二年目 後期 その5
会合の日。マリスたちは指定された場所に向かっていた。
「向こうの拠点で打ち合わせって、こちらに不利じゃないかしら」
「でも、大勢で部屋に押しかけられても困る」
「それほど広くもないですものね」
マリスとシンシアが話しながら歩く。少し後ろではアンナが緊張しているのか、顔が引きつっている。
「アンナさん、そう緊張しなくても大丈夫ですよ。私たちはいわゆる立会人みたいなものですから」
「でも、カティさん。こっちはただでさえ人数が少ないのに、役に立たないのが二人もいるんですよ!」
アンナの言葉に、マリスとカイトが吹き出し、グルケが機嫌悪そうに返す。
「言ってくれるね。俺だって、好きで行くわけじゃねえんだぞ」
「ま、まあまあ。別に争いに行くわけじゃないんですから。お嬢様が上手く立ち回ってくれますよ」
「本当か……?」
懐疑的な顔をするグルケだったが、アンナが不安そうにしているためか反論は口にしない。
「おしゃべりはこの辺でやめておきましょう。そろそろよ」
シンシアが注意をうながし、全員が少し緊張した様子で表情を引き締める。
すぐに部屋が見えてきて、前に立っていた生徒がマリスたちに気付く。
「ようこそおいで下さいました、マリス様、シンシア様。フィスノ様たちは、中にいらっしゃいますので、どうぞお入りください」
「ありがとう。あなたは参加なさらないの?」
「ええ。このまま、見張り替わりに立ってますよ」
「それは大変ね。ご苦労様です」
案内の生徒が先導して、マリスたちは部屋に入った。部屋には、フィスノの他十名ほどが待っていた。中にはセイゲリーの姿もある。
「ようこそ、マリス様。わざわざお越しくださいまして、ありがとうございます」
「いえ、とんでもない。それぞれ、自己紹介は必要でしょうか?」
「マリス様とシンシア様は存じておりますので、そちらの自己紹介は不要です。名乗り遅れました、私は責任者をしているボーリウム=クランと申します。お見知りおきを」
ボーリウムと名乗った男は、続けて侯爵家の長男と自身の説明をする。挨拶を終えて十名の中に目を向けると、エレイナの姿もある。
用意されていた椅子に座り、ボーリウムと向き合う。
「議題は、えっと、私の出自に問題があるというお話でしたわね?」
マリスが相手の言い分に逆らう口調で確認をすると、フィスノが横から反論をする。
「いいえ、問題があると言っているわけではありませんわ。その、失礼ながらゴドウィン公爵ほどの方が巧妙に隠す理由というのが、私たちの考えでは一つしか存在しないのですわ」
「日頃の態度も礼儀作法も、嫡男というだけで次期国王の立場にいる方とは大違いです。フィスノ様もですが、マリス様も間違いなく上に立つ者としての矜持を持ち、責任感もある方だと見受けられます」
フィスノに続いて、ボーリウムもマリスをおだてている。マリスは表情を変えず、話の続きを促した。
「つまり、前王陛下の行方不明になった庶子がマリス様なのかどうか、ご本人の口からお伺いしたいのですわ」
マリスは二人の言い分を聞いて頷き、ほんの少しだけ時間を置いて、口を開いた。
「肯定や否定をする前にお伺いしたいのですが、仮に私が庶子だったとして、お二方は何を求めていらっしゃるのです?」
我が意を得たりとばかりに、ボーリウムが語り始める。
「我々は今の国王陛下には何の不満もありませんが、第一王位継承である王子には、少なからず不安を感じております。彼が王になって、果たして国が治められるのか。そこで噂になったのが、前王陛下の隠し子のお話です。前王陛下の血を引く方は他にもいらっしゃいますが、すでに降嫁しておられたり、継承権の低い方ばかりで対抗馬となれるほど優秀な方もいらっしゃいません。もしマリス様が前王陛下の隠し子だとすれば、我々はマリス様が王女としてやっていけるようにお手伝いいたします」
一気に語ったボーリウムに、マリスは冷めた目線を送る。
