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娘の特技は暗殺術  作者: すっとこどっこい
学校&王宮編
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四年目 前期 その7

 マリスの裏切りという言葉に、三人が首を傾げる。


「つまり、漏洩による情報操作。カティからエレイナに情報を流して、経路を調べる」


 フィスノは納得の表情になるが、シンシアは怒ってマリスに詰め寄った。


「マリス様、それは賛成できないわ。カティが危険な目にあうかもしれないじゃない」


 マリスは不敵に笑う。


「学校内で手を出すのは難しいし、外に行く時は基本は私と一緒だから問題ない。無理な時は、念のために護衛をつける。最近はディルが仕込んでいて、あれ込みで優秀な人材が増えてきた」


 フィスノがいるので気功については触れず、それでいてシンシアには解るよう伝える。シンシアはちらりとカティを見て問いかける。


「カティはそれでいいの?」

「お嬢様の決めたことですから」


 でも、と納得できない表情のシンシアにフィスノが一言付け足す。


「マリス様が大丈夫とおっしゃるのなら、それを信じたら良いと思いますわ。それで、どういった内容を流す予定ですか?」

「えっと。実は私がバーネット殿下を籠絡して王妃の座を狙ってるってのはどうかな。ディルとバーネット殿下、国王陛下には事前に言っておけば、そこに流れちゃっても問題ない。王弟からすると私がバーネット殿下を支持すると面倒に思うし、他国の者だとしても王位争いが起きにくくなるから嫌だろうし」


 マリスの案に、シンシアとカティは納得の表情だったが、フィスノが一人だけ疑問を浮かべた顔になる。


「今となってはマリス様のお言葉を信じてバーネット殿下に悪感情はないし、王になったあとに諫める立場の人がいれば大丈夫と思いたいですわ」


 フィスノがバーネットの戴冠を認める発言をしたのは初めてで、マリスとシンシアが僅かに驚いた。驚いた二人を尻目に、フィスノが続けて考えを口に出す。


「でも、そうなると、諫める立場として一番適しているのはやはり王妃となります。考えると、マリス様の案って、嘘ではなく本当に王妃になるのが一番よろしいのではなくって?」


 マリスは嫌そうな顔をして、フィスノに自身の考えを説明した。


「あれだけ弱いと、話にならない。婿候補の端にも上がらない。性格や考え方で判断するところまでいかない」

「マリス様、それを言っちゃうと、婿候補なんていないんじゃ?」


 シンシアの突っ込みに、マリスは大きく頷く。フィスノは慌てたように言葉を重ねる。


「うん。今のところいないね」

「でも、そうはおっしゃっても、ゴドウィン公がお相手を選ばれるでしょう?」

「ううん。ディルの勝手にはさせない。私のことは私が決める。それで了承をもらってる。ああ、前にも思ったけれど、私の理想に一番近いのはシンシア。シンシアが男だったら放っておかないのに」

「はいはい。馬鹿言ってないで、話を進めましょう」


 マリスとシンシアのじゃれ合いを聞きながら、フィスノはあり得ないと首を振ってため息をついた。


「その話は置いておいてくださいませ。今、私が何か言っても意味がないでしょうから。それで、マリス様の案なのですが、有効だと思いますわ。マリス様の性格を把握したつもりの私でも、良い手だと思いましたもの」

「私も問題ないと思います。カティが本当に危険じゃないかどうか、という一点を除いて」


 フィスノが賛成し、シンシアも内容には不満がないようだ。


「じゃあ、それで決まり。機会を作るのは、シンシアの部屋が良いと思う。私がいなくて、カティがエレイナと接触できる場所はそう多くない」

「そうね。上手く調整してみせるわ」


 時期については細かく設定できず、後日フィスノへ報告すると決めて、マリスはシンシア、カティと一緒に学校へ戻った。



 学校へ戻る馬車の中で、シンシアはマリスに愚痴を言い続けていた。


「カティが危ないっていうのは、納得できていないのですけれど? お優しいマリス様が、四六時中見守るとでもおっしゃるのかしら?」

「シンシア、そんなに怒らなくても」

「怒るな? へえ。マリス様はいつの間にか、随分冷たくなってしまったのね。グルケくんのために走り回ったりしたのはなんだったのかしら」

「シンシア様、その辺で納めてお怒りを静めてくださいませ。私は大丈夫ですから」

「何よ、カティまで。あなたの安全についてなのよ」


 シンシアの不満げな様子に、マリスが一つの提案を出す。


「シンシア、後でカティと勝負をしてみてくれる? 全て納得とはいかないまでも、ある程度は理解できると思うから」

「勝負? カティと?」

「そう。カティはすでに騎士教練もしていないし、最近剣を振っているところを見せてないから解らないだろうけど。強いよ」


 満足げなマリスの様子に、カティも否定しない。シンシアは口の端を小さく上げて、面白いとつぶやいた。


「解ったわ。戻ったら、早速勝負しましょう。安心させてくれると嬉しいんだけどね」



 戻り次第、三人は鍛錬場に向かった。中に数人がいたので、身体をほぐしつつ去るのを待つ。しばらくして、誰もいなくなった時に、シンシアとカティの勝負を開始した。


「えっと、武器は木刀。顔への攻撃は禁止。気功も使う。このくらいかな?」

「気功あり? 本気?」


 シンシアが把握している限り、カティが気功を維持できる時間はシンシアの半分にも満たない。そのシンシアでもマリスの四分の一以下で、まだまだ伸びしろはあると信じて鍛錬を続けている。


