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あるー日ー、森の中ー

遅くなりましたが、本日二回目の更新です。

「そういえば、レーシアの霊装ってどんなんなんだ? 俺の霊装はレクトとの戦いの時にも見たと思うが、基本的にアタッカーだと思ってくれていい」

「そ、そうでございましたね。ではモンスターに遭遇したら見せるのでございますよ」

「そうか、じゃあ桜花の紹介もその時でいいか」

「分かりました」


 じゃあまずは密林の探索と行くか、と八尋は歩き出す。


 レーシアやミスティの言う通り、モンスターの出現傾向が変わったらしく、ダンプーやモックがこれまで以上に見られるようになった。


 だが結局雑魚は雑魚。ダンプーはこれまで通り無視し、飛んでくるモックは機片を突き刺して対処する。


 そんな中それが現れたのは、密林に入る丁度入り口のところだった。


 独特の擦過音を立てて、樹々の隙間からモンスターが顔を出す。


「こいつは、『レザード』だったか」


 苦手な授業の中でも比較的ちゃんと受けているモンスター講座の記憶を引っ張り出す。


 レザードは言ってしまえば、大蜥蜴だ。緑と黄の鱗に全身を包み、たくましい四肢で森の中を走る。武器は太く短い牙と、長い爪だ。


 レザードは黄色い目で木の陰からこちらを伺っている。


(一体じゃないな、全部で六体か)


 前に出ている一体に釣られた人間を、自分たちの得意なフィールドで一気に仕留めるつもりなのだろう。案外に賢い。


 密林に入る手前で足を止めた八尋は、隣でレザードを睨んでいるレーシアに話を振った。


「レーシア、折角だし戦い方を見せてもらってもいいか? 俺は後ろで援護するから」

「は、はい! 分かったのでございます!」


 ビクゥッ! と震えたレーシアはいい声で返事をし、一歩前に出る。


 同時に彼女の霊力が高まっていくのが分かった。


 パーティーを組んでいるのにおかしな話だが、八尋たちはレーシアの霊装を全く知らない。


(役職で考えるなら、タンクかアタッカーを出来るタイプがいいんだが‥‥)


 そう考える八尋の前で、レーシアの霊力が限界まで集められる。


 直後、光が彼女の小柄な身体を包み込んだ。


「『ファルウート』!」


 レーシアの声が霊装の名を告げ、光が治まった時、そこには彼女の霊装が顕現されていた。


 それは、レーシアの全てを覆う巨大な鎧だ。


 光を吸い込むような漆黒に、メタリックシルバーなラインが関節部や各所に走る。全体的なシルエットはとにかく分厚くて太い。両腕に装備された丸盾と片手剣が非常に小さく見える程で、丸みを帯びた兜には何故か可愛らしい耳のようなものがついている。


 その姿を端的に言い表すとしたら、


「‥‥熊?」

「熊ですね」

「やっぱり熊だよな」

「熊ではないのでございますよ! ファルウートです!」


 八尋と桜花の言葉に、フルアーマーレーシアが振り向いて反論するが、その姿はどう見ても金属製の熊だ。


 兜のスリットから金色の光が眼となって輝いた。夜には便利そうである。


「まあ、見た目はどうあれ役割的にはタンクだよな?」

「前半の言葉が気になるのでございますが‥‥確かに私が得意としているのはタンクでございますね」


 そう言ってレーシアはガッシャンガッシャン鎧の拳同士を打ち付け、レザードの注意を引く。


 剣も所持しているのでアタッカーも兼任出来そうだが、やはりこの巨体と重厚さならタンクだろう。


「見ていてください!」


 レーシアは威勢よくレザードへと突っ込んだ。


 動作性は悪くないようで、意外にスピードを出しながら密林へと突入する熊、もといファルウート。


 しかし、


「ふぁ!?」


 突き出した剣は容易くレザードに避けられ、八尋の読み通り複数のレザードが一斉にレーシア目がけて跳びかかった。


(そりゃまあ、無策で突っ込めばそうなるわな)


 この密林は動くのが難しいほど樹が生い茂っているわけではないにしても、巨体のファルウートが自由に動き回れる程のスペースはない。そうなれば小回りが効いて樹にも上れるレザードを捉えきれるはずもなく。


「ふぁぁああああああああああ!!」


 レーシアはもの凄い勢いでレザードたちに集られていた。黒い鎧が、緑の鱗に埋め尽くされ、まるで迷彩柄だ。


 しかしその分厚い装甲を蜥蜴の牙や爪で貫けるはずもなく、中の彼女は元気いっぱいに叫んでいる。


 日常的な動作から分かっていたが、やはりレーシアの戦闘力は高くなさそうだ。ただファルウートの存在感が、纏う霊力の質も相まって結構なものなので、モンスターからの注意、いわゆるヘイトは大きく稼いでいる。


 おかげでレザードは八尋たちには目もくれず、一心不乱に歯の立たない熊の鎧を齧ろうとしていた。


「‥‥あの、助けてあげなくていいのですか?」

「ん、そうだな。ちょっと面白かったから放置してたけど、助けるか」

「酷いのでございますよぉぉおお!」


 おお、聞こえてた。案外あの丸耳は飾ではないのかもしれないな、と八尋は思いながらアンリエルを発動する。


「よっと」


 そして複数の機片が射出された。


 レクトには容易く弾かれた機片でも、いわば高速で飛来するスローイングダガーに等しい。


 特殊な力を持たないレザードに防げる道理はない。


 ――ギッ、ジャァッ!


