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娘の特技は暗殺術  作者: すっとこどっこい
学校&王宮編
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五年目 前期 その5

 マリスが天幕に戻ると、カティから話を聞いたようで、シンシアに詰め寄られた。


「マリス様、いくらなんでも魔物化したオオカミ三匹は無茶じゃなくって?」

「退治したのは三匹だけど、私が相手したのは二匹」


 首を傾げるシンシアに、事情を説明する。


「まあ、竜だし、魔物化しているとはいえオオカミに負ける心配はないでしょうけど」

「うん。思ったよりずっと強かった。オオカミは下手したら私より速いくらいだけど、魔法で牽制しながら立ち回っていた。そうそう、パピィは土属性みたい」

「そうなの。でもマリス様、今の時点でかなり強いっていうのは、戦争に使われたりしないか心配ね」

「大丈夫。解ってる。シンシアとカティ以外には、ディルにも言わない。アマンダ先生にも言ってない」

「竜の研究をしている人はご存じかもしれないけど、考えてもしょうがないわね」


 マリスが先ほど様子を見に行くと、草を食べるだけ食べて、すやすやと眠っていた。今日は魔力も使ったので、疲れているのだろう。


「それより、アマンダ先生が言っていた一波乱って?」

「よく解らない」


 二人が首を傾げていると、外からグルケの声が聞こえてきた。


「ちょっと入っていいか?」


 許可を得てから、グルケが天幕の中に入ってくる。オオカミを退治した時の話を聞きたいようで、マリスが説明すると真剣な様子で聞き入っている。


「俺も最近聞いたんだが、昔、クマに襲われただろう? あの頃から、というかあれがきっかけで、隣国の奴らが魔物を操れるようになったんじゃないかって噂があるらしい」

「操るって、どのくらい?」

「せいぜい進む方向を決める程度らしいけどな。何か薬を使うとか。情報源は王宮の外交官だから、それなりに信憑性は高いと思うぜ」


 マリスとシンシアは顔を見合わせて、頷きあう。


「アマンダ先生が言ってたのはそれだね」

「あの方の情報源はどこなのかしらね。色々と詳しいわよね」

「ディルと仲が良さそうだった。話してるところは見た覚えないけど」


 シンシアは軽く流したが、グルケが何の話かと食いついてくる。マリスはアマンダとの会話内容を伝える。


「そりゃ、怪しいな。あ、いやアマンダ先生が怪しいんじゃなくて。状況がな」

「あのオオカミ三匹も、操られていたってこと?」

「まあ、そうだな。そうなると目的は俺やお前だ。合宿に来ちまったのは失敗だったか?」


 グルケは悩んでいるようだったが、マリスは気にした様子もなく言い切る。


「来ている以上、言ったところでどうしようもない。早めに寝て、あるかもしれない襲撃に備える」


 話し合っていても事態は改善しないと結論づけて、話を終わらせる。早めに食事をして、マリスたちは普段より早く就寝した。



 夜の間に問題は起こらず、朝を迎える。カティに起こしてもらい、マリスは目を覚ました。


「おはよ。何もなくて良かった」

「マリス様、おはよう。そうね、夜中に魔物討伐なんて、できるだけ避けたいものね」


 カティに手伝ってもらいながら朝の準備を済ませたマリスは、朝食の前にアマンダに相談をするため、シンシアと一緒に教師用の天幕へ足を運んだ。


「アマンダ先生、おはようございます。ちょっと相談したいのですが、よいでしょうか?」

「ああ、マリスにシンシア。こちらから行こうと思っていたところだ」


 昨日の夜に教師で話し合い、合宿の日数を縮めて、今日から帰り始めるとアマンダは説明した。マリスにも異論はなく、補足するためにグルケから聞いた情報を伝える。


「その隣国が魔物を操るという話、本当だとしてもあまり言いふらさずに黙ってなさい。無闇に混乱が起きても困るからね」

「はい、他の誰かに話すつもりはありません」


 マリスはアマンダの注意に頷いて、自らの天幕に戻った。食事をして少し経った頃、全生徒に招集がかかる。マリスたちも向かって、アマンダの説明を待った。

 全員集まるまで少し待って、揃ってからアマンダが合宿の中断を伝える。アマンダはざわざわと話し始める生徒たちに注意を入れて、事情を説明した。


「昨日の夜、討ち損ねた魔物の群れがいるかもしれないと騎士団から連絡があった。遭遇する危険は少ないが、安全性を考慮し、合宿の引き上げが決まった。急な変更で悪いけど、昼前には出発するから、急いで準備しなさい」


