バンシー
場面転換で少し英国方面を
細かい場面は無しで状況中心
それは、従来の英国空母とは違っていた。
広く、低く、長かった。
基準排水量 六万二千トン
改ライオン級の船体設計を利用し、もはや原型がライオン級だとは思えない喫水線下の形状だった。
飛行甲板は開発中のジェットエンジン使用を踏まえて、耐熱板兼用で全面装甲化さている。厚みは場所によって違うが、重いのは間違いない。
日本から導入されたアングルドデッキを採用している。
なぜブリッジと煙突を分離させているのだろう。分からん。
空母の名は「バンシー」
人の死を予感して泣き叫ぶ妖精。
ちなみに一番艦だ。二番艦の名前は「セイレーン」らしい。「モイラ」とか「ヘカテー」とかの名前も予定されているらしい。
もう偉そうな名前は止めたのだろうか。今度の名前シリーズも酷いと思うが。
死の女神関連じゃ無いか。
肝心の空母としての性能はと言うと、機関出力二十二万馬力で速力三十ノットを発揮。速力を上げるだけならもう二ノット程度いけたそうだが、船、特に空母として離着艦の安定を重視し幅広船体を採用したためこの程度になったと言う。
さて、降りるか。
俺は乗機ホーカー・シーフューリーを操り、初めてとなる斜め甲板への着艦に挑む。
俺の名は、バンシーに配属されたイギリス海軍航空隊中尉マクシミリアン・ジーナスだ。陸上では散々アプローチの訓練はやってきた。後はミラーを信じて降りるだけだ。僚機のミラルド・ファリーナ少尉も着いてくる。何か少し女っぽいのが気になるが腕は確かだ。
「おい、お前らヘボな着艦したら分かっているだろうな」
突然、無線から飛行隊長のフォッカー中佐の声が聞こえた。ヘボな着艦とは一番索や五番索に引っ掛けることだ。あと軸線をずらすことも。斜め着艦で軸線をずらすなと言うのは、かなり難しい。軸線をずらして着艦するのだ。少しはまけて欲しい。酷い事言うとパインサラダ用意するよ。
全員着艦した後で、飛行隊詰め所に集合だ。お小言だろうか。
「何名かヘボな奴がいた。後でデッキ磨きだ。初めての着艦にしても散々訓練ではやってきた。今後の訓練でもヘボな奴はデッキ磨きだ。いいな」
「ああ、そうだ。デッキ磨きの時、飛行甲板のブリッジと煙突の間には近づくな。変な風が吹いて吹き飛ばされることがあるそうだ。一応ネットを張ってあるが、吹き飛ばされて怪我をしてもつまらんからな」
「「「「了解です!」」」」
「今後しばらくは、離着艦訓練の他、艦内で迷子にならないようオリエンテーリングだ。他の部署に迷惑を掛けるなよ」
「「「「了解です!」」」」
「では解散」
敬礼で退出を見送る。
イギリスはガミチスとの軍事衝突後、戦時体制への移行と新技術を使った軍備の更新に勤しんでいた。
その一つに空母戦力の増加があった。
従来の空母では装甲甲板で艦自体の抗靱性は高かったが、搭載機数が少なく防御・攻撃とも力不足であると分かった。元々現場からは言われていたことだが、今回の実戦で明らかになった。
すでに改イラストリアス級拡大型空母であるダイダロス級六隻中三隻は就役していて主力空母だ。日本との接触時にはすでに上構部まで建造が進んでおり、アングルドデッキの導入には大改造と就役時期の大幅な遅延が確実だったので、従来型の空母のままであった。
だが、ガミチスとの接触と戦闘は早期に更なる大型空母の配備を必要と考えるさせが、平時なら継続しての研究や構想という名の妄想も捗るが、転移後の軍備縮小と景気後退で軍事予算が少なく基礎研究さえおろそかになっていた。
一から設計したのでは遅くなる。そう考えた関係者は手っ取り早く既存の大型艦の図面を流用することにした。ライオン級から大型化した改ライオン級の船体である。イラストリアス級拡大空母の図面はすでに無理があるところまで拡大されていた。更なる拡大は新規に設計をするのと変わりなかった。元がイラストリアス級拡大空母と同等の大きさの船を拡大した物だからまだ無理が利いた。早期に起工をするとして機関配置などは、出力向上のためにボイラーを増加したがそのままであった。建造中に大和が損傷復旧でドック入りしたため、水線下の形状を参考にし一部修正を行った。
