二年目 後期 その3
馬車の中で、マリスはカティに説明した。
「なるほど、よく解りました。グルケとお嬢様が似ているかどうか確認、誰にも秘密とおっしゃった意味も、大変よく解りました」
「うん。シンシアにはある程度説明する。それと、カイトとグルケを今のうちに巻き込んでおくつもり」
「そうですね、特にグルケは、後で横から文句を言われないようにしておく方がいいでしょうね」
「そのうちに、ばれて大ごとになる。なるべく被害は少なくしたい」
話しているうちに馬車が学校に到着して、マリスとカティは御者と一緒に荷物を運んだ。
「カティ、ちょっと多すぎる」
「服も大きさが合わなくなってきましたし。傷んできた小物類も新調してもらいました」
ふふふ、と嬉しそうに含み笑いを漏らしながら、カティは両手いっぱいに荷物を持って部屋まで歩く。マリスは動きやすければ服なんて何でも良いと思っているが、大きく文句は言わない。
「ただいまー」
「ただいま戻りました」
マリスは部屋に戻って荷物を置くと、付いてきていた御者から荷物を受け取った。
「ありがと。ディルによろしく言っておいて」
「かしこまりました、お嬢様」
部屋の中に四人だけになると、早速マリスは問題について話し始めた。
「まず、彼らの目的は第一王子の失脚。方法の一つとして、代わりの王位継承者を探し出して御旗として立てるというのを考えた」
「代わり?」
「うん。ディルも知っている情報で、二年生の中に先王陛下の隠し子がいるらしい。私も彼らから聞いてびっくりしたけど、どうも私がその隠し子だと思ったみたい」
マリスは一息ついて、カティが淹れてくれたお茶を飲む。質問が上がらないのを確認して、説明を続ける。
「私を王女として立てて、甘い汁を吸おうと思ったんだろうね。とりあえず断った。ディルから、次の機会にぼやかして欲しいと言われた」
「質問いいかしら。ぼやかすって言うけれど、マリス様は王女なの? それとも、二年生の中に隠し子がいて、ゴドウィン卿ですら誰か解らない?」
「……王女に見える?」
試すようなマリスの口調に、シンシアもアンナも絶句する。数十秒経った後、アンナが口を開く。
「王女様でも、不思議はないと思います。公爵家のご令嬢というのを差し引いても、剣の腕も顔つきの凜々しさも二年生の中では群を抜いてます」
「そう? ありがと。剣の腕だけならカイトの方が上だし、凜々しさっていう一点ならシンシアの方が凜々しい気がするけどね」
「気功を入れたらマリス様が一番強いですし、剣の腕だけでも、五本に二本はマリス様が取ってますよね。ほぼ互角っていうんですよ。あと、私の方が凜々しいっていうのは無しでお願いするわ」
マリスの言葉に、シンシアが真っ赤になりながら否定する。
「まあ、それはともかく。アンナは、王女でも不思議は無いと思うわけね。シンシアは?」
「違う、と思う。というより、思いたいというのが正しいかしら。もしマリス様が王女殿下だった場合、こうやって敬語を使わずお話をするというのは、たとえ二人きりであっても畏れ多くてできなくなるわね。個々の気持ちはどうあれ、立場によってどうしたって距離は離れてしまう。それは、とても寂しいと思うわ」
シンシアの言葉に、マリスはこれまで一度も浮かべたことがない泣きそうな顔になる。シンシアやカティが思っている以上に、これまでの人生で腹を割って話せる友人がいなかったマリスにとって二人の存在は大きいものになっている。
「そう。あ、ありがと。うん、私は王女じゃない。外に対してはあやふやな態度を取るから、シンシアとアンナは適度に合わせてくれたら助かる。でも、基本は認めていない立場だから、これまで通りでお願いしたい」
解った、と二人とも了承してくれた頃には夕食の時間となっており、連れ立って食堂へと向かった。
食事後、四人でくつろいでいると、部屋に客が来た。立ち上がって、部屋に入ってくる女性を出迎える。
「歓談中に失礼します。私、四年生のフィスノ=ライゼンと申します。こちらはエレイナ。以前、訓練場でマリス様にご挨拶していると聞いていますわ」
「お噂はかねがねお伺いしておりますわ、フィスノ様。ライゼン公爵様のご容態はいかがですか?」
去年はライゼン公爵の娘と接触がなく、ディルからの情報しか持っていない。それでも、近ごろライゼン公爵の体調が悪く、屋敷に籠もっているというくらいは聞いている。
「ええ、おかげさまで随分と良くなりまして、ここ数日は登城もできておりますわ」
「それは何よりです。ところでフィスノ様、何かご用件がおありでしょうか?」
マリスやシンシアが挨拶を済ませた後、用件を伺う。フィスノはシンシアとだけ挨拶をして、当然のようにカティやアンナをいないものとして扱っている。
「ええ。先だって挨拶をした人たちに変わって、お詫びと再確認をさせていただきたくて」
「お詫びですか?」
「前触れもなく、急なお話で混乱させてしまったかと思いましてね。出自のお話で」
「いえ、フィスノ様に謝っていただくようなことではありませんわ」
「私たちの派閥で話題に上がって、こらえ性の無い生徒が暴走したのですもの。責任は、上のものにありますわ」
「そうですか。では、お言葉、謹んでお受けいたします」
大仰に頭を下げて、他に用がなければ帰って欲しいと含めるも、フィスノは言葉遣いだけは丁寧に、しかし話したいままに会話を続ける。
「ところで、マリス様、彼らがお伺いした内容の再確認なのですが、実際のところはどうなのでしょう?」
「どう、とは」
「王女殿下なのかどうか、ですわ。もちろん本当だとすれば、誰彼構わず言いふらせる内容では無いのは、重々承知しております。ただ、国政に関わる大事件ですので、大貴族の努めとして知っておかなくてはいけないことだとは思わなくって?」
「確かに、フィスノ様のおっしゃるのはごもっともです。よろしければ、近々時間を合わせて、フィスノ様と他に信頼できる方数名、こちらも信頼できる人を立ち会わせて、今後のための打ち合わせをさせていただけませんか?」
この場では話せない点、話すつもりはある点を強調すると、フィスノはあっさりと一歩引いた。
「結構ですわ。では、日時の調整はあらためて。失礼」
部屋を出て、しばらく待って遠ざかったのを確認してから、マリスはぼそりと呟く。
「さっそく、大きい魚が釣れた」
「マリス様、時間を空けたのは、作戦を立てるためですか?」
「うん、それもある。あと、こっちは派閥じゃないけど、陣営として二年生の実力者は私の味方だって思い知らせたい」
「カイトくんのこと?」
「そう。あとはグルケも。あと、魔力が一番高いのって、セイゲリーだっけ。彼もできれば引き込んでおきたい」
マリスがアンナに目を向ける。アンナは、少し考えた後、笑顔で頷いた。
「セイゲリー様も、マリス様と繋ぎが取れると喜ぶと思います。上昇志向の方ですから」
「そう。なら、一度挨拶しに行くから、暇な時がいつか聞いておいて」
セイゲリーとは面識が薄いため、今回の立ち会いには入れないが、グルケとカイトには参加してもらいたい。マリスはそう言って、まずは四人での話し合いを進めていった。




