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娘の特技は暗殺術  作者: すっとこどっこい
学校&王宮編
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四年目 前期 その2

 バーネットとマリスが会場に姿を表すと、ざわざわと雑談していた声が収まり、代わりに二人の容姿について褒め称える声が聞こえてくる。二人ともにこやかに応じながら、時々足を止めては顔見知りに声をかけつつ、ディルのところへ向かう。


「マリス様、ごきげんよう」


 すごく馴染みのある声にマリスが振り向くと、ローリー辺境伯と一緒にシンシアが立っていた。

 マリスとは対象に白を基調とした格好で、足元まで細く絞った女性には珍しい服を着ている。


「シンシア! 良かった、来てくれたのね」

「偶然、お父様が王都に来ていらしたから、付き添いの名目で図々しくもご挨拶に。バーネット殿下、ごきげん麗しゅうございます」

「ああ。ローリー卿共々、息災そうで何よりである。シンシア嬢もお美しくなられた。時間が許すようであれば、後で一曲お相手願いたい」

「あら、嬉しいお誘いでございますが、お隣に極上の美少女を連れておきながら、よろしいので?」

「おやおや、シンシア嬢は私と踊るのが嫌なのかな。お隣はお隣で、別の殿方と踊る機会を作らねば、私が悪者になってしまうからね」

「確かにマリス様の可憐さは、もっと皆様に見せつける必要がありますものね。ですが、私と踊るのは、殿下の名に傷を付けますわ。やめておいた方がよろしいかと存じます」

「その程度で傷が付くほど、私の名は脆くないつもりだ」


 シンシアはバーネットの言葉にふと笑い声をもらし、時間があればと了承した。

 マリスは横でにこにこと笑っていて、口を挟まない。いったん会話が空いた時に、ローリー辺境伯に声をかける。


「ローリー様、シンシアを連れて来てくださって、感謝いたしますわ。お恥ずかしいのですけれど、彼女が近くにいてくれると思うと、安心感が違いますの」

「ほ。こやつは好き勝手に動いてマリス様にご迷惑をおかけしているものと思っておりましたが、嫌われていないようで安心しましたぞ」

「シンシアを嫌うなんて、あり得ないですわ」

「マリス様、嫌うかどうかはともかく、盲信的になるのはいただけませんぞ。心を許しながらも、別の目で味方かどうか見定める癖をつける方が、今後のためにはよろしいかと」

「ええ、肝に命じておきます」

「マリス嬢、ではそろそろ行きましょう」


 マリスとローリー辺境伯との話が一段落ついたところで、バーネットが先を促す。マリスが従い、ディルのところへ到着した。


「さて、ご歓談中の皆様、少しご注目くださいませ」


 ディルの口上で、会場中の視線が三人に集まる。それと同時に、グルケが近くに控えているのがマリスの目に入った。マリスたちが注目を集めながら歩いている間にディルの近くまで来ていたようだ。


「バーネット王子とゴドウィン公爵令嬢の婚約かしら?」

「可能性は高いわね。羨ましいこと」


 小声での会話が、マリスの耳に届く。一瞬、眉間にしわが寄りかけるも、気付かれる前に表情を装う。


「こちらにおりますバーネット殿下、ご存じの方も多くいらっしゃると思いますが、最近は我が屋敷に滞在くださり、帝王学を学ぶとともに様々な勉強をなさっておられます。次期国王の意志も強く、ゴドウィン家としても全力で支えていきたいと考えております」


 あからさまではないものの信じ切れないといった目線が、バーネットに刺さる。過去の放蕩ぶりを知られているせいだろう。ただ、ディルが後ろ盾に付いたと明言したのは集まった人々の印象に残った。


「殿下のご意志により、かねてから時期を計って発表する予定だったある事情を、この場をもってお伝えさせてもらいます」


 これからが本番だとばかりに、各々がディルの言葉に耳を傾ける。


「グルケ様、前に。マリスも」


 マリスが一歩前に出て、グルケも後に続く。バーネットが一歩下がったのを見て、会場のあちこちでざわざわとざわめきが起きる。グルケに訝しげな視線を向ける者も少なくない。