 その後、質疑応答で少し時間を使ってから、撤収の準備を進める。マリスもカティやシンシアと協力して準備を進めた。魔物の襲撃もそれ以外の問題も起きず準備が終わり、早々に出発する。


「お嬢様、荷物は私が持ちます。いざという時、お嬢様が動ける方が良いと思います」

「大丈夫。背負い袋だけだから、すぐ地面に落とせる」


 でも、と言いつのるカティに、シンシアからも非難の声が上がる。


「カティ、言いたいことは解るけれど、二人分の荷物を持つのは無茶よ。どうせなら、そうね、そこの体力が有り余っているカイトくんに持ってもらったらいいんじゃないかな」

「ん、呼んだか?」


 シンシアが話題に出したらカイトの耳に届いたようで、反応する。


「いえ、マリス様の荷物を持つってカティが言い出してね。無茶だからやめておきなさいって言っていただけ。カイトくんくらい筋肉があるならともかくね」

「そうだな。もしきつかったら、荷物くらい持ってやるから、いつでも言えよ。マリスもな」

「私は何ともない。パピィを抱えて王都まで戻れって言われると、ちょっときついけど」


 ぺたぺたと横を歩くパピィが、名前を呼ばれて嬉しそうに鳴く。


「お嬢様は、何かにつけて修行や鍛える要素にしてしまうので、荷物を持たせてもらえるとは思っていなかったですけどね」


 カティはごまかされたと少し怒っていたが、実際にマリスの方がカティより体力があるので、強くは言えない。


「これくらいの荷物なら、修行にもならないけどね。そういえば、さっきの質疑応答で帰ったら合宿期間に割り当てていた残り二日を、お休みもらえるって言ってたよね。その間に、みんなで今後の相談をしたい」


