二年目 年度休み その5
二人は昼過ぎに起きて、すでに起きて食事を終えていたグルケと合流する。これからどうするか相談をしながら、ディルからの連絡を待った。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
それなりの時間が経った頃、侍女に呼ばれた。さっそく三人はディルの執務室に向かう。
マリスは扉を叩き、返事を待たずに開ける。何やら書面を確認していたディルは、三人が入ってくると椅子に座るよう指示する。
「どうするかの方針なんだけどね、まずは聞いてくれるかな?」
「内容による」
「クラン候には、グルケくんが先王陛下の子どもだって伝える。だから無理してでも突入したって言えば、向こうも事を大きくなるとまずいからね、黙るしかない」
グルケが反論したそうにしているが、何も言わず座っている。横に座っているマリスが助け船を出す。
「グルケ、何か言いたければ言っていいよ」
「あの、すみません。俺がその、先王の子どもってのは間違いないんですか?」
「間違いないよ。ただ、気を悪くしないで欲しいんだけど、俺としてはきみの優先度は低かったんだ。元孤児っていうと、うるさ型の人たちに素質面で色々と言われかねないからね」
ほら証拠、とディルがグルケに書類を渡す。グルケが受け取って内容を確認している。マリスは横からのぞき込んだ。書類には、先王の庶子が生まれて誰に預けられたか、また預けた後の顛末が書かれている。書類の内容が本当だとすれば、グルケとマリスが二人とも先王の子どもであり、異母兄妹になる。
「ディル、これはどこで手に入れたの? 信用できるの?」
「当時、先王陛下付きの侍従が作ったものだよ」
「そう」
おや、とディルが面白そうな様子でマリスをからかう。
「あまり驚いていないね。もっとこう、偽物だって騒ぐかと思ったのに」
「色々と証拠が揃っている状況で、騒いでも仕方ない。それより、これからどうするかの方が大事」
「そうか。それは何より」
「すぐに名乗りを上げた方が、ディルにとって都合が良い?」
「俺としては、もう少し後だね。王子がぼろを出してからの方が都合が良いかな」
ディルとマリスは相談を続け、時々グルケの意見を確認する。
「じゃあ、グルケの後見はローリー卿にお願いしよう。マリスは俺の養子だから、当然だけど俺が後見人になるよ」
「それでいい」
「ローリー卿には俺から連絡を入れておくよ。シンシア嬢には、マリスから手紙を書いてあげて。色々と準備と根回しもあるから、三人とも学校が始まってから十日ほどは行けないと思うが、我慢しな」
ディルの言葉に誰も反論せず、いったん解散となった。
ディルの執務室を出たマリスたちは、談話室で話を続けた。
「お嬢様が王女様で、グルケくん……グルケ様が王子様ですか」
ほうっとため息をついて、カティが遠い目をしている。
「様なんていらねえよ。俺は別に、何が変わるってわけでもないからな」
「いえ、そういうわけにはまいりません。今はともかく正式に発表すれば、呼び捨てには出来ません。お嬢様も、今後はもっと位の高い侍女をお付けになるべきですね」
「そんなのいらない。カティに任せる」
「二人とも、立場を考えてください。王族として生きるのでしたら、ほとんどの方に敬われて生きるのですよ。身の回りを整えるにも、たくさんの従者にやってもらうのですよ」
「そりゃ、自分で出来ないとやってもらうしかないけど、私はだいたい自分でできるし、カティに手伝ってもらえたら十分」
それに、とマリスは続ける。
「何も自分でやらないで、ちやほやされて楽をする。そんな生活がしたいだけなら、第一王子を問題視できなくなるし」
「そうだな。庶子ってことで、権威がそれなりにあって、牽制としてもやりやすいだろうから認めはするが、自分が贅沢する気にはならねえな。出来るなら、孤児の境遇をもう少しましな暮らしにしてやりたいけどな……」
「そうだね。私もグルケも、王になりたいとは思わないし、なれるとも思ってない。ディルはああ言ってたけど、王子がぼろを出すのを待つより、王子の自堕落な生活や傲慢な考えを改善させられたら十分と思う」
二人の話を聞いて、カティは首を横に振る。
「ご立派なお話ですけど、つまり環境を変えたくないっていうわがままですよね」
うっ、と言葉に詰まった二人に、カティは満面の笑みを浮かべた。
「今はきつく申しませんが、よろしいですか。もし王宮で生活するようになれば、今のままだと侮られます。それなりに周りを使うことも覚えてくださいませ」
「十分、きついと思うよ。しっかり者の侍女が親友だと、色々と助かるなあ」
微妙な棒読みでマリスがありがたがる。親友という単語で、カティの小言が止まる。隙を付いて、マリスはしてやったりと笑い顔になる。
「ちょっとは言い返さないとね。さて、シンシアへの手紙書こう」
楽しそうに部屋を出るマリス。ついて行き損ねたカティに、グルケが判定を下した。
「今のはマリスの勝ちだな」