「こちらの二人、色々とあって発表を遅らせていましたが、先王陛下の遺児なのです。マリスは私の娘として育てていましたので、ご存じの方もたくさんいらっしゃるでしょう。そしてグルケ様は、今は学校に通っていますが、育ちは苦労なさっておられます。ですが学校での成績は、戦技を除いて右に出る者はいません。さすがは先王陛下の血筋といえるものです」


 ディルが一気に説明を進める。ざわめきとは言えないほどの大きさで騒がしくなるが、ディルが手を叩いて再度注目を集める。


「後日、王宮からあらためて発表されますが、これに伴い、王位継承権も若干の変動があります。当然、第一位はバーネット殿下に違いありませんし、我々も次期国王として盛り立てていきます。グルケ様も第四位の継承権を与えられますが、バーネット殿下の補佐として、今後は我が屋敷で一緒に勉学に励む予定です」


 集まっているうちの半数近くが、今の言葉でグルケがバーネットのお目付役だと理解する。その上でバーネットに取り入ろうとする者、マリスに好色な目を向ける者、グルケに目を付ける者、様々に考えを巡らせる。

 ディルはマリスに目配せして、横に並ばせる。


「マリスは継承権は若干落ちる上に私の養子になっています。本人もあまり興味がないので国政に関わるような立場にはならないでしょう。ただ、噂でご存じの方も多いでしょうが、竜に親扱いされている問題もあり、自由に遊べる立場ではないのも確かです」

「竜の子、パピィと名付けましたが、学者に確認すると何十年か経って成竜になると、全長数十メートルにもなります。王都では難しいので、卒業後は王都から離れた場所で過ごすつもりです」


 マリスはちらりとシンシアに笑みを向けて、説明を続ける。


「私自身、こう見えて剣の腕には自信があります。争いになった時、それなりの戦力にはなれるつもりです。なので隣国との境界、つまりローリー辺境伯の領地近くで牽制できればと考えております」


 そこでマリスは言葉を切り、切々と訴えるような目を周囲に向ける。


「隣国と諍いを起こさないためには、国内が一枚岩でなければなりません。私もグルケも、バーネット様が正しく成長した結果として次代の国王となるべきだと思っています。若輩ではありますが精一杯努力していきますので、皆様も特に隣国の裏工作に目を向けて注意しつつ、温かく見守ってくださるようお願いいたしますわ」


