二年目 後期 その2
マリスは部屋に戻ると同時に、三人から無事で良かったと安堵の言葉をかけられた。カティがお茶を淹れ、一息ついたところで、率直に切り込んできた。
「お嬢様、どういったお話でしたか?」
「えっと、彼らの勘違い」
マリスは眉間にしわを寄せながら、カティの質問に答える。首を傾げて続きをうながす三人に、言いにくそうにしている。
「壮絶に勘違いをしていた。どうするべきか、対処がちょっと解らない。次の休みにディルに相談してくるから、待ってくれる?」
「ゴドウィン卿に? それは大ごとね」
「多分、私が警戒しすぎているだけ。でも、念のため」
ディルに聞いて問題なければ説明すると約束して、お開きとなった。
そして、休みの日にマリスはカティを連れて、ゴドウィン邸に戻ってきた。カティはせっかく戻ってきたからと新しい服や小物を補充するようだ。手配のために動くカティと別れて、マリスは一人でディルの執務室に入った。
「さっそくだけど、手紙に書いた内容で質問したい」
「ああ、そっちから質問する前に、事情を説明するよ。まさか馬鹿が言い回っているとは思わなかったけどね」
ディルは大仰に首を振ったあと、説明し始めた。
「まず、隠し子の話は本当。細かい部分は言わないが、彼らの説明は間違ってない」
「肝心の部分が間違ってる。私が王女なんかじゃないのは、ディルが一番よく知ってる」
「さてね。黒髪で、上流階級に繋がりがあって、素晴らしい剣術の腕前だった先王陛下もびっくりな実力。いやあ、大したものだ」
ディルの芝居がかった言い方に、マリスは珍しく声を荒げる。
「うるさい。馬鹿かお前。そんな表向きの話を聞きたいんじゃない」
言いながら、ふとマリスが視線を落とす。
「私が王女だと誰が得をするの……というより何が目的? いや、そもそも大事な部分を誤魔化してる。あいつらの情報源を知ってる風だった。情報源はどこ? ディル?」
「あれ、俺が反王派閥なんかと繋がりがあると思ってる?」
「もう一つ。前王の子どもって男? それとも女? 存在を知っていながら、性別を知らないはずはないよね?」
しばらくマリスが睨んでいると、ディルは大声で笑いだした。
「いやあ、思ったより頭が回るね。近くに、思考が得意な子がいたかな? まあいいか。うん、彼らの情報源は、お察しの通り俺だよ。第一王子には失脚して欲しいもん」
「第一王子に私を狙わせて、ぼろを出したところで表沙汰にするってこと?」
「まあ、そんなところ。俺の立場を考えてくれるなら、マリスが王女説を肯定も否定もしないで欲しいかな」
「解った。否定する」
「いやいやいや、否定しちゃ駄目だって。何を聞いてるんだ」
「じゃあ、交換条件。男? 女?」
「いやにこだわるね。何か思うところでもあるの?」
ディルがしっかりと目線を合わせてくる。マリスは、ついと目をそらした。
「自分でも、小さい頃は解らないから。男だったら安心できる」
「王女は嫌なの?」
「嫌かどうかも解らない。でも、シンシアやカティとの関係が変わるのは嫌。できれば今のうちに何か手柄を立てて、低くてもいいから私自身が爵位もらえたら、シンシアやカティとずっと一緒にいられる」
うんうんと頷いて聞いていたディルは、マリスの話が終わったのを見て、なるほどとつぶやいた。
「爵位が欲しければ、何かあげようか?」
「いらない。ディルからもらうと、ディルに取り上げられるとどうしようもないから意味が無い」
「取り上げないよ。って、言っても意味が無いか。マリスの考え方なんだから」
「うん。で、答えは?」
はぐらかそうとしていたのか、ディルは軽く舌打ちしてから白状する。
「黒髪で身分がはっきりしていない男。女の方は行方不明というか、生死不明」
「その条件だと、そう多くない」
「戻ってから調べたらいいさ」
「調べるまでもない気がする。それで、女の方ってことは、複数いるの?」
「ああ、男女で一人ずつ。男子は追いかけられたけど、女子は完全に痕跡が消えている。俺も探せなかったから、確定情報を持ってる奴はいないよ」
「だいたい解った。情報ありがと」
マリスは言い残して部屋を出ると、カティのところへ足を運んだ。カティは荷物をまとめており、馬車で運んでもらうよう指示している。
「お待たせ。カティ、ちょっと聞きたいんだけど、いいかな?」
「はい、何なりと」
「私とグルケって似てるかな?」
「は? ええと、お嬢様、それはまじめなお話ですか?」
意味が解らない、とカティが頭を抱えるが、マリスは頓着しない。
「うん。大まじめ。見た目や性格、両方とも」
「そうですか……そうですね、お嬢様は意味なくそんな質問はなさらないですね。似ていないと思います。見た目は、お嬢様は切れ長の目で、髪質もくせが無くまっすぐ綺麗に揃ってます。グルケくんは垂れ目ですし、髪の色は一緒ですけれど、癖毛ですし。性格も、お嬢様とは全然違っていると思います。似ている部分としては、向上心が凄いところくらいでしょうか」
「そっか。安心した。ああ、この質問をしたってこと、他の人には秘密」
「かしこまりました」
マリスが人差し指を口の前に立てると、カティも笑顔で同じ仕草をする。くすくすと笑い合って、学校に戻るため馬車に乗り込んだ。




