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二年目 年度休み その4

 ボーリウムの屋敷から脱出したマリスは、ゴドウィン邸に戻ってきた。学校に戻るには少し遠く、グルケも背負っているため体力面でも不安が残る。

 マリスは裏門で見張りの兵に見つかり、声をかけられた。


「マリスお嬢様!」

「ただいま、ちょっとディルを呼んでもらえる?」

「はい、お待ちくださいませ」


 屋敷内に入り、応接室でグルケの様子を確認する。枷で手足が傷ついている他、あざは残っているが、骨が折れてはいないようだ。


「打撲だけみたい。ひとまず安心かな」

「悪かったな。どうやって居場所を掴んだ?」

「ディルが来たら、まとめて説明する」


 グルケの質問に、しばし待つよう伝える。


「待たせたね」


 しばらく待っていると、ディルが部屋に入ってきた。


「寝てた?」

「いいや、そういうわけじゃない。グルケくん救出案を練っていたんだよ。どこぞの馬鹿な子が暴走する前に、と思ったけど、暴走するの早かったね」

「暴走じゃない」

「それは、どうやって助けたか聞いてから判断しよう」


 グルケも横で話を聞く体勢になっている。マリスは、二人に情報の集め方から判断基準、救出の方法を説明した。


「馬鹿か、お前!」


 グルケから罵声が飛び、マリスの顔が不機嫌そうにゆがむ。


「利口なやり方じゃないね。捕まると終わりだけど、マリスが捕まるとは思えないから、そこは気にしないでおこう。でも、クラン候に顔を見られただろう? それはまずい。しかも、子どもの喧嘩で終わらせるには、人を殺しているのが問題だ。これは、色々と厄介なことになりそうだ」


 クラン候? と首を傾げるマリスに、ボーリウムの親だとグルケから説明が入った。初対面の時にそう名乗っていたらしい。マリスは覚えてないとうそぶき、駄目だしを行うディルに反論を打つ。


「でも、放っておいてグルケが殺されるのはまずいと思った」

「カティにけしかけられてね。まさか、カティが抑えずたきつけるとは思わなかったな」

「行動したのは私であってカティじゃない。カティは関係ない」


 マリスが余分なことまで言ってしまったと落ち込んでいると、グルケからも若干の援護が入った。


「あー、でも、たぶんボーリウムの奴、明日の朝には俺を殺してましたよ」

「どういうことだい?」

「半ば朦朧としていたんですけど、殺して貧民街の路地に転がしておけば疑われたりしないだろうって」

「へえ。じゃあ、マリスの行動も結果から見ると悪くなかったね」

「そもそも、拉致監禁なんてする方が悪いに決まってる」

「そうなんだけどね。うーん、まあいいか。でもマリス、しばらく自宅謹慎な」


 ディルの言葉に、マリスがいぶかしげな顔をする。


「三年になるまでに片が付いたらいいけど、付かなかった場合は学校どころじゃないからね。カティも呼び戻すよ。あと、グルケくんはしばらくここに匿おう。学校には行っておくから。まずは怪我の治療だね」

「急に籠もったら、シンシアやアンナに心配をかける。それに、カティにも都合があるだろうし」

「問答無用。巻き込まれたのは確かだけど、きみも問題を大きくしたからね。今は俺の言うことを聞いてもらうよ。とにかく、今日はもう休みなさい」

「カティに、朝までに戻るって言ってる。戻らないと」

「駄目。朝一番で使いを出すから、大人しくしてなさい」


 マリスは面白くなさそうな顔をしていたが、黙って頷いた。グルケは侍従に案内されて、応急手当を受ける。

 そしてマリスは自室へ戻り、グルケも客間を借りて、床に就いた。マリスはしばらく眠れずにいたが、時間が経つうちに、うとうとと眠りだした。



「お嬢様! ご無事で良かったです!」


 マリスが寝ていると、カティから襲撃を受けた。慌てて目を向けると、目を真っ赤にしたカティが扉を開けて走り寄ってきていた。

 寝台のそばで立ち止まり、勢い込んで聞いてくる。


「お怪我は? 気功の使いすぎで痛むところはありませんか?」

「大丈夫。問題ない。だいぶ筋肉も付いてきたから、短い時間だと寝たら回復する。戻れなくてごめん」

「気にしないでくださいませ。というより、その、起こしてしまって申し訳ありません……」


 寝ているところを起こす必要はなかったとカティが恐縮していたが、マリスは近付くよう手を振る。

 届く範囲に入ると、マリスはカティを寝台の上に引っ張り上げた。


「お嬢様?」

「カティ、寝てないでしょう? 目が真っ赤。一緒に寝よう」

「あの、大丈夫です。侍女長からしばらくお屋敷にいるとお伺いしています。ですから、私は部屋に戻ります」


 個室ではないが、侍女には二人で一部屋が割り振られている。カティは学校で生活しているが、部屋の割り振りはそのままで残してあった。


「いいから。今日はもう、一日中のんびりしよう」

「それは駄目です。グルケくんを今後どうするかも決めなくてはいけないでしょう?」

「じゃあ、せめてお昼まで」


 マリスは言いながら、カティをぎゅっと抱きしめる。


「もう、解りました。解りましたから、放してください」

「別にいいじゃない」

「お嬢様?」


 マリスの声音が普段と違っている。カティは不思議そうにマリスの顔を覗き込んだ。


「昨日、久しぶりに人を殺した。昔はなんともなかったのに。あの人、家族いたかな? 家族がいなければいいってわけじゃないんだけど。もしカティやシンシア、グルケが死んだら私は凄く悲しい。昨日殺した人にも友人はいるだろうから、その人は悲しむだろうな、って」


 マリスは言いながら少し震えている。昨日は気が立っていたしグルケの救出を優先していたが、今考えると、殺す必要はなかったのではないかと思い、不安になっている。


「お嬢様、落ち着いてください。確かに、殺したのはまずかったのかもしれません。現場を見ていない私がどうこう言えるものではありませんが、お嬢様に問題があったとは思いません。そもそも、悪いのはグルケくんを誘拐しておきながら、お嬢様を甘く見ていたボーリウムですわ」

「……うん。カティ、ありがと」


 カティはぎゅっと抱きついてくるマリスを抱き返し、頭を撫でる。しばらくすると、安心したように寝息を立て始めたのを見て、カティは笑みを浮かべて目を閉じた。



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