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娘の特技は暗殺術  作者: すっとこどっこい
学校&王宮編
51/78

三年目 その5

「シンシア、久しぶり」


 王宮に行った翌日、午前中は事後処理で潰れたので、マリスとグルケは午後から学校に向かった。事務室で教師と話をして、授業が終わった後に寮でシンシアやカティ、アンナと再会した。


「マリス様! お久しぶり。急に戻ってきたのね、びっくりしたわ」

「色々あってね。面倒な用事も押しつけられた」

「そうなの。私にできる範囲でなら手伝うから、何かあったら言ってね」

「ありがと。シンシアが男性なら、私の理想に近いかも」


 男? と首を傾げたシンシアに、マリスは軽く笑って謝る。


「ごめん、なんでもない。それより、みんなに相談」


 王宮での出来事を三人に可能な限りそのまま伝える。シンシアはある程度予想していたようで、驚きは少ないようだ。


「駄目な王子はどうやっても駄目な気はするけど、ここで言っても仕方ないし、まあいいわ。それより、マリス様はどうしたいの?」

「んー。まず、反王子の派閥は潰したい。争いを挑んできたんだから、全力を持ってお相手するつもり」

「うん、待って」


 マリスの宣言に、シンシアが手を上げて待ったをかける。


「気持ちは解るわ。とてもね。でも考えてみなさい。ゴドウィン公が王子を預かる話は、すぐに派閥にも王弟殿下にも伝わるでしょう。すると王弟殿下側から見たら、当然マリス様と派閥の方は決別したと判断するわね。実際、決別するでしょうけれど。でも、繋がりは持っておくべきだし、潰してしまうと後が大変だわ」

「グルケと似たような案だね。あいつも、潰すより利用しろって言う」

「解ってるなら、そう言ってよ。馬鹿らしい」


 シンシアが呆れた様子でぼやく。マリスは、諦めた様子を見せずに確認する。


「潰すが一人、利用するが二人。カティとアンナはどう?」

「え、私ですか?」


 話を聞いている時ですら居心地が悪そうだったアンナが、ますます引き気味になる。カティが同情するような目を向けながら、口を開いた。


「お嬢様、私も利用する方に一票です。これで三人。多数決ならアンナさんに聞くまでもなく確定です」

「むう。カティのいじわる」

「子どもですか。わがまま言いたいだけで、お嬢様も潰すつもりはないのでしょう? 同じ部屋ってだけで思い切り巻き込まれている、アンナさんの立場を考えてあげてください」

「確かに、アンナは可哀想ね。でも今さら部外者扱いもおかしいし」


 カティとシンシアが同情の目を向けると、アンナは必死の表情を作る。


「あの、お役には立てませんが、私はマリス様の味方です」

「ありがと。巻き込んでごめんだけど、これからもよろしく」


 マリスはいったん言葉を切り、カティとシンシアの顔も見回す。


「カティもシンシアも、無理ばかりでごめん。カティは雇われただけだし、シンシアとアンナは偶然なのにね。でもこの四人が同じ部屋で、手伝ってもらえて凄く助かる」


 ふわりと笑みを浮かべるマリスに、部屋の空気も柔らかくなる。一息つくため、カティがお茶を淹れなおして、お菓子を用意する。しばらくお菓子を食べながら雑談を行っていると、マリスが緊張した顔に変わった。


