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娘の特技は暗殺術  作者: すっとこどっこい
学校&王宮編
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四年目 後期 その5

「何かがおかしい」


 戦争に参加して三日が経過したころ、マリスはディルに相談するため、夜に本陣を訪れていた。人払いをして、周りに聞かれる恐れをなくしてから、マリスは口を開いた。


「なぜ、今回は魔法使いを連れてきていないの?」

「ええ、今さらそれ? まあいいけど。一応は向こうさん、王の許可なく来てるだろ? 魔法使いというか魔法騎士団はどの国も国王の直属だからね。個々の勝手ができるものじゃないんだよ」

「相手に居ない理由は解ってる。それより、こちらが連れてきていない理由は?」

「単純な理由で、許可が出なかったから」

「意味が解らない」

「んーと。我が国の魔法騎士団、大将のサイモン殿下が出し渋ったんだよ。相手が出ていない以上、戦場に出して数を減らそうものなら、相手国への抑止力が大幅に落ちるって言って、一理あるもんだから、国王陛下も納得しちゃったんだ。隣国との裏取引を疑いたくなるよねえ。どこまでが計算なんだか」


 あはは、と笑うディルの頭を軽く叩きながら、マリスは質問を重ねる。


「笑いごとじゃない。じゃあ、攻めてきたくせに勝つ気がなさそうなのは、何故だと思う?」

「あ、マリスにもそう見える?」

「馬鹿にするな。戦場に出ていれば誰でも……えっと、普通は解る。どうも空気が緩い。おかげで被害は少ないけど、こんな調子だといつまで経っても勝てない」


 もっと積極的に攻めろと突っかかるマリスに、ディルが落ち着くよう頭を撫でる。


「苛つく気持ちは解るけど落ち着けよ。無理に攻めて追い払っても、相手の戦力が残っていればまた攻める機会を与えるようなものだ。戦争ってのは時間がかかるもんだぜ」

「無駄に時間を使っているうちに国王が病気で死んだら困る。それに、ディルがここにいる間、王弟への牽制が少なくなってる。勢力を拡げられると厄介」


 マリスの言葉に、ディルもため息をつく。


「うん、だから俺も情報収集に密偵を放っているんだが、下の方だと何も知らないし、お偉いさんに近付ける程の手練れはなかなか、ね」


 マリスは自らの髪の端をいじりながら、一つの提案を口にする。


「ディル。私が調べようか」

「うん、それも考えたんだけどさ。いくらなんでもお偉いさんに近付くってのは危険すぎる」

「相手には、ディルくらいに気配を読める人がいる?」

「俺ほどの奴はいないよ。だから大丈夫とは思うんだけど、でもやっぱり心配だよ」

「いつのまに、ディルはそんな過保護になったの?」


 首を傾げて質問するマリスに、ディルはため息をついた。


「過保護っていうかさ、相手の陣営に紛れ込むだけでも危険なのに、中枢まで行くと、見つかったらいくらマリスでも帰ってこれないよ。それに王女だから捕虜としての価値も高いし、子どもとはいえ女なんだからさ」

「見つからなければ問題ない。それに王女だってばれなければ、見つかっても殺されるだけだから問題ない」


 淡々と語るマリスに、ディルが首を横に振る。


「いやいや、マリスさん? 殺されるのは大問題だからね? 密偵が一人死ぬのと、マリスが死ぬのでは全然違う」

「王女と言っても継承権に関わるような立場じゃないし、関わる気もない。今となっては単なる密偵や暗殺者に比べて色々と役に立てる場面は多いのは間違いないけど、代わりがいないかどうか、と言われたら別になんとでもなると思う」

「シンシア嬢やカティは悲しむよ。特にカティなんか、それはもう世界が終わるかのごとく泣くね。間違いない。彼女たちにとっては、代わりはいないよ」


 ディルの言葉にマリスは顔をしかめて、僅かにうつむいた。


「それを持ち出すのは卑怯。個人的な知人や友人なら、誰にでもいる」

「きみがそれを言う? 俺に捕まるまで、友達やら大事な人はいたのかな?」


 言い返せなくなったマリスを見て満足したディルは、あらためてマリスの頭を撫でる。


「理解できたらそれでいい。じゃあ、マリスに密偵を頼もう」

「え?」

「他に忍び込める人材がいないのは確かなんだ。ただ、命が軽いマリスに行ってもらう気はない。見つかって囲まれたら、自身が王女である点もぶちまけて、自らの価値を売り込め。そうしたら殺されはしないからさ。捕まったとしても、後は国の交渉になるだけで、戻ってこれるさ」