 マリスの言葉に大きく頷いてくれる者、見定めるような目を向ける者など、反応は様々だ。だが、どこからともなく拍手が始まると全体が右に倣って、会場が拍手で包まれた。


「お時間を取らせてしまい、申し訳ない。では、この後もご歓談ください」


 ディルの締めで、集まっていた人々が散らばる。そこかしこでマリスやバーネット、グルケの話題が持ち上がっている。

 マリスたちもしばらく挨拶に回り、特にディルから王弟と繋がりがあると聞かされていた貴族を中心に声をかけていった。



「疲れた」


 夜が更けて散会となり、マリスとグルケは用意されていた休憩室に戻っていた。


「お前はまだいいよ。元々貴族令嬢だったんだからさ。俺なんか育ちをごまかすので精一杯だったぜ」

「お二人とも、お疲れ様でした。凄くご立派でしたよ」


 カティがねぎらいながら、暖かいお茶を淹れる。一息ついていると、扉が急に開いた。


「お前ら、俺を放って行くなよ」

「殿下、どうされましたか?」


 バーネットが部屋に入ってきて、勝手に空いている椅子に座る。手振りで命令されてお茶を淹れるカティを横目に、マリスが首を傾げつつ問いかける。


「グルケだったな。これから一緒に生活させられるんだ、それなりにやっていけるよう、お互いに歩み寄るべきだろう」

「えっと、はい、そうですね」


 なんか性格変わってるぞ、とグルケがマリスにつぶやく。


「宣伝も済んだし、文句を言っても何も変わらないからな。しょうがねえから、俺が王になるまで、まじめにやっていくさ」

「殿下、王になった後もまじめにやっていただかないと困ります」

「あー、解ってるよ。ただ、時々息抜きするくらいはいいじゃねえか」


 マリスとグルケは顔を見合わせる。


「殿下、何か悪いものでも食べられましたか?」

「どういう意味だよ」

「急にまじめな態度に変わられると、気になります」


 マリスの言葉に、バーネットがちらりとカティを見る。


「こいつ、聞いても大丈夫か?」

「大丈夫です、私の腹心ですから」

「ふん。貴族出でもない侍女を腹心にしてんじゃねえよ。まあいい。お前ら、叔父上を排除したがってるだろ。その上であの発言だ。つまり、叔父上が隣国と繋がってんじゃねえかって思ってるってことだろう」


 バーネットの指摘に、マリスは驚きの顔を作る。


「そうですね、おっしゃる通りです。しかし、どういう心境の変化ですか?」

「無駄にここで一年過ごしたわけじゃねえさ。思い返すと、色々と引っかかるところも多かったしな」


 バーネットの言葉に、グルケは疑問を持った。


「じゃあ、殿下の横に俺が付く必要はないのでは?」

「今さら逃げるなよ。いいじゃねえか。仲良くやろうぜ。ああ、この面子の時は敬語とかいらねえよ。マリス、お前も普段から使ってないだろう。ところどころほころびが出てるぜ」

「……解った。じゃあ、普段通り話す」


 少しだけ思案する顔になったが、認めた方が楽と判断して、バーネットに同意する。


「おう、そうしろ」


 カティが手を上げて、発言を求める。


「カティ、どうかした?」

「お三方で打ち合わせをされるのでしたら、私は席を外させていただきたいのですが」

「お前が席を外すと、誰がお茶を注ぐってんだ。お前、マリスの子飼いだろう。それとも、裏で叔父上と繋がってたりするのか」

「いえ、そんなわけではございません」


 なら問題ないとぞんざいに言い放つ。


「それに、人払いって言っても、侍女なんかは残るもんだろうが」

「えっと、殿下、それは本気で言ってる?」


 首を傾げるバーネットに、嘆息しつつ説明する。


「よほど信頼している侍女ならともかく、人がいると情報が漏れる危険は常にある。殿下専属できちんと慕われているならともかく」

「言いながら、そいつは残してるじゃないか」

「カティは私の専属だから」


 マリスは自信ありげに胸を張る。


「それに、シンシアと並んで最も信頼している人でもある。絶対に裏切らないと言い切ってもいい。もちろん、私も二人を裏切ったりしない」

「大層自信ありそうだが、こいつもこっそり情報を流してるかもしれねえぞ」


 バーネットが面白くなさそうに茶々を入れる。


「それはない。カティと王弟殿下との繋がりがない。だましていたら態度で解る。それに、ディルにばれると思う」

「ああ、確かにゴドウィン公は気が付きそうだな」

「うん。そういった直接政務に関わらないようなあたりも、これからグルケが教えてくれる」


 バーネットはますます顔をしかめるが、仕方がないと頷いた。


「いや、王宮の諍いや常識なんか、俺は知らないよ。人のだまし方とか、だましている人の見極め方ならともかく」

「それで十分」


 王宮関係なく役に立つとマリスが言い切る。


「あまり役に立って欲しくない知識だがな」

「まあ、確かに」


 バーネットとグルケが頷き合っているのを横目に、マリスは席を立つ。


「じゃあ、そろそろ寝る。明日は学校に戻るから、何かあったら早めに言って。グルケも、伝言があれば聞くよ」


 就寝の挨拶をかわして、それぞれ自室に戻っていった。


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