会議
すいません、短時間で書いて投稿したのでオーナーの口調がブレッブレだし、誤字脱字凄いし、矛盾もあるして訂正しました。申し訳ないです‥‥。
「それではこれより、低階層において確認されていたヒーローモンスター、『ヴィード』が討伐された件について、緊急対策会議を始めたいと思います」
ギルドの中でも特に重要な会議が行われる会議室で、ギルドの仕事を取り仕切る幹部たち、それとどうしてかただの受付嬢でしかないミスティが招集されていた。
エメラルドの髪を美しく結い上げたミスティは、受付嬢として確固たる地位を確立しているが、それでもギルドの中で見ればあくまで一社員でしかない。
少なくとも、こんな話しかけることさえ難しいギルドの幹部たちが雁首揃えるような会議に参加する立場ではない。
受付嬢たちを総括する上司に、ここに呼ばれて座らされた時から、驚きと何かしでかしたかという不安から冷や汗が止まらなかったミスティだが、始まりの言葉に思わず声を上げそうになった。
(ヴィードが討伐された!?)
受付嬢としてそれなりに経歴を持ち、また受付嬢になるためにダンジョンの勉強をしてきたミスティは勿論ヴィードのことをよく知っている。
過去にギルドが討伐隊を組んで返り討ちにあい、大手のクランでさえ討伐依頼を受けようとしないモンスター。
長い間脅威を認識しながら放置せざるを得なかった、ギルドにとっても冒険者にとっても目の上のたんこぶな存在だった。
そのヴィードがついに討伐されたというのだ、驚くなというほうが無理である。
それが本当なら、レビウムは暫くの間お祭り騒ぎになるはずだ。
(それにしてもヴィードを討伐するなんて、一体どこのクランが‥‥‥‥)
ミスティは最近評判になっているクランをいくつか頭に浮かべた。
ヴィードを倒せるクランといえば、やはり大手の『竜星群』や『ライオンハート』、『鉄血騎士団』、『ナイトウォーカー』。
他にもいくつか候補が思い浮かぶが、それらのクランメンバーならダンジョンの低階層に潜れば覚えているはずだ。
ならば新興のクラン‥‥と幹部たちに囲まれているのも忘れてミスティは考えてみるが、ヴィードに勝てそうなクランはまるで思い浮かばなかった。
「ヴィードを討伐‥‥ですか」
そんな中、口を開いたのは中年の男だった。スーツ姿に、いたって普通の体系。特徴といえば、頭が少しばかり寂しくなっているくらいだろう。まるで冒険者とは縁もゆかりもなさそうなこの男だが、ギルドの広報を担当する幹部だ。
物腰も柔らかく、これといって何が秀でているようにも思えないが、広報として決して間違った情報を流さず、世間に必要とされるものは何か、流れを見極めるのに長けた男だった。
「信じられんかね?」
そんな広報の幹部に声をかけるのは、この会議室において最も力を持つ男。
壮年にも関わらず、はち切れんばかりの筋肉をスーツに押し込んだ厳つい面構えの男は、片眼を黒い革の眼帯で覆っていた。
このギルドの最高権力者、ギルドオーナーその人である。
冒険者でも竦み上がりそうな鋭い片眼に見つめられ、それでも広報幹部は柔らかな口調で返した。
「まあ皆さんも討伐隊が壊滅したことは記憶に新しいと思いますし、中々そう言われて信じろという方が難しいですね。そもそも一体誰が倒したというのですか? 私の記憶が正しければ、今日低階層に潜っている冒険者でそれだけの実力者はいなかったと思いますが‥‥ああ、確か竜星群のメンバーが一人だけ短時間潜っていたようですが、それだけです」
広報幹部のその言葉に、ミスティは舌を巻いた。
直接冒険者と相対している受付嬢ならともかく、直接的には関係ない広報幹部の男が、それを把握していることに驚いたのである。
「いや、全くその通りだっつーの。こっちはいきなり呼び出されてそんなこと言われてもさ、ちっとばかっし変異したモンスターをヴィードと勘違いしたとかじゃねーの」
そう言ったのは、鮮烈な赤紫の髪を一つに結わえた、タンクトップ姿の美女だった。その豊満な身体が、窮屈そうにタンクトップを押し上げている。
ギルドの物資、特に武装を管理する武器庫幹部の女だ。
それに続くのは、七三にしっかりと分けた髪と黒縁の眼鏡が光る会計の男。
「その可能性はありますね。前のギルド討伐戦では記録担当の人間まで殺されたせいで、ヴィードの情報自体曖昧ですし」