 マリスは撫でていたディルの手を払い、不機嫌そうな顔を隠さず頬を膨らませる。


「今に始まったことじゃないけど、性格悪いね。ところで、この髪の毛って短く切ってもいいかな。忍び込むには邪魔だし、短かれば少年の従者として潜り込める」

「とりあえず、後ろで縛ってまとめておけば何とかならない? 切るのはもったいないよ」

「もったいないって言われても、放っておくとまた伸びる」

「駄目だって。今後も茶会とか出るだろ。マリスが短い髪だったら、みんな何事かと思うよ」


 今後の話を持ち出されて、マリスはそれ以上の反論を諦める。そもそも、それほど重要な問題でもなく、切った方が便利という程度の提案だ。


「解った。じゃあ女兵士として忍び込むしかない」



 そして、シンシアとカティに若干の文句を言われながらも、マリスは忍び込む準備を整えた。


「じゃあ、ちょっと行ってくる」

「……行ってらっしゃい」


 ディルが許可を出した以上は止められないが、心配が前面に押し出されたような顔でシンシアが送り出す。カティは少し不安そうにしながらも、落ち着いた声色で言葉をかけた。


「お嬢様、ご無理はなさいませんよう。気をつけて行ってらっしゃいませ」

「うん。二、三日中には戻ると思う」


 マリスは闇夜に紛れて、敵陣営へと向かっていった。



 マリスは気配を殺して、敵陣営に近付く。火を焚いて周りを照らしつつ夜襲を警戒している。攻め入る気が薄いとはいえ、最低限の警戒は行っているようだ。

 しかし火が焚かれていて明るいところがあるというのは、暗闇を生み出すのと同じ意味である。軍隊相手では当然必要だが、マリスにとっては都合が良い。

 闇から闇へと移動しながら、物音を立てずに移動する。時々明かりの中を移動しなければならないが、兵士たちの目が余所へ向いた時を狙って、一気に突っ切る。ぼんやりと見ている程度では気付かれない程の速さで駆け抜けたため、誰にも気付かれず敵陣営に到達できた。


 兵士が多数いる陣営内の移動は気付かれず動けない為、天幕の隅に捨て置かれた破れ汚れた衣服を多数抱えて、いかにも仕事をしている風を装って歩く。

 陣営の中を女が歩く程度は珍しくないが、マリスほど小柄なのは珍しいため、時々目を向けられる。若干汚れてはいるが相当に整った顔付き、仕立ての悪くない服装、まっすぐに上官たちが占拠するあたりへ向かっているのを確認して、兵士たちは声をかけるのを諦める。


「ん、何だそれは?」


 動きの取りづらそうな重厚な鎧に身を包んだ男がマリスを見とがめる。マリスはそちらを振り向き、男の立場を考える。鎧の丈夫さ、腰に佩いた剣を見て貴族だとあたりを付ける。

 マリスは頭を深く下げ、考えていた言い訳を口にする。


「は。ご覧の通り、兵たちの衣服にございます。戦場では包帯はいくらあっても余分ということはありません。不要な衣服のうち、無事なところを切り分けて包帯を作るつもりにございます」

「ほう。なるほどな。して、そなたの主は誰だ?」

「いえ、私は単なる一兵卒にございまして、誰かに仕えているというわけではございません」


 マリスは内心、面倒そうな相手に見つかったと舌打ちをしたい気分だったが、顔には出さず対応する。


「ふん。包帯を作ろうという考え方は悪くない。見た目もなかなかのものだし……よかろう、付いてこい」


 付いてくるのが当然という態度で、男はマリスに命令を下す。行く先がマリスの目的地である点を幸運だったととらえて、マリスは了承して後に続いた。


「隊長、そちらの娘は?」

「単なる兵士だが、使えそうだから連れてきた。文句でもあるのか?」

「いえ、決してそういうわけでは。職務上、確認は必要なものでして、ご容赦ください」


 ふんと鼻を鳴らして、隊長と呼ばれた男は見張りの兵が立っていた天幕へ入る。


「構わぬからお主も入れ」

「はい」


 言われて入りかけたマリスは、手元に抱える衣服をどうするべきか確認する。


「これは、持って入っても問題ないでしょうか? それとも、外に置いておく方が?」

「気にするな、持って入れ」


 言われた通り持ったまま中に入り、相手の出方を窺う。男は奥に置かれていた椅子に腰掛け、衣服を適当に置くよう命じた。そして荷物を置いたマリスに、ゆっくりと問いかける。


「それで、お前は何者だ?」

「は? それはどういう……」

「演技は結構。見ない顔だが、それほど上手く紛れてはいなかったぞ。それで、どこの手の者だ? ダールか、それともガインか?」


 マリスは男が上げた名前について考え、隣国の貴族だと思い出す。若干の動揺を顔に出しながら、否定の言葉を口にする。


「いえ、その、何をおっしゃっているのか……」

「まず、振る舞いがすでに普通ではないのだよ。男女問わず、貴族でもない者はもっと雑だ。それに、この私に声をかけられたくせに堂々と対応しすぎたな。もっと逃げるような動きをしていれば、まだ怪しまなかったものを」


 男はマリスの演技に駄目出しをして、目はマリスの身体を舐めるように眺める。


「近くに来い」

「はっ? いえその、ご勘弁を……」


 演技ではなく一歩下がったマリスに、男は椅子から立ち上がって近付く。好色な顔を隠そうともしない男がマリスの腕を掴むと、頭を撫でだした。


「えっと、その、ごめんなさい」


 マリスが謝り、男の顔に疑問が浮かぶと同時に、マリスは目にも止まらない速さで男の後ろに回り、後頭部に拳をたたき込む。


「ぐっ」


 油断していた男はまともに食らって意識を失い、ずるりと崩れ落ちる。その際、マリスは鎧ごと男を支えて、鎧が派手に鳴らないよう、ゆっくり地面に横たえる。


「うう、気持ち悪い」


 散らばっていた衣服の残骸で、捕まれた腕と頭をごしごしと拭く。腕にも頭にも僅かに汗と血の匂いが付いたような気はするが、掴まれたまま放っておく方が気持ちが悪い。

 そして見張りに気付かれないよう、天幕の後ろから無理矢理外に出た。


「ん、結果良ければ問題なし」


 上手く行ったとは口が裂けても言えないが、マリスは気にせず目的の大将がいるであろう天幕に向けて足を運んだ。


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