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娘の特技は暗殺術  作者: すっとこどっこい
学校&王宮編
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四年目 前期 その5

 シンシアたちと王弟の茶会を翌日に迎え、マリスも準備に追われていた。国王との密会という建前があるので、きちんとした格好で王宮に上がる必要がある。


「中に動きやすい服を着るから、なるべく薄めの服を用意して」

「かしこまりました。でも、肩や足はすべて覆っておく方がよろしいのでは?」


 カティがいくつか候補となる服を出しながらマリスに問いかける。マリスは中に着込む服を用意しながら、返答する。


「明日は短剣一本と投げ針、あとは糸くらいしか身に着けないつもりだから、肩とか足は隠す必要はない」

「礼装を脱いだ後、そんなに薄着で動くと? そんなはしたない格好はいけません。腕や肩は仕方がないとしても、せめて足は膝上くらいまで覆っておいてください」


 カティはマリスが選んだ手足がむき出しになった服を却下して、太ももを覆っている服に替える。マリスの希望通り灰色で飾り気は一切なく、隠れるには向いている。


「これもお身体にぴったりとしたものですから、動くのに支障はありませんでしょう?」

「うん。これでいい。ありがと」


 さらに、念のためと赤いかつらを被る。


「しっかり見られるとおかしいけど、僅かな時間なら多分大丈夫」

「そうですね。動いていたらお嬢様と認識しづらいと思います」


 最後に動きやすさを確認したいからと模擬戦に付き合わされ、その日は早めに就寝した。



 翌日、朝早くからマリスはディルと一緒に王宮へ向かった。すぐ国王に呼ばれ、私室に入る。


「おはようございます、陛下」


 マリスが挨拶をしてから素早く華美な服を脱いで、動きやすい格好になる。


「ふむ。マリスが密偵の真似事のう。よくディルが許可を出したな」

「恐れながら、こう見えてマリスはかなりの技術を持ってますよ。気配を消したり探ったりは、私より優れている部分もあるほどです。まあ、戦闘で勝てるほどじゃないですが」

「お主に勝てるほどの技術があると、それはそれで問題だがの」


 国王とディルが雑談しているうちに準備を終えたマリスは、部屋を出る前に二人に声をかけた。


「では陛下、ご配慮賜りありがとうございます。終わり次第戻ります」

「うむ。行ってこい」


 二人に見送られて、マリスは窓から部屋を出る。そのまま、シンシアから聞いている待ち合わせ場所の中庭に向かった。

 まだシンシアも王弟も来ておらず、鳥の鳴き声は聞こえるが人の気配はなく、静まっている。マリスは隠れやすい場所を確認した上で、一番広場に近い場所に陣取った。あえて薄く気配を出して、すでにこの場所が予約済みであると他の密偵に主張する。

 しばらく待つと、まず王弟が何人かの供を連れてやってきた。重臣も混じっているようで、今日の茶会について最終打ち合わせを行っている。


「大変お待たせいたしました、サイモン王弟殿下」


 シンシアたちが、中庭にやってきた。それぞれに意匠を凝らした服を身にまとっていて、立場を考えると当然なのだが、非常に動きにくそうだとマリスは思う。


「いや、さほどでもないよ。わざわざご足労すまないね」


 王弟、サイモンはシンシアやフィスノに笑顔で声をかける。それぞれに挨拶を済ませ、席に着いた。


「早速なのだが、同盟の話をしようじゃないか」

「はい、殿下。僭越ながら、私が説明をさせていただきます」


 他に身分が高い人はいるものの、シンシアが説明をし始める。提案者であると同時に、マリスの説明を含むため適任であるという判断だろう。

 事情を説明したところ、サイモンは一点指摘をする。


「第二王子については、どう考えている? バーネット殿下に何かあったとして、彼がいる限り、私やマリス王女に王位が回ることはあるまい」

「まだ幼いですので、現時点では何とも申せません。あまりに幼い時期に王位を継ぐような事態になれば、下手をすると傀儡になりますので、注意が必要と存じます。そこは彼の背後に回っている方々を牽制するなり、必要ではないでしょうか。そして、王としての資質をお持ちでしたら、何の懸念もありませんわ。是非とも王位を継いで、善政を敷いていただきたいですわね」