「本気。カティ、立場とか気にせず、遠慮なしでやりなさい」

「はい、お嬢様。シンシア様も、遠慮なさらないでくださいね」

「ん。解ったわ」


 カティの言葉に気合いを入れ直すと、シンシアとカティはお互いに距離を取って構えた。

 マリスが開始の宣言をして、シンシアはゆっくりと間合いを詰める。カティは逆に、詰められすぎないよう間合いを離す。

 少しの間は間合いの取り合いをしていたが、しびれを切らしたシンシアが気功を使いつつ一気に詰める。目で追うのがやっとという速度での突進で突きを繰り出したが、カティは身体を横にずらして避けた。

 カティが避けたまま、流れに合わせて横薙ぎで剣を振る。シンシアは剣で受け止め、力で押し返した。


「くぅっ」


 カティも気功を使いつつ力を込めるが、シンシアに押されて呻きつつ後ろに飛び退いた。そして、飛び退いた後の着地を狙って、シンシアが剣で足払いを仕掛ける。

 シンシアは決まったかのように思えたが、カティは見切っていたと言わんばかりに着地と同時に剣で受け、そのまま飛んで避けて肩当たりを目がけて斬りつける。

 当たる、とシンシアは覚悟しながらも、大きく後ろに下がる。かろうじて、当たらずに逃げ切れたシンシアは手を上げて参ったと宣言した。


「カティ、あとどれくらい連続で気功を使えるの?」

「そうですね、今の動きをあと二回分、というところでしょうか」


 シンシアでも三回分というところなので、そう大きくは違わない。


「解った。納得したわ。でも、何をどうしたらそれだけ強くなれたのかしら?」


 不思議そうなシンシアに、カティが遠い目をする。


「毎日、授業が終わってから食事までの時間、マリス様と部屋で基礎体力の向上。食後は腹ごなしにお互いに座った状態から拳での打ち合い。お風呂上がりには反射神経を鍛えるからって球に文字を書いて投げて、避けながら文字を読んだり……」


 うふふ、と笑いがこぼれたところで、シンシアが止める。


「そ、そう。大変そうね。それで強くなったのね」

「はい。寝ている時にも時々襲撃されたり、毎日筋肉痛になるまで気功を使い続けたり、他にも色々と」


 よしよしと頭を撫でつつ、シンシアがマリスを睨む。


「マリス様、ちょっとやり過ぎじゃない?」

「え、でもカティも嫌がらなかったし。強くなったんだから良いでしょう?」

「ええ、ええ。文句を言わない私が悪いんです。もちろん、強くなったのは悪いことじゃないですし、こうやってお嬢様の計画に組み込まれるくらいには信頼していただけるのは嬉しいですよ、ええ」

「カティ、何かを諦めたような顔になってるわよー」


 遠い目をしたまま、カティが頷く。シンシアの突っ込みに、ふと我に返る。


「でも本当に、お嬢様の近くにいる為にも強くなって悪いわけではありませんから。まさか、侍女ごときがまともな戦闘能力を持っているとは思わないでしょうから」

「同学年にはある程度やれるって知れ渡っているけれどね。というかカティ、あなた気功使うとカイトを圧倒できる強さなんじゃない?」

「どうでしょうか」


 シンシアの質問で首を傾げるカティに、マリスは笑顔で太鼓判を押す。


「気功を使って優位に立っている時に、勝負をつけられたら勝てるよ。ただ、時間は短いから、長引くとカイトが勝つ。ある程度強くなったけど、カイトの基礎能力は桁違い」


 でも、とマリスは話を続ける。


「戦い以外にも夜に襲撃したおかげで、まだまだとはいえ殺気も読めるようになってきたし、不意に襲われた時に逃げるくらいはできるね」

「マリス様、時々見境ないわね。カティをそこまで強くしてどうするのよ。嫁のもらい手がなくなるとは言わないけれど、男の立つ瀬がなくなるじゃないの」

「私のお供とはいえ、しっかりと学校を卒業できるんだから、凄く優秀だってのは間違いない。市井に出ても侍女として働いていても、目の利く人なら大丈夫だと思うよ」


 マリスの言葉に苦笑いを浮かべるシンシア。現時点で気にする内容ではないと判断し直して、今後の計画を打ち合わせるために部屋へと戻ることとなった。

 カティの身を過剰なまでに心配する必要がないのは、間違いなく好材料である。

 マリスの案をシンシアが補強して、仕掛けるのは中休みが終わった後に、休み明けで油断した風を装うために後期が始まってすぐと決まった。

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