「誰か来る」


 疑問の声が上がる前に、部屋の扉が叩かれる。


「はい」


 マリスが目配せでカティに開けるよう指示をする。カティが扉を開けると、立っていたのはフィスノだった。


「マリス様、急な訪問でごめんなさい」

「いえ、それは構わないですが、よく今日戻ってきたって解りましたね」


 マリスは椅子から立ち上がって、フィスノを迎え入れると、椅子に座るよう案内する。


「あなたと、グルケ……だったかしら。お二人が戻られたら、すぐに解るよう根回ししておきましたの」

「あら、それは大変ですわね。どうして、とお伺いしてもよろしいですか?」

「ボーリウム殿が暴走して、ご迷惑をおかけしましたこと、私が代わりにお詫び申し上げますわ。彼も学校には出てきていないので、私が代理で参りましたの」

「ああ、その件ですか。フィスノ様に謝っていただく謂われはありません」


 マリスがとりつく島もないように遮断すると、フィスノは困った顔になる。


「ですが、彼は彼で、よかれと思って行ったのですわ。それに……」

「フィスノ様、謝罪は不要と申し上げましたわ。そもそも謝るにしても、相手が違います」

「違うとは?」


 途中で話を遮られたフィスノは、マリスの言葉に首を傾げる。


「ボーリウム殿が謝るのは、私ではなくグルケではなくって?」

「お言葉ですが、マリス様。貴族たるもの、安易に庶民などに頭を下げるような真似は……」

「フィスノ様、失礼ですが、本当に何をしにいらしたのかしら」


 マリスは口調だけは取り繕っているものの、怒りが抑えきれないような様子である。


「マリス様、落ち着いてくださいませ。フィスノ様、少しよろしいですか?」


 見かねたシンシアが口を挟む。顔を向ける二人に微笑んで、少しフィスノと二人で話をしたいとマリスに伝える。二人とも了承したのを合図に、シンシアがフィスノを連れて部屋を出た。



「フィスノ様、差し出がましい真似をして、申し訳ありません」

「いえ、マリス様が何をお怒りだったのか解らなかったから、助かったわ」

「マリス様の価値観では、貴族や平民という区分はなく、人間そのものの人柄で好悪や善し悪しを判断しておられます」

「え、でも、そんな……」


 言いかけて、フィスノの口が止まる。


「マリス様は貴族として育ったわけではないのです。よくあれだけ素直な性格になったものだと思いますが」

「では、さらわれた彼のために怒ったと?」

「そうですね。今日はもう、お帰りになられた方がよろしいかと。マリス様には、私からうまく伝えておきますわ」


 フィスノも考える時間が欲しいと思い、ありがたくシンシアの提案に乗った。



「……というわけで、悪気はなかったのよ」

「でも、立場が違うだけで馬鹿にする態度は気に入らない」

「マリス様の気持ちも解るけど、残念ながら貴族としてはマリス様の方が珍しいわ。私も始めはアンナにきつく当たったし」

「あの時は、私もうかつでした」

「あの時も結局すぐに折れたし、シンシアは十分貴族らしくないと思う」

「あら、それはマリス様が仲介なさったからですわ。ところで、フィスノ様はどうするつもりかしら?」


 シンシアが話を戻すと、マリスが難しそうな顔に戻る。


「シンシアはどう思う?」

「はっきり言って、貴族なんてフィスノ様のような考え方がほとんどよ。目の前で馬鹿にするのも当然。取り繕っていたり、馬鹿にしないだけ、フィスノ様は理解がある方だわ」

「あれで?」

「お嬢様、その言い様は失礼ですよ」


 カティが横から指摘を入れる。ちろっと舌を出して謝るマリスに、シンシアが提案をする。


「派閥をうまく利用する件、フィスノ様に手伝ってもらったらどうでしょうか。家格を考えると、マリス様を擁するゴドウィン家が後ろ盾に付いたバーネット殿下に対して、いつまでも反旗を翻していられませんわ。どこかで折れどころが必要です。反王子体制を隠れ蓑に、実は敵対勢力を探していたとなれば、立場は一転して危険な役目を担った英雄となります。フィスノ様ならば、乗ってくれるでしょう」

「シンシア、色々と考えてるね。うん、一点を除いて悪くない」


 一点? と首を傾げるシンシアに、マリスはまじめな顔で提案をする。


「これは個人的な諍いを抜きにしても、ボーリウムが責任者は駄目。あれは選民思想に染まっているし、油断していると暴走しかねない。彼を派閥から追放しないと、役に立たない」

「そうね。確かに孤児だからって簡単に殺そうとするような人は、邪魔になるわね」



 あらためてフィスノと秘密裏に話をする準備を整えて、首尾良く協力を取り付けた。その際、事前の打ち合わせ通りボーリウムの派閥脱退に加えて、いざという時の援護を、マリスのゴドウィン公爵家とフィスノのライゼン公爵家が相互に行う約束も取り付けておいた。保険は多い方が良い、というお互いの意見がかみ合った結果の約束であった。


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