(変異種‥‥確かにまだ経験の浅い冒険者なら、少し強いモンスターと戦ったらヴィードと勘違いするっていうのはありそうな話ね)
未だ何故自分がここに座っているか分からないミスティは、ぼんやりとそんなことを考えていた。
だが、果たしてそんなろくに確認も取らずギルドの全幹部が招集されるだろうか。
きっと幹部たちも何かあるとは分かっていても、否定せざるを得ないの。それ程までに、ヴィードという存在の脅威を正しく認識しているのだ。
オーナーは一通り幹部たちの声を聞くと、「確かにそう思う気持ちも分かるけどな」と言いながらある物を取り出した。
「その討伐した冒険者は、しっかりとこれを渡してくれたんだ」
「なっ‥‥!」
「それは」
「――っ!」
オーナーの取り出した物に、幹部たちは驚きの声を上げ、何人かは思わずといった様子で立ち上がった。
それは、鮮やかに赤く輝く魔石だ。その大きさ、色、感じる霊力から、全てにおいて最高峰の品質だということが分かる。
受付嬢としてトップクラスの冒険者にボスモンスターの魔石を見せてもらったこともあるミスティでも、これ程の魔石を見たことはなかった。
「これを見せらては、ただのガセとは言えまい? ついでにもう一つ、面白い物も預かっている」
オーナーはそう言って笑った。
「‥‥面白い物とは?」
「まあ、そう焦らないでくれ」
興奮を押し殺した声で尋ねる広報幹部の男を手で制すと、オーナーは立っていた秘書に目配せする。
すると、会議室に備え付けられたモニターに光が灯った。
「これは、どうやら、いくつか面倒な要素が絡み合った結果、低階層に行っていた竜星群のメンバーが撮影した代物だ。まだ当事者たち以外には誰も見てない、シークレット中のシークレットだ」
竜星群という言葉に幹部たちが眼を細めるが、何よりも、オーナーのキラキラと輝く瞳に幹部たちは注目していた。
あれはまるで、トップの冒険者に憧れるニュービーのようではないか。
そして、静まり返った会議室の中で、モニターがその映像を映し出した。
それは、どうやらダンジョンの中で撮影したものらしい。
暫くの間は撮影者が何かを探すようにする仕草が続き、そして、ついにその光景がけたたましい音と共にカメラに映った。
深緑の甲殻に、風を纏う人型のモンスター。震える四枚の羽は、画面越しでさえ重苦しい圧を与えてくるようだ。
ただの変異種などと間違えるはずもない。まさしくヒーローモンスターという名が相応しい威容、ヴィードだ。
そして、それに相対する冒険者の姿もまた映しだされていた。
白髪に小柄な身体。宙に霊装を浮かせるその人を見た瞬間、ミスティは思わず声を上げそうになった。
(八尋くんっ!?)
そう、そこに居たのはミスティが普段から受付をしている新米冒険者、仙道八尋と姫咲桜花だったのだ。そうなると、恐らく隣にいる黒い鎧はレーシアだろう。
普段は様付で呼んでいても、心中では弟のような年齢の八尋を君付けで呼んでいたミスティは驚きに口をぽかんと開けた。
そして、そうしている間にも八尋とヴィードは戦い始める。
それは、もはや人が戦っている光景ではない。
嵐を纏うヴィードの攻撃を受ける銀の剣が空を舞い、更にはその身体に傷をつけ始める。
だがヴィードもまた少しも臆さず、八尋へと殴り掛かる。
お互いの命を削り合うような、まるで神話の再現染みた戦闘。
その映像が流れたのは、五分にも満たない時間だったろう。
最後にはレーシアがヴィードに組み付き、八尋がどういった原理かも分からないが、雷を召喚してヴィードを貫くことで勝負が決まった。
全ての幹部たちは映像が終わった後も呆然としている者がほとんどで、中には冒険者上がりの幹部たちは歯を向いて普段は見せない獰猛な笑みを浮かべている。
オーナーもまたその一人だった。
「さて、もはや疑惑の言葉は必要あるまい。わずかにギルドが持つ情報ではヴィードは巨大な甲虫のような姿だったと聞いているが、簡単に聞いた程度では、なんでも進化したそうだ。モンスターがな」
オーナの言葉に数人の幹部が声を上げて驚くが、その中で獰猛な笑みを浮かべていた一人、武器庫幹部の女が重く低い声でオーナーに言った。
「焦らすなよ。私たちが今聞きてーのは、んなことじゃねえ。今更あれがヴィードかどうかだって正直どうでもいい。‥‥問題は、あの冒険者が誰かっつー、それだけだ」
幹部たちが、黙ってオーナーを見つめた。
その時、オーナーの視線がはじめてミスティを見る。
(ひぅっ!)
