二年目 後期 その4
マリスは翌日の午前中に情報収集を行い、昼からさっそくセイゲリーとの密会に臨んでいた。教室では話しにくいため、約束を取り付けてくれたアンナも誘って中庭で昼食をとる。
「急なお話でごめんなさい。相談したいことがあったの」
「いえそんな、声をかけていただき光栄です」
マリスが微笑みを向けると、頬を赤くしながら答える。
「アンナと去年の魔法戦について話が出て、セイゲリーさんの魔法が抜きん出ていたって話題になったの。あまりお話をしていなかったけれど、よければ仲良くしていただけると嬉しいわ」
「私で良ければ、喜んで。しかし、お父上は良い顔をしないのでは?」
セイゲリーの親であるラナン子爵は、ディルを毛嫌いしている公爵に連なる家系のため、マリスに確認を取ってきた。
安心させるために、マリスは手を左右に振る。
「気にしなくて構いませんわ。早速だけど、フィスノ様ってご存知かしら?」
「ええ、それはもちろん。私もあの方の所属している派閥に入っておりますので」
セイゲリーの言葉に、事前の打ち合わせ通りアンナは驚き、口元を手で塞ぐ。
「あら、そうでしたの。では話は早いですね。先日フィスノ様からご相談をいただいておりまして、あらためて場を設けるというお話になりましたの」
「私はその話し合いには参加しませんので詳しくは聞いておりませんが、先だってマリス様にご迷惑をかけてしまった方々のことですか?」
「ええ。と言っても、その方々に関してではなく、その時に上がった質問についてね」
マリスは言葉を切って反応を伺うが、セイゲリーは知らないようで、黙って続きを待っている。
「私がディルグノー=ゴドウィン公爵の実子ではないのはご存じだと思います。それで、私の出自について質問をされたのです」
「何か問題になったのですか?」
「フィスノ様に逆らう気は無いし、出来るだけ邪魔にならないようにするけれど、もし諍いが起きそうになった時のためにセイゲリーさんの力を貸して欲しいと思ったの」
「なるほど、どのような状況でもとは申せませんが、マリス様に非がないにも関わらず難癖をつけるような時は、マリス様のお力になれるよう尽力いたします」
セイゲリーの言葉に、マリスは満面の笑みを浮かべて手を握る。
「ありがとうございます。とても心強いですわ。お父様にも、セイゲリーさんが手伝ってくださること、伝えておきますわね」
セイゲリーのために、味方をする利点を示すマリス。セイゲリーはお気になさらずと謙遜しながらも、嬉しそうにしている。
その後は、雑談で時間を潰して、お昼の密会は終了した。
「で、俺にどうしろって?」
「グルケは来てくれたらそれでいい。連中の人となりを見定めておいて。カイトは、悪いんだけどカティやアンナ、グルケの護衛をお願い」
夕方、マリスは部屋にグルケとカイトを呼び、六人で打ち合わせをしていた。
「解らねえな。そのフィスノって奴、お前らみたいな奇特なのと違っていわゆるお貴族様だろう。俺が行ったらこじれる元になるだろう」
「そんなのは関係ない。文句を言われるのを我慢してもらう必要はあるけど、グルケには一緒に行ってもらう必要がある」
「だから、それが解らないっての」
「まあまあ、落ち着いて。カイトくんは構わないの?」
マリスとグルケが言い合っているのを仲裁しつつ、シンシアは文句を言わないカイトに声をかける。
「俺が弱い子を守るのは当然だからな。問題ないぜ」
「いや、なぜ一緒に行くのかは気にならないのか?」
「え? 頼まれたから行く。なんかおかしいか?」
「ああ、うん。もういいや」
グルケはカイトの返答に毒気を抜かれたようで、ため息を吐いて念を押してきた。
「俺は何も助言しねえぞ。本当にそれでいいんだな」
「大丈夫。問題ない。内容はしっかりと聞いていてくれたら、それでいい」
マリスの言葉に、グルケだけではなくシンシアも不思議そうにしていたが、マリスはそれ以上説明はしなかった。
二人が部屋から出た後に、シンシアはマリスに質問を投げる。
「カイトくんはともかく、グルケくんは何のために?」
「念のために。今後、グルケが必要になるというか、グルケに必要になるというか」
「グルケくんに……?」
いぶかしげなシンシアに、マリスがこれ以上は聞かないで欲しいとお願いする。 不承不承ながらも、シンシアは首を縦に振った。
「まあ、マリス様はグルケくんが気になっている、ということにしておくわ。そろそろ色気づいても良い頃ですものね」
「いや、待って。それは違う。関係無い」
「ふふ。赤く……なってないわね。面白くない」
「さて、そろそろ夕食の時間ですよ。お嬢様もシンシア様も、まずは晩ご飯を食べてしまいましょう」
そして数日が経ち、事情通の間では隠し子の話が出回り始めた頃、マリスたちと反王派閥で会合をする日になった。




