・)


ロドニーは背筋が凍る思いで目の前の農夫のような格好をしている男を見据えた。

天候魔法は魔術の中でも秘術とされる大きな魔法だ。

この小さな規模ですら、一般的な魔法使いが一生で捻出するほどの魔力が必要とされる、大魔法だ。


そんな事はどうでも良いかのように、ノエルは目の前の弁当を開けて実に機嫌が良い。


「お、今日は鶏肉か!ついてるな」


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