そのモンスターすら射殺しそうな眼光に、ミスティは震えた。
そして、オーナーは笑いながら言う。
「ああ‥‥その通りだな。そこの受付嬢、ミスティさん。君なら私よりもよく知っているだろう、彼らのことを」
直後、幹部たちの視線が一斉にミスティに突き刺さった。
身構えていなければ、失禁しそうな視線の重圧に、ミスティは乾いた喉でなんとか言葉を絞り出す。
「は、白髪の少年が仙道八尋様。彼をサポートしていたのが姫咲桜花様。そして黒い鎧を着ていたのは、恐らく過去にヴィードと遭遇したことのあるレーシア様だと思われます。全員、学園の生徒で、八尋様と桜花様は今年入学したばかりです」
ミスティからの情報に、幹部たちはいっせいに色めきだった。
「なんだと、あれが新入生!?」
「見たことがないと思ったら」
「そもそもあの霊装は一体どういう仕組みなんだ」
次々に交わされる議論に、ミスティはなんとか忘れていた呼吸を繰り返す。
寿命が一気に縮まった気分だ。
そこへ、オーナーの言葉が響き渡った。
「さて、驚愕もあるだろうが、こちらとしてはこの優秀な冒険者をサポートするためにも、すぐに動く必要がある。そうだろう?」
その言葉に、幹部たちは当然だと頷いた。
間違いなくあの八尋という少年は他の大手クラン、そのクランリーダーたちに匹敵する力を持っている。
優秀な冒険者を逃さないために、ギルドは最大限の便宜を図らねばならないのだ。
「ああ、だが本人は目立つのを避ける傾向にあるようでね。‥‥ただ、既にライオンハートとも事を構え、竜星群のメンバーとは個人的に交友関係を持っている。ギルドとしては、ここでライオンハートに余計な茶々を入れられても面倒だ」
「ライオンハートと竜星群も既にヴィードが倒されたことを?」
「いや、竜星群はともかく、まだライオンハートは知らないはずだ。だからこそ、早く動く必要がある」
ライオンハートの傲岸不遜な行動原理をギルドは正しく理解している。故に、幹部たちは全員沈黙によって肯定の意を示した。
「故に、ここで仙道八尋とそのパーティーをゴールドクラスに位置付けることとする。そして、ミスティ・ブライテット――君を彼らの専属受付嬢に任命する。くれぐれも、彼らの冒険が滞らないように頼むよ」
「はっ、はい! 承りました!」
オーナー直々の辞令に、ミスティは立ち上がって深々と頭を下げた。だがその内心は、嵐もかくやという状況だった。
(ご、ゴゴゴゴールドクラスの専属受付嬢!?)
実はギルドでは公式のランクとは別に、冒険者をクラス分けしている。それは、所謂ギルドにとって優待すべき相手かどうかを定めたものだ。
その中でもゴールドは最高のプラチナクラスの一歩手前。プラチナクラスが大手クランのリーダーにしか与えられていないことを考えれば、ゴールドは個人の冒険者にとっては最高のクラスである。
その冒険者の専属受付嬢となれば、受付嬢の中でも最高クラスの役職だ。
ミスティの知る限り、ゴールドの一つ前、シルバークラスの専属でさえ受付嬢の中では憧憬を集める対象なのだ。
混乱するミスティを置いて、オーナーは静かに、しかし重い口調で言った。
「ヴィードの魔石とその素材の取り扱い、そして仙道八尋とその周囲の保護について、各員でもよく考えて動くように。詳しい方向性は追って決めることにしよう。では、新しい英雄の誕生に、祝福を」
そうして、会議は終わった。
だが、これも全ては始まりでしかないのだ。
神殺しが巻き起こす騒乱の、ほんの序章が幕を閉じた。ただ、それだけのことなのである。
すいません、ストックもなくなり、中々書ける時間が取れていません。
なんとか週一でも更新は続けていきたいと思いますので、よければお付き合いください。