 シンシアが淀みなく答えると、サイモンは大仰にうなずいた。


「うむ。まあ、そんなところだろうな。私としては、第二王子が王としての器があるとは思えないが、それは追々解ってくるだろう」


 それよりも、とサイモンは第一王子であるバーネットの権威を落とす方法について語り出す。マリスの説明などはシンシアが主体となっていたが、それ以外はフィスノや別の者が請け負っている。


 と、マリスは自らに向けられたものではないが、殺気を感じて出所を探る。マリスとは広場を挟んだ向こう側、密偵の一人がサイモンに向かって何本かの矢を射ていた。


「殿下!」


 気付いたシンシアが庇う動きをする。マリスはシンシアが動き出したのと同時に、射線上に身を晒す。

 きん、と高い金属音が鳴り響き、マリスの足下に全ての矢が落ちる。マリスはシンシアとサイモンに目を向けて無事を確認すると、即座に射手を追いかけ始めた。


「い、今のは?」

「誰かが、殿下を狙っておりましたね。今、私の連れてきた者が追いかけてますわ」


 驚いているサイモンに、シンシアが説明する。


「……お前たちの手引きではないのかね?」

「違います、と申したところで、信用は得られないでしょうね。すぐに捕まえてきますので、少しお待ちを」


 マリスは、シンシアたちがそんな会話をしているうちに射手を捕らえていた。足の速さだけなら、もしかするとマリスよりも速かったかもしれないが、気功を使ったマリスに追いつけない者は、マリスの知る限りディルしかいない。

 追いつきさえすれば捕らえるのは簡単で、気絶させて広場に戻った。ずるずると引きずって戻ると、狙われていたサイモンが不審げな目をしてシンシアを睨んでいた。


「さすがに素早いわね。ご苦労様」


 シンシアがマリスに労いの言葉をかける。マリスも心得たもので、小さく一礼しつつ、シンシアに声をかける。


「は。矢はすべてサイモン殿下を狙っておりました」


 そう、と言いつつ近寄ってくるシンシアに、他の人には聞こえない声でマリスがつぶやく。


「剣も持たずに危険すぎる。矢面に立つのは今回限りにして」

「あら、守ってくれると信じてたわ。というより、私が間に立たなければ、殿下を守らなかったでしょう?」


 言い返せなかった一瞬の隙を突いて、シンシアが捕らえた密偵に目を向ける。


「殿下、この密偵は、衛兵に引き渡しての尋問をお願いします」

「ああ、お互いに潔白を証明するためにも、その方が良いだろう」


 サイモンが私兵に尋問をさせると、証言の信憑性が下がる。サイモンとしても望むところではないので、シンシアの提案に乗った。


「では中断してしまったが、このままいったん時を置こう。続きは、尋問結果が出てからで良いですな?」

「ええ、承知いたしました。お互いに遺恨がない状態で、前向きに話を進められると期待しております」


 シンシアは口を開かないフィスノにちらりと目を向ける。フィスノがマリスを見つめているのを見て、嫌な予感を覚えつつも声をかける。


「フィスノ様、勝手に話を進めてしまいましたが、よろしいでしょうか?」

「え? ええ。それで構いませんわ。それより……」

「フィスノ様、後でご説明いたします」


 フィスノはうなずき、必ず説明するように、と念を押す。あまりこそこそとしていると不審に思われるため、最小限の会話で切り上げる。

 その後、両陣営が信頼できる衛兵を呼んで密偵を引き渡し、この場はお開きとなった。マリスも早々に引き上げ、国王の私室へと戻っていった。

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