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娘の特技は暗殺術  作者: すっとこどっこい
学校&王宮編
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五年目 後期 その4

 王弟が倒れるのを横目に、シンシアが座り込んだマリスに駆け寄った。

 合わせて、倒れている人の間からグルケが立ち上がった。


「マリス様、大丈夫?」

「死なない程度って言ってたから、気功で防御できないかと思ったけど、あまり関係なかったかな」

「お前、直撃食らってよく動けるな」


 よく動けたものだ、と他人事のようにマリスがつぶやく。

 マリスは周りを見渡し、倒れている人たちを眺める。


「あらかじめ来ると解っていたというのも大きい。でも、後の始末は任せた」


 言って、マリスは座っているのも辛いとばかりに、崩れるように倒れた。

 シンシアが慌てて抱き起こし、そのまま抱えて外に連れて行こうとする。


「シンシア、助かった。ありがとう」


 シンシアの背中に向けて、グルケが礼を言う。シンシアは振り返り、笑顔を向けた。


「マリス様が存分に挑発したし、来ると思った瞬間に、引き倒しただけ。どうってことないわ。それよりも、後始末をお任せするわ」

「解ったよ」


 シンシアはそのまま部屋を出て行った。

 グルケは人を呼び、国王の世話、医者の手配、王弟の死体処理などを進めた。



「暇。そろそろ動いても問題ない」

「駄目です。身体中、至るところに火傷を負って、まだ治っておりません」


 ゴドウィン邸の自室でマリスは寝台に寝転がっていて、動こうとするたびにカティに止められていた。

 王弟が倒してから二日、マリスは医者に安静を言い渡された。他に、謁見の間で雷を受けた連中が軒並み火傷等で職務に就けず、一時的に人手不足に陥っている。


「でも、国王のお見舞いも行きたいし、バーネットの手伝いもしたいし」

「出かけるにしても、もうすぐお昼です。食事をして火傷のお薬を塗って、お医者様に許可をもらってからにしましょう」

「うん。ちょっとは身体を動かさないと、治るものも治らなくなる」

「そんな奇特な方は、お嬢様だけです」


 マリスは火傷に響かないよう丁寧に身体を起こして、ゆっくりとカティが用意したご飯を食べる。

 普段より時間をかけた食事を済ませて、身体中についている火傷跡に薬を塗ってもらう。


「終わりました。では、お医者様を呼んできますね」


 カティは寝台から出ないように重ねて念押しして、部屋から出ていく。

 マリスは素肌に包帯を巻かれた腕を上下にゆっくりと振りながら、手のひらを握ったり開いたり、と感触を確かめる。


「問題ない。カティは心配しすぎ」


 つぶやき、どさりと背中から倒れ込む。カティが医者を連れて戻ってくるまで、しばらく身じろぎせず目を閉じていた。



「お嬢様、お待たせしました」

「そんなに待ってない。先生、ちょっと出かけても大丈夫かな?」


 カティと一緒に部屋の中へ入ってきたのは、初老の医者だった。何人かいる宮廷付きの一人で、腕は確かだ。


「動かして痛みはないですかな?」

「今、手を動かしていたけど、何ともない」


 マリスは言いながら、寝台から出て、ゆっくりと歩く。


「急な移動をしなければ、歩くくらいは問題ない」


 医者はマリスを椅子に座らせ、腕や足の包帯を取り、火傷の経過を見ながら許可を出した。


「そうですな、少し動く分には問題ないでしょう」


 医者からの許可が出たので、マリスはカティに手伝ってもらいながら寝間着から外出用の服に着替える。


「カティ、ありがと。じゃあ行こう」


 用意された馬車に乗り込んで、マリスは王宮へと向かった。



 王宮に到着したマリスは、国王への面会を申請して、待ち時間でバーネットとグルケに会いに行った。


「呆れたな。お前、何動いてんだ」


 部屋に入るなり、グルケがマリスに座るよう言いつける。言われた通りに座りながらも、マリスは反論を口にした。


「問題ない。寝てばかりも辛いし、医者の許可も出てる」

「それより、マリス。叔父上の問題、すべて押しつけてしまってすまなかった」

「バーネット、王弟の問題はあなたが責任を感じるものじゃない。王弟と戦って勝てるのが私だっただけ。これから王宮内の問題を解決していけるのはバーネットだけ」


 マリスがバーネットを激励していると、グルケがぼそりとつぶやく。


「マリス、後の問題に関わる気ないだろう」

「ない。事後処理なんて面倒」


 まあいいか、とグルケとバーネットが笑い合う。