1955年10月にバンシーは竣工。完熟中だった。搭載機は戦闘機シーフューリー・攻撃機シューティングスター・哨戒機ソードフィッシュを含め百二十機。格納甲板が一層であるし艦載機の大型化のため搭載機数は少ない。シューティングスターは流星の英国規格で製造された機体であった。エンジンはブリストル・セントーラスを積んでいる。ソードフィッシュは軍用機世界にあってすでに生きた化石であるが、主力攻撃機に日本の流星が採用される現実は、多くの開発失敗を語っていた。その中で使える機体として生き延びてきた。対潜哨戒ならその抜群の視界(目が六個ある)と低速安定性、長時間滞空できる航続距離、大きな搭載量。何よりも抜群の運動性は他に類を見ない物だった。
戦況は東インド大陸からガミチスを叩き出し、ドレイク島を起点にバージン島とクック島を取り戻そうかという所だ。
東インド大陸からガミチスを叩き出したおかげで日本航路の安全性が高まり、必須であるパラゴムの木の生ゴムや綿等が安定して入ってくるようになった。
そのため国土が直接戦火にさらされることも無いので市民生活や戦時生産も安定し、新技術の開発も順調だ。
新技術の中でも日本との接触後に手に入れた技術に注目すべき物も多かった。
その一つがヘリコプターである。日本はロシアから入手した技術らしいが、自分達ではうまくいかなくてイギリスにも公開して技術の進捗を図りたかったらしかった。
この技術には国内航空機メーカーの多くが手を上げ、そして去って行った。残っているのはブラックバーンとショートにフェアリーだった。いずれも後が無い会社ばかりで背水の陣とばかりに頑張っている。
ブラックバーンは艦上攻撃機の座を日本の流星に取られ、流星のライセンス生産で生き延びている。ショートは飛行艇を細々と生産しているだけだし、フェアリーに至っては化石とまで言われるソードフィッシュが頼りだった。軍の要求にしたがった結果ダメな機体も多かったが、自らの斜めさもそれを後押ししていた。軍としてはヘリコプターが物になるのかかなり不安である。
英国連邦では実現不可能な技術や物産も多数有り、特に医療関係の魔方陣やポーション・薬草などは驚異的な存在だった。日本に協力してもらい英国連邦領域で確保できないか探している。結果、東インド大陸に数カ所混沌領域が存在し、ダンジョンも確認された。今は東鳥島とシベリア大陸で日本に様々な指導を受けているところだ。自力での確保も遠くない。
議会や上流階級では、日本がもたらした情報を元に様々な議論がなされいた。特にこの世界への対応である。今までと同じやり方では拙いらしいことが分かった。
日本はこの世界に融和することを選んだ。この世界に混ざると。
ではイギリスはどうするのか?
やはり、今までのように海外から搾取を望む資本家と同じように世界に覇を唱えたい人たちの声は大きかった。いや大きくなったのだった。資源に余裕の無い中は大人しかったのであるが、ここに来てそれらの人たちが威勢良くなってきた。
だがそこに水を差したのは日本のブルドッグだった。
「もしも、イギリスが植民地経営や海外覇権を望むのであれば、日本は対決姿勢を取ることになるだろう」と。
これにはそれらの思想を持つ人たちからは非難が浴びせられた。何様のつもりだと。
そこに一声在った。
「大英帝国がこの世界に融和することを望みます」
女王陛下の一言は絶大だった。
それまでの強気な人たちは、一気に勢いをなくした。
バンシー級四隻は英国連邦の主力空母となります。ダイダロス級六隻と共に対ガミチスの主力です。
ブリッジと煙突の間には、いわゆるビル風が吹きます。
東インド大陸では橋頭堡を作られましたが、損害を出しながらも追い出しました。
次回、不定期です。