 レザードたちは鮮血と断末魔の声を上げて、次々に機片に突き刺されて地面へと落下していった。


「あ、ありがとうございます」


 身体にへばりついたレザードの死体を払い落としつつ、レーシアが頭を下げた。


 ただ未だその身体はファルウートに包まれているため、巨大な熊に上から見下ろされているようにしか見えない。


 ある~日~森の中~くまさんに~、というワンフレーズがなんとなく頭に浮かんだ。


「いや、レーシアが引き付けてくれたおかげで簡単に倒せたしな」

「‥‥本当でございますか?」

「嘘言ってどうするんだよ。確かにレーシア無しでも倒せたとは思うけど、先を見据えるとやっぱりちゃんとしたタンクやってくれる人がいるとありがたい」


 やろうと思えば八尋一人でもタンクとアタッカーを両方こなすことも出来るだろうが、当然その負担は大きくなる。


 見た所レーシアのファルウートは相当な防御力を誇っていそうなので、タンクとしては十分見込みがある。


「俺は見ての通りあんまり耐久力ないしな」

「そ、そうでございますか。すみません、私攻撃はあんまり得意じゃなくて‥‥」

「その辺りは、俺で良ければ多少は教えられるぞ。多分学校の先生に聞いた方がいいと思うけど」


 八尋は姫咲家で教わった剣術を思い出しながら言う。ただそれは八尋に合った剣の使い方であり、熊が使う剣術や盾術は流石に知らない。


 ただレーシアはそれでもいいらしく、更に勢いよく頭を下げた。


「よろしくお願いします! 教師からは半分見限られているのでございますよぉ」


 それは相当だな、と八尋は苦笑いした。


「‥‥八尋さん、魔石集め終わりました」

「あ、すまん桜花。完全に任せきりにしてた。結局桜花の霊装見せる場面もなかったし」

「問題ありません」


 そう言って桜花はマジマジとファルウートを見つめる。


「ど、どうかしたのでございますか?」

「‥‥いえ、血も綺麗に消えるのだと思いまして」


 桜花の言う通り、レザードの血に汚れていたはずの鎧は黒光りしている。


「そうでございますね、モンスターの死体も血も光になりますし。ただやっぱり頭から血を被ると気持ち悪いですけど」


 その辺は微妙に八尋の知っている鬼と違う。塵となって消える者がほとんどだったが、返り血はそう簡単に落ちない。


 モンスターも八尋たちの知る鬼も本質的には同じものだと思うのだが、


(やっぱり成り立ちが変わると在り方も変わるんだろうな‥‥この天理の塔が特殊だって気もするけど)


 そんなことを考えながら密林の行く先を見た時、八尋は目を細めた。


 隣に立っていた桜花も、弾かれたように八尋と同じ方向見る。


「八尋さん」

「ああ、足音がするな」

「へ? え、足音でございますか?」


 狼狽えるレーシアを放って、八尋は耳に神経を傾けた。


 間違いない。土の上を駆ける音が徐々に近づいて来る。


 一人じゃない。足音の重さからして人間だろう。複数の足音が、なにか急くようにこちらに向かって来ているのが分かる。


「桜花、レーシア。一回平原に出るぞ」

「分かりました」

「わ、分かったのでございます」


 見通しが悪く、動きにくい密林で待つ必要はないと判断し、三人は密林の外に出た。


 その間にも、足音は近づいて来る。


 八尋たちが平野に出て振り向いた時、足音の正体は草木を書き分けて飛び出してきた。


「あっ! 冒険者!?」

「お前らはやく逃げろ! あいつらが来る!」


 密林から飛び出て来るなりそう叫んだのは、三人の冒険者パーティーだった。


 エレメンタルガーデンの制服を着た、男二人、女一人の構成だ。


 しかし軽装の女は負傷しているのか、同じく軽装の男に背負われ、しっかりとしたアーマーを着こんだ男は後ろをしきりに気にしながら走っている。


(何かに追われているのは明白。後はここで迎え撃つか、あるいは彼らと一緒に逃げるか)

 油断なく密林を見据え、八尋は思案する。下手なリスクを回避するならば、後者一択だ。


 だが、


「ぉい、はやく、逃げろ‥‥」


 女を背負った軽装の男が、息も絶え絶えな様子で八尋たちに言った。


 アーマーを着こんでいる男の方も体力的に限界のようで、背負われた女に至っては完全に意識を失っていた。よく見れば三人とも大小様々な傷を負っている。


 それを確認した瞬間、八尋は声をあげた。


「桜花、後ろに下がって彼らの手当てを。レーシア、盾を構えて俺の横に来い」

「はい、分かりました」

「は、はい!」


 その言葉に、駆けてきた男たちは驚いたような顔をして、そのまま八尋の後ろまで走っていく。


 緊張気味のレーシアを伴って、八尋は機片を展開しながら不気味に広がる密林の影を見据えた。


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