「私かどうかは別の話として、仮に前王陛下の隠し子がいたとして、継承権は低いですわ。そこはどうお考えですか?」
「低いならば、上げればいいだけの話ですよ。例えば子竜を懐かせてみたり。戦争に使えれば、大きな戦力になりますよ」
「パピィは学校行事で見つかって、学校で育てています。私の功績は別に何もありません。ご存じではなかったのかしら。それと、あの子を戦争に使えるのは、果たして何十年後でしょうかね?」
道理を知らない者に言い聞かせるような口調のマリスにボーリウムの顔が赤くなるが、フィスノが落ち着くように手振りで抑える。
「あら、意外と煽るのがお上手ですのね。でも、ご存じでないのはマリス様も同じですわ。学校を卒業するのは十五才、成人の年齢です。そして、その時に学校からゴドウィン公のお屋敷に子竜を移す予定になってますわ。この意味、聡明なマリス様なら解りますよね?」
「……どうして?」
学校からもディルからも話を聞いていないマリスは、思わず素に戻って疑問を口にした。
「竜の刷り込みは、あなたが思うより大きなものらしいですわ。私も今回の件で知ったのですけれど、親と認識したもの、そしてその子孫に、竜が死ぬまで懐いていた事例があったそうよ。離れる期間もあったらしいから、もしかすると離れた時に子作りをしていたのかもしれないわ」
「それは、知らなかったですわ。フィスノ様、教えてくださいまして、ありがとうございます。思っていたより危険な立場ですね、パピィ。国が管理できず、私個人に懐くとなると……」
「マリス様であれば、何の問題もございませんわ。何せ、将来の女王陛下ですものね」
マリスは考えに没頭していて、フィスノの発言を否定しなかった。我が意を得たりと立て続けにまくし立てようとしたところに、横やりが入る。
「ちょっといいっすか? 今、マリス様は思考が止まっちゃってるんで、否定しなかったというのと言質を取ったのとは違うと思うんすけど、そこんとこ大丈夫っすかね?」
「グ、グルケ、言葉遣い!」
隣でアンナが引きつった顔で服の裾を引っ張るが、グルケは気に留めずにシンシアに目線を向ける。
「失礼な! 何だ貴様は!」
「ボーリウム殿、落ち着いて。確か、二年生のグルケだったかしら」
「ええ。そっすよ」
「一年生の時、マリス様と並んで学力考査で主席だったと聞いたのだけれど、まともに敬語も使えないような者に与えるなんて、学校の質が落ちたのかしら?」
フィスノとボーリウムの二人から敵意を受けて、グルケは大仰にお辞儀をする。
「それは、大変失礼致しました。出自の卑しい不調法者ですので、ご勘弁願います。ご覧の通り、マリス様が考え込んでおられますので、少しお待ちくださいますと幸いです。よもや、公爵家や侯爵家に名を連ねる方が、お相手のご意向を無視して話を進めるような真似はなさいませんよね?」
二人は、急に正しく敬語を使い始めるグルケに虚を突かれる。言葉に詰まっているうちに、マリスが会話に戻ってくる。
「失礼しました。えー、お話から判断いたしますと、フィスノ様たちと手を結ぶのは、私にとって利点があるとは思えません。私を前面に押し出して王子殿下に反旗を翻し、問題があれば私を切り捨てれば逃げられるようにお考えではないですか? 偽王女を騙ったのは私一人、しかも王女ではないとなれば、元々養子なくらいだから、身分も大したことがない、と」
「そ、そんなつもりは……」
「そんなつもりが無いのであれば、今後の活動で示してくださいませ。私も王子陛下がこのまま国王になるのは、問題がないとは言いません。国が乱れない方法で進められるのでしたら、私も微力ながらお手伝いいたしますわ」
「解りましたわ。マリス様、今のお言葉、お忘れ無きよう」
行こうと周りに声をかけて、マリスたちは部屋を出る。その間際、マリスの耳はボーリウムのつぶやきをとらえていた。
「あいつ、年下の分際でよくも……」




