三年目 その1
年度が変わり、マリスたちは三年生になった。
しかし学校が始まっても、生徒の中にマリスとグルケの姿はない。始業式の後、寮の自室に戻ってからシンシアはカティに質問していた。
「マリス様はいつこちらへ来るの?」
「詳しくは決まっていないそうで、長引くと前期はほとんど出られないと聞いてます」
「それは寂しいわね」
じゃあ前期は面白くないな、とつぶやく。
「二人ともお屋敷で勉強漬けになってました。シンシア様が顔を出されると、喜びますよ」
「そう? じゃあ次のお休み、アンナも一緒に三人で向かいましょうか。カティはずっと戻ってるけれど」
「お嬢様がいないのに通っているのが、自分でも不思議なんですけどね」
シンシアの言葉にカティは苦笑いを浮かべた。シンシアは面白くなさそうに言葉を続ける。
「あら、マリス様が今後どうなるか解らないけれど、カティはちゃんと学校を卒業しておく方が良いわ。箔は付くし、文句を言う人も減るわ」
「そうですね。お嬢様に恥をかかせないよう、精一杯努力いたします」
シンシアは早々にゴドウィン邸へ行く予定を立てたが、マリスたちは国王に呼ばれていたため、日程がかみ合わなかった。
日程が合わないとシンシアに伝えると、シンシアから手紙が送られてきた。事細かに苦情が書かれていたが、マリスは「ごめん」とだけ書いた手紙を返しておく。
午後から謁見の時間が設けられており、午前中からディルに連れられてマリスとグルケは王宮で待機していた。
しばらく黙って待っていたが、謁見の時間まではかなり時間が余っている。
「暇。ちょっと散策してきていい?」
「ああ、庭だけならいいぞ」
「じゃあ行ってくる。グルケはどうする?」
「俺はいいよ。でも、一人で大丈夫か?」
「大丈夫。問題ない」
マリスは部屋を出て、庭に向かった。窓の外がすぐ庭に繋がっているが、マリスが窓から出ようとするとディルに怒られたため、仕方なく大回りしている。
廊下を歩いていると、通りがかる侍女や兵士たちがマリスを見てひそひそと噂をしている。マリスは気にする様子を見せずに、歩調を変えず進む。
庭に出て散策していると、マリスと同年代の少年から声をかけられた。
「あれ、マリス嬢ですか? どうしてここに?」
マリスが目を向けると、上背がありふっくらとふくよかな体型の、上品そうな格好をした少年が近寄ってきた。マリスは初対面で名前を言い当てられて、首を傾げながら素性を問う。
「あなたは?」
「これは失礼。僕はバーネット。お初にお目にかかります」
大仰に一礼し、笑顔をマリスに向ける。バーネットといえば、第一王子の名前である。マリスは初めて見る顔だったが、相手はマリスを知っていたらしい。
「大変失礼いたしました。マリス・ゴドウィンです」
「いや、気にしなくていいよ。僕は表に出ていないからね。マリス嬢は学校に通っていた時、よく見かけましたよ」
「それは……お目汚しいたしました」
「マリス嬢は可愛らしいから、全然問題ないというか、見ていて楽しかったよ」
「お褒めくださいまして、ありがとうございます。ところで、先ほどのご質問ですが、陛下にご挨拶をさせていただくのですわ」
マリスが頭を下げながら、バーネットの質問に答える。バーネットは驚いた顔を作りながら、興味がないとばかりに別の話題を持ち出す。
「へえ、父上に。なら、今日の夜会に参加されるのかな?」
「それは……お父様に確認しなければ、どちらとも言えませんわ」
「固いね、なんとも。これから時々は王宮に顔を出すのかな?」
「いえ、今日はご挨拶にお伺いしておりますが、また学校に戻りますので、少なくとも卒業まではそれほど顔を出さないですわ」
「学校なんか別にいいのに。まあいいや、気が向いたらいつでも来たらいいさ。ゴドウィン公爵のご息女として、ね」
最後の一言に力を込める。マリスは優雅に一礼して、時間を言い訳にして席を外した。
「ただいま」
「お帰り。庭、どうだった?」
マリスが戻ると、部屋にはグルケだけ座っていた。
「ディルは?」
「誰かに呼ばれて出て行ったよ」
「そう。庭は別に普通。綺麗な花もあったから、庭師に送ってもらうようお願いした。帰ったら、時間を作ってシンシアに持っていく」
「ああ、怒ってるそうだな」
「私のせいじゃないのに」
「俺も会った時に謝っておくよ」
「それより、王子に会った」
マリスが告げると、グルケは面白そうな話だと判断したのだろう、それまで適当に会話をしていた感じだったが、身体ごとマリスに向き直る。
「へえ。どうだった?」
「太っていた。鈍重。さくっと狩れそう」
「いや、そうじゃなくてさ。人間的な部分というか、性格とかは?」
「思ったより頭は悪くない。牽制を入れてくる程度の知恵はある。少しの会話だったから、細かいところは不明」
「牽制?」
「いつでも王宮に来てもいいって。ディルの娘として」
「なるほど」
二人でバーネットについて話をしていると、ディルが戻ってきた。同じ話を繰り返しているうちに時間となり、マリスたちは謁見の間に向かった。




