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娘の特技は暗殺術  作者: すっとこどっこい
学校&王宮編
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三年目(幕間)

 シンシア様が忙しそうにフィスノ様と打ち合わせを行うようになってから数ヶ月が経過した。そして、そろそろ五年生が卒業するという段になり、シンシア様がお嬢様に相談を持ちかけた。

 部屋で四人がくつろいでいる時に、突然だ。シンシア様も最近、前後の脈絡なく話し始める時がある。これは絶対にお嬢様の悪影響を受けている。


「フィスノ様から、派閥の責任者になってほしいって依頼があったわ」

「そう。どうするの?」

「正直なところ、悩んでる。実際はどうあれ、対外的にはバーネット王子を国王に据えないよう動いてるし、マリス様も持ち上げる対象なんだけどね」


 とはいえ、ゴドウィン家がバーネット王子の支援をしている以上、王子に反対している派閥の責任者になってしまうと、シンシア様とお嬢様の立場は難しいものとなってしまう。


「私を持ち上げつつ、私の実家に喧嘩を売る。なるほど、厄介な立場」

「考えると、フィスノ様はうまく立ち回っていたわね。それでいて王弟の縁者をうまく泳がせていたし」

「え?」


 お嬢様と私の声が重なる。


「あれ、言ってなかった?」


 不思議そうな顔をしているが、シンシア様がうっかり言い忘れていたなんて、あるわけがない。解っていて黙っていたのだ。


「聞いてない。どういうこと?」

「よくフィスノ様と一緒にいるエレイナ、あれは王弟の関係者ね。少し前にフィスノ様から直接教えられたわ」

「あれだけ仲が良さそうで、ずっと一緒にいたのに」

「フィスノ様、エレイナを油断させるために、自ら迂闊を演じていらっしゃったのよ」

「なるほど。だからシンシアなんだ」


 お嬢様は、時々経過を飛ばして話をするから、ちょっとついていけない時がある。でも、私が口を挟むわけにはいかない。お嬢様とシンシア様が理解し合っているようなら、なおのことだ。


「そ。でもエレイナとのやりとりは望むところだし、責任者くらいこなすんだけど」

「何か問題? ディルには、私から言っておく」

「そっちはあまり心配してないわ。せっかく同じ部屋でやってきたのに、今さら部屋を変えなきゃいけないところが問題なのよ」


 シンシアに言われて、お嬢様がはっと気付く。


「そうか。確かに部屋は、変えた方がいいのかも」

「すみません、お嬢様。どういうことでしょうか?」


 アンナさんと私が解ってない状況で、部屋割りの問題となれば、聞いておく必要がある。


「簡単な話。シンシアが私の家と対立する。私と同じ部屋だとおかしい。それだけ」

「それだけって……」


 二の句が継げない私に、シンシア様が援護を入れる。


「派閥が、バーネット王子の即位を応援するものなら問題ないのだけれどね。言ってみれば、マリス様の思惑を無視してマリス様を次期女王に他薦しているようなものだから」

「でも、これまでずっとお嬢様とシンシア様は仲良く過ごしてました。今さら変えたところで……」

「立場が変わって、交友関係も変わる。それほどおかしな話じゃない」

「だから、ある意味マリス様を裏切った私に付き従っているエレイナに対して、マリス様やカティが厳しめの目線を向けても問題ないってわけなのよ。でも、今まではフィスノ様のお供ってだけだから、訝しげな目線は向けちゃ駄目だからね」


 つまり、エレイナが間者だと言ってしまうことで、シンシア様は自ら退路を削ったという話なのだろう。私とアンナさんがおろおろと戸惑っているのを尻目に、シンシア様は決意に満ちた目でお嬢様を見据える。


