イロガミ
「八尋! それ! それは私の肉でございますよ!」
「‥‥お前が育ててた肉はさっき自分で食っただろ」
「網に乗っけたのは私でございます!」
「馬鹿め、これを育てたのは俺だ」
あぁぁ、と悲嘆の声を上げるレーシアを無視して、八尋は牛タンを口に放り込む。程よい弾力と上品な脂が口の中で踊った。うまい。
「八尋さん、サラダです」
「お、ありがとう」
「八尋さん、飲み物なくなりそうですね、なにを頼みますか?」
「え、じゃあ烏龍茶を」
「八尋さん、お肉新しいの焼きますね」
「いや、桜花、お前も食べていいんだからな?」
甲斐甲斐しく世話を焼こうとする桜花に、八尋は言った。
八尋たち三人は、無事サリスと証拠をギルドに提示し、長い事情聴取が終わって今、少しお高めな焼き肉屋に来ていた。打ち上げである。
「そうでございますよ、桜花! 折角来たんだから食べないと!」
「私はこうしているのが好きですので」
そう言っている間にも、桜花の手によって八尋の更には綺麗に焼かれた肉が放り込まれていく。ちょこちょこレーシアの皿にも入れてあげているのは、優しさだろうか。
まだ全てが解決したわけではない。ギルド側はヒーローモンスターが倒されたことと、『ライオンハート』の人間が犯罪を起こしたことにてんやわんやであったものの、大まかに八尋たちの言い分が正しいという姿勢を示してくれた。これは同行してくれたクーシャンの影響が強い。
今回はギリギリのところでうまく行った。誰も死なず、『ライオンハート』を相手に潰されることも回避できた。
ただ、根本的な問題が解決出来たわけではないのだ。
『竜星群』という大手クランに在籍するクーシャンが助けてくれたから、ギルド側も新人パーティーでしかない八尋たちの言い分をしっかりと聞いてくれた。もし『ライオンハート』が本気で組織の力を振りかざせば、社会的な攻撃で八尋たちを追い詰められるだろう。
なら、それに対抗するためにはどうすればいいか。
八尋は桜花と、彼女が焼く肉を横から強奪しようとするレーシアを見て、ふと口を開いた。
「なあ、二人とも」
「どうかしましたか?」
「なんでございますか?」
キョトンとした顔で振り返る二人に、八尋は自分の中で考えていたことを言葉にした。
「クランを作ろうと思うんだが、入らないか?」
この言葉が、後にレビウムを巻き込んで巨大な旋風を吹き荒らすクラン、『イロガミ』、その結成の契機となるのだが、この時の三人はそんなこと露知らず、軽い気持ちで語り合いながら、焼き肉を口に運ぶのだった。
ご愛読ありがとうございました。
これにて『女性経験ゼロのEランクでもハーレムが作れる気がする――何故なら、神殺しだから』は完結、という形にしたいと思います。
これまで読んでくださった方、感想を書いてくれた方、評価してくれた方には申し訳ないのですが、やはり新人賞用の作品を書こうと思うと、時間が足りてないのが現状ですので、こういった結論に至りました。
また機会があれば、この作品の続きが書ける日が来るかもしれないと夢想しつつ、一度終わりにしたいと思います。
これまで、本当にありがとうございました。
また別の作品で会える日を楽しみにしております。