 マリスが提案して、シンシアとカティは当然、グルケからも肯定の声が上がる。


「カイトは?」

「ん? 俺が話し合いに参加して、意味あんのか?」

「話し合いはともかく、グルケの護衛をお願いしたいから、一緒に行動して欲しい」

「ああ、そういう意味か。いいぜ。どうせやることないし。時間があるなら、マリスと手合わせしたいけどな。魔物化したオオカミを狩れる程の速度、見せてくれよ」

「手合わせは私からもお願いしたい。オオカミは、相手の速度を利用して迎撃した」


 話しながら帰りの旅路をこなし、襲われることもなく王都までたどり着いた。

 アマンダが今後の予定を伝えて、解散となった。マリスはすぐさまディルへと手紙を書いて、二日間戻ると伝える。


「準備完了。いつでも行ける」

「お嬢様、今から行くと、手紙とほぼ同時に着きますが」

「大丈夫。シンシアとグルケたちも待つから、少しは時間が開く。それに、手紙と同時に戻っても問題ないと思う」


 グルケとカイトはそれほど待たずにマリスたちの部屋に来たが、シンシアがなかなか来ない。


「シンシア遅いね。迎えに行こうか」


 マリスが心配そうに声を上げる。カティが迎えに行く準備をしていると、マリスが足音に気付いた。


「来た」

「遅れてごめんなさい」


 部屋に入るなり一言謝って、シンシアはマリスに耳打ちする。


「エレイナ、家族の急病で実家に帰ったとのことよ。詳細は、マリス様のお屋敷に着いてから話すわ」


 マリスは頷きのみで返答し、明るく声を出した。


「揃ったね。じゃあ、行こう」



 馬車を用意してもらい、ゴドウィン邸へ向かう。馬車の中でマリスが走った方が速いとつぶやいていたが、シンシアもカティも無視して別の話で盛り上がっていた。

 屋敷に到着後、マリスたちはすぐにディルの執務室へと向かった。


「遅かったね。届いた瞬間、手紙を読み終わる前に突撃されるかと思っていたのに」

「ほら」


 椅子に座っていたディルから、開口一番に遅かったと言われ、マリスは勝ち誇ったようにカティへ笑顔を向ける。


「旦那様、お嬢様が調子に乗るので、常識外の行動を想定しないでくださいませ」

「ああ、ごめん。それで、手紙には簡単にしか書かれていなかったけど、詳しく教えて」


 カティがたしなめて、ディルが気にした風もなく謝る。


「ん。オオカミに襲われた。グルケが魔物を操る噂を聞いていた。オオカミが操られていた可能性が高い」

「いやそれ、手紙の内容から情報が増えてないから」

「むう。グルケ、交代」


 面倒だとばかりに、グルケに説明役を交代してもらう。グルケが詳細な情報を説明し、魔物を操る噂話について、話を聞いた外交官の名前なども伝える。追加でシンシアが、エレイナが帰ったという情報を伝えた。


「なるほどねえ。エレイナ嬢の上がどこだったのかは解らないけれど、隣国もちょっとばたばたしてるね。うちと違って、王子が切れ者らしく、その分反発も強くてね」

「私は、前に隣国の王子は潔癖な性格って聞いたけど」


 マリスがつぶやき、ディルも肯定の言葉を返す。首を傾げたマリスに、ディルはゆっくりと説明を続ける。


「別に、切れ者と潔癖は矛盾しないよ。というより潔癖だからこそ、些細な悪事も見逃さず、煙たがられているという面もあるし」


 話し合いというより、持っている情報の共有だけだったが、ディルに別の用件が入ったため、中断となった。

 その後、空いた時間を利用してマリスとカイトが手合わせをして、グルケはシンシアと相談を進める。

 そして許可を得ていたマリスは、カイトに気功について説明をした。


「わかんねえよ」

「感覚的なものだから、すぐには解らない。時間をかけていれば、感じ取れるようになる」

「面倒だなあ。ほんとにこれで強くなるのか?」

「見てなさい」


 マリスは、短剣を二本取り出して、壁に向かって順番に投げつける。


「一投目が、普通の状態。二投目が、気功を込めた状態」


 言いながら、壁のめり込み具合で、違いを説明する。


「気功を筋肉にかけて投げると、瞬間的な筋力が相当上がる。一年の頃で、魔物化したクマの足に刺突剣をさせる程度には、ね」


 実際の威力を目の当たりにして、カイトは納得して唸りながら精神を集中させる。マリスは一朝一夕にできるものではないと説明し、考えすぎないように注意を出した。


「それで、話し合いは済んだ?」


 グルケとシンシアが真剣な顔で話し合っていたので、しばらく放っておいたが、一段落したとみてマリスは声をかけた。


「ああ。ちょっと俺、隣国まで行ってくるわ」

「は?」


 意味が解らない、とマリスが首を傾げると、グルケはにやりと笑みを浮かべた。


「普段驚かないだけに、マリスを驚かせたら気持ちいいな。それはともかく、エレイナが戻った点、魔物を操るうんぬんもあるし、様子を見てくる。俺なら、学校には通っていたものの最近王族に加わった新参って立ち位置だからな。遊学ってのもおかしい話じゃない」

「それなら、私も行く」

「無茶言うな。お前は元々、ゴドウィン公爵家のご令嬢だろうが。俺だからできることもあるんだ」


 マリスはしばらく納得がいかない表情をしていたが、シンシアからも説得されて、渋々ながら引き下がる。


「いいけど、必ず戻ってきてよ。あと、カイトも連れて行って。絶対、役に立つから」

「ん、ああ。でもあいつに気功を教えたんだろう? いいのか?」

「大丈夫。今の時点でカイト自身がやり方を解ってないから、誰かに伝えようとしても絶対に伝わらない。それに一応、誰にも教えないって約束したしね」

「まあ、お前がいいならいいけどさ」

「お土産は、王弟との密約書でいい」

「無茶を言うな」


 どこまで本気か解らない会話を続けていると、シンシアが呆れたような声で口を挟む。


「マリス様とグルケくん、やっぱり兄妹だわ。性格、似てるもの」

「それは嫌だ」


 マリスが嫌がって、グルケも頷く。そういうところも似ている、とシンシアが追撃し、二人ともふてくされて黙ってしまう。

 そしてディルの用事が済んでから相談をして、了承を得る。

 グルケはその後、ディルを通じて王宮へと連絡を取り、早々に隣国の許可も得て、護衛を連れて旅立っていった。


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