「ん。決めたわ。フィスノ様の後を継いで、派閥の責任者になる。マリス様、そんなわけだから」

「そう。でも何かあったら、すぐに相談して。シンシアは、一番大事な友人の一人なんだから」

「まあ嬉しい。でも、そんなこと言っちゃカティが悲しむわよ」

「カティも一番大事。でも、無理をするという意味ではシンシアの方が不安」


 お嬢様の言葉に、私とシンシア様が顔を見合わせる。言いたいことは同じらしい。ここは、シンシア様に譲っておくとばかりに、どうぞと手で合図する。


「マリス様に無理をするなんて言われる日が来るとはね。まあ見てて。お父様から習ったのは、武芸だけではなくってよ。隣国との戦闘における、情報戦も……」


 自信ありげに語っていたシンシア様が、何やら考え込む。


「どうしたの?」

「いや、まさかね」


 自らの思考に没頭したシンシア様を置いて、アンナさんを含めて三人で話を進める。


「アンナ、もし嫌じゃなければ、シンシアと同じ部屋に行ってあげて」

「ええ、シンシア様がお嫌でなければ、私はもちろん構いませんが」

「今さら別の人と同じ部屋になるより、アンナの方が気心が知れてる分、安心できると思う。これからシンシアも大変そうだし、支えてあげて欲しい」

「私なんかで何ができるかわかりませんが、精一杯がんばります」

「私なんか、って言うのは禁止。魔法課程の脱落数を考えたら、今まで残っているのは凄いよ」


 確かに半数どころか四分の三以上が脱落しているので、一年の成績を考えると残っているのは本当に凄い。同じ部屋で、時々面倒ごとに巻き込まれながらも日々努力を重ねていた姿を見ていると、素直に賞賛の気持ちでいっぱいだ。


「本当、この部屋でやっていて成績を上げるのは凄いわね」

「あ、シンシアが復活した。でもそれ、どういう意味?」

「そのままよ。マリス様が型破りで、同じ庶民と思ったカティは密かにありえないくらい優秀だし。ねえ?」


 シンシア様がアンナさんに同意を求める。言いにくそうにしながらも、アンナさんは否定をしない。


「いえ、私は至って普通だと思います」

「まさか。英才教育を行ってきた貴族の子弟を置き去りにして、剣術も座学も成績上位に入ってるわよね。そんな侍女、聞いたことないわ」


 シンシア様が肩をすくめる。その言い方はちょっとひどいと思う。


「でも、お嬢様の求める剣の腕にはまだまだ届きませんし」

「マリス様の期待に応えようと思っている時点でおかしい」

「確かに」


 そんなこと言われても。お嬢様に呆れられると、困るどころの話ではないのだ。


「大丈夫。カティはまだまだ伸びる。同学年だと、シンシアとカイトにはちょっと無理だけど、それ以外には勝てるようになるよ」

「いやいやお嬢様、何をおっしゃるのですか。それは明らかに無理な難易度です」


 大丈夫大丈夫、と無責任に言い切るお嬢様を無視して、話を元に戻す。続けられると危険な気がする。


「それで、シンシア様はアンナ様と同室でよろしいですか?」

「もちろんありがたいけれど、アンナは良いの?」

「はい、喜んで。というより、シンシア様が出られた後、ここに残るのもあれですし」

「そうね。素直に逃げるのが吉ね」


 しばらく話が脱線した後、シンシア様がお嬢様に向き直る。


「それで、さっき考えちゃっていた件なんだけど」

「シンシアがお父様から学んだのは武芸だけじゃないって話?」

「ええ、それ。確証はないから、言い切れるものじゃないのだけれど、泳がすお魚のエレイナ、彼女の言葉には隣国の訛りがあるの」

「へえ。でも、それは珍しくもないんじゃない?」

「彼女の実家が、商人か何かならね。仮にも何代か続く子爵家の生まれよ。隣国の訛りが発生する余地はないわ」

「面白い。調べる価値がありそう」

「なら、彼女の実家については、マリス様から当たってちょうだい。これからしばらく彼女の監視対象が私になると思うから、私が調べて目立つわけにはいかないもの」


 少し前から、シンシア様が少しお嬢様と距離を取っていたのが気になっていたが、どうやら問題無さそうだ。お嬢様も、安心したのか普段より機嫌が良さそう。


「もしエレイナが隣国の間者で、王弟が解っていて見逃していたら、それは大問題。王位継承権をなくすだけの大ごとになるかな?」

「決定的な証拠を掴めるまでは、表沙汰にしちゃだめだけどね。マリス様、くれぐれも暴走しないように」

「解ってる」


 シンシア様は、立場をうまく使って、お嬢様との距離を詰めている。ただ付いて歩くだけの私とは違い、お嬢様が王女として違う世界に行ってしまっても、シンシア様なら気兼ねなく隣を歩けるのだ。


「カティ、どうかした?」


 何となく沈んでいたらしい。お嬢様が心配そうに顔を覗き込んできた。


「いえ、何もありません。もし何か手が必要でしたら、なんでもおっしゃってくださいませ」

「エレイナ関連はディルにやらせるから大丈夫。ありがと」


 今は細かい悩みは抜きにして、日々の生活においてお嬢様の役に立てる事実を大事にしよう。お嬢様は、私がいないと朝も起きられないし、信じられないことにお茶も自分で淹れられないのだ。蒸らす時間が短くてお白湯のようなお茶か、長すぎて濃くて飲めたものじゃない液体が出てくる。


「何か、失礼なこと考えてない?」

「まさか。では来年から、それぞれ二人部屋に変わるのですね。早めに寮長へ申請しておきますね」


 まずは事務仕事を請け負って、私は早速部屋を出て、寮長室へと向かった。


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