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[書籍化決定・第一部・第二部完結]緑の指を持つ娘  作者: Moonshine
秋祭り

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「お帰り! どうだった? 王都」


べスの王都みやげの可愛いリボンをもらって、エイミーは上機嫌だ。


「すごく人が多かったわよ。それから、信じられないくらいかわいいお菓子が沢山あるの」


べスは、宝石のように可愛らしかったマカロンの絵を描いてやるが、絵心のないべスが描いた所で、丸い色付きのクッキーにしか見えない。あんなに美しくて、おいしい食べ物がこの世にあるなんてべスは信じられなかったのに、言葉も絵も下手くそなべスは、エイミーに伝えられなくてとても残念だ。


「それに、みんな美しい人ばかりだったわ」


べスの眼裏には、優しかった温室の面々が思い浮ぶ。

皆美しく、賢く、優しく、そして田舎娘のべスに、いろんな事を教えてくれた。一生この田舎でいたら知る事のなかかった美しい世界の姿。そして、べスの心に宝物のように輝くあの夜の魔術。


べスは、約束通りに秋祭りの前に、田舎の粉挽き小屋まで帰ってきていた。


神仙ユリの開花の直後から、べスはノエルに会っていない。


ノエルはあの日、開花した花を目にした瞬間から、警報魔法を発動し、そしてそこから一週間ノエルと、ナーランダと、そしてエズラはノエルの研究室から一歩もでてこなかった。


一週間後研究室からなにやら大きな歓声があがったかと思うと、今度は大きな転移魔法が発動されて、ノエルは消えた。その後王都は上に下にの大騒ぎとなった。


その直後からべスの耳に入ってくるのは、エリクサーの完成。王女の目覚め。大聖女の生まれ変わりの息子と、王女の年明けの婚礼の王都を騒がす大きな報せだ。


しばらくしてべスは、ナーランダが止めるのもきかずに、誰にもさよならを告げずに、温室を辞した。

やさしい温室の魔術師達に会ってしまうと、きっと泣いてしまう。


「ノエル様のお幸せを喜べるうちに、どうか私を田舎に帰してください」


そう言ったべスの言葉の意味を、聡い男は察してくれた。

ナーランダのべスの小屋の訪問を許す事を条件に、しぶしぶと内密で温室を辞する許可を出した。最後まで、ノエルに、会う事はなかった。


涙にぬれるナーランダのメイドのメグに見送られて、べスはナーランダの送りの馬車すらも断って、一人とぼとぼと乗り合いの馬車にゆられて、田舎の家にかえっていった。


近所の人にもエイミーにも秋祭りの前には帰る。そう言っているので、急なべスの帰宅を皆、ただべスが出張を終えて帰ってきただけだと、大して気にもとめない。

べスが王都の貴族の温室の世話をすると、そう聞いていたのだ。


エイミーの父親も、冬の間は王都に出稼ぎにでていて、一年のうちで半年は家をあけている。

田舎の暮らしとは、案外そんなものだ。


「もうちょっと王都にいられたらよかったわね。魔獣の毒で眠りについていた第三王女のお目覚めで、今王都はお祭り騒ぎですってね。婚約者のサラトガ侯爵家の魔術師の方が、死に物狂いで薬を完成させたとか、本当にロマンチックね!愛がユージニア王女を救ったのね!」


おとぎ話のような話に、王都は今大変な盛り上がりを見せているとか。

べスの暮らす小さな田舎にも、号外としてユージニア王女の目覚めと、王女を目覚めさせた美貌の魔術師の姿絵が配られていた。ちっともノエルに似ていないそれに、べスは苦笑して横目で眺めていた。


(本物は、もっと素敵だわ)


エイミーは、はあああー、とため息をついて絵姿を眺めている。


「本当に美男美女で、とってもお似合いよね。大聖女様の息子なんですってよ、この方。どうりで美しいはずよね。お二人の婚礼は年明けですって。私も是非あやかりたいわ。秋祭りまでに確実に素敵な恋人をつくらないと・・ってべス? もう帰っちゃうの?」


「うん、ちょっと留守の間に郵便がたまってたから。またね!」


べスは久しぶりに会う幼馴染だとういうのに、すぐにエイミーにさよならを言って、隣の自宅に駆け込んだ。


べスの自宅は、なにも変わらずにべスを迎えてくれた。

エイミーが時々風通しをしていてくれたので、帰ったばかりのべスの家は綺麗な状態で保たれている。


(ただいま、私)


べスは、昨日まで暮らしていた魔術院の寮を思い出す。

そして、その寮にべスを投げ込んだ、実に不遜だった男の顔を、思い出した。


ベスは家の玄関の扉を乱暴に閉じて、その場で、突っ伏して、泣いた。





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