 マリスが話を聞くと、王弟が死んで王宮内を我が物顔で歩いていた王弟派閥の貴族は息を潜めており、今後どうなるのか、様子見をしている者がほとんどらしい。


「バーネットが王になれば、すぐに落ち着く?」

「それはそうなんだが、一つ、お前にとって厄介な話が上がってる」


 首を傾げたマリスに、グルケから説明がされる。


「王弟と戦った時にバーネットはおらず、お前がいただろう? あの場にいた貴族たちが、大事な時に陛下が頼りにしているのはバーネットじゃなくてお前なんじゃないかと」


 グルケの言葉に、マリスが顔をしかめる。


「馬鹿なことを考える人もいるね」

「ああ、そう思う。それで、陛下はお前を次期国王にするんじゃないかと噂もある」


 マリスは腕を組んで考え込んでいたが、すぐに良いことを思いついたと提案する。


「私も、グルケと一緒に王位継承権を返上すればいい。そうすれば後に禍根を残さない」

「お前ら、簡単に言うが、そんなすぐに返上なんてできないぜ」


 バーネットが言うには、何らかの大きな不祥事を起こすくらいしか、普通は王位継承権は失わないらしい。


「そこは、陛下が言えばそれでいいんじゃないの?」

「国王だからといって、というよりも国王だからこそ、決まりを破るわけにはいかない。それが元になって、マリスを支持する連中が反乱を起こす危険性すらあるからな」

「むう。それは困る」


 良い案がないか、と考え込んでいるうちに、国王からの呼び出しがかかって、マリスは席を立つ。


「ついでだ。俺たちも行こう」


 バーネットも立ち上がり、三人で王のところへ向かった。



 国王の私室に到着して、三人揃って中に入る。


「マリス。よく来た」

「はい、陛下。先日はご無礼をいたしました」


 二日前に比べても若干疲れた様子の国王に、マリスは挨拶をした。


「何を言う。よくぞ弟を止めてくれた。どこで道を踏み外したのか、気付けなかったわ……」


 少し落ち込んだ風につぶやくと、顔を上げて話題を変える。


「知っての通り、儂ももう長くない。動けるうちに、バーネットに王位を譲ろうと思っておる。しかし、サイモンは消えたが、他にも二人ほど、僅かな火種が残っているのを知っているか?」


 ピリッと室内に緊張が走る。マリスは慎重に声を上げる。


「そう……ですね。ですが、グルケは継承権を返上すると意思表示していますし、私も同じ考えです」

「ふむ。しかしな、グルケはともかく、お前は返上して終わり、というほど簡単に周りは納得せぬよ」


 ゴドウィン公の娘で、色々と目立ってきたマリスは、グルケとは立ち位置が違うと説明をする。


「ところで、マリスよ。お主、今後もパピィと言ったか、竜の面倒は見ていくつもりだな?」

「はい。それは当然。義務でもありますが、私自身もパピィは手放したくありません」

「竜はまだまだ大きくなる。王都で飼うには無理が出てくるじゃろうな」


 国王はいったん言葉を切り、考える素振りを見せる。


「隣国との関係もまだまだ油断はならん。境界付近の土地は、王家の直轄地のまま置いておくよりも、ローリー辺境伯に匹敵する有力貴族が管理する方がよいとは思わぬか?」


 急に話が変わって、首を傾げながらもマリスは肯定する。


「そうですね。何度も越境を許すような甘い国だと思われるのはまずいですし、候補があるのでしたら、管理を任せる方がよいかもしれません」

「賛成してくれるか、ならば話は早い。マリス、お主に公爵の称号を与える。ローリー辺境伯と連携して、隣国の動きを牽制せよ」


 え、と固まったマリスに対して、途中から予測していたグルケが声をかける。


「良かったじゃないか。シンシアも学校を卒業したら戻るだろうし、比較的自由に行動もできるし」

「いや、そういう問題ではなく。陛下、おっしゃる内容に反対はしませんが、公爵位はそれほど簡単に……」


 反論を口にするマリスに、国王が重ねて命令を下す。


「そうは言うが、公爵位は元々王家からの分家筋に振り分けて増えていったものだ。お主が名乗るには、なんの不足もあるまい。王都から離れるとはいえ重要地点な上、そこそこに豊穣な土地柄だから、充分に益も出よう。王宮内でも、お主をないがしろにした判断とは取られまいよ」


 理詰めで攻められて、マリスは反論を諦める。

 言われる通り、王宮に残っても窮屈だし、パピィの世話に困る。出奔も視野に入れていたが、土地をもらって田舎で暮らすのは悪くなさそうだ。


「ご配慮、ありがとうございます。謹んでお受けいたします」


 そうしてマリスは公爵位を得て、学校の卒業を待って領土を持つこととなった。

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