二年目 前期 その1
年度が替わり、組替えが行われた。二年からは、専攻ごとに組分けが行われる。マリスとシンシアは騎士課程を専攻しているために同じ組となった。カティは一般課程、アンナは魔法課程、グルケは士官課程で戦術などを学んでいる。
マリスとシンシアは、部屋で騎士課程にて行われる討伐合宿について打ち合わせをしていた。二年生が最上級生である五年生と一緒に、魔物退治を行うのだ。基本的に五年生が大物の相手をして、二年生は周りの小物を引き受ける。
「五年生とはいえ、お嬢様よりも腕が立つ方はいらっしゃらないでしょうね」
「どうかな。私より強い人もいると思うけど」
カティの言葉に、マリスは首を傾げる。シンシアが考えながら口を開く。
「ハノンくんの兄が、確か五年生で凄く強いと聞いたわ。一度見たけど、顔はまあ普通ね」
「ハノン?」
マリスが首を傾げたまま問いかけると、シンシアは呆れたような顔になった。
「今年は同じ組でしょう? ハノン=ボーバン。剣の腕は、可もなく不可もなく。兄と比べられて陰口を叩かれても、くさらず頑張っているのが良いところかしら」
「ああ、彼か。それで、お兄さんの名前は?」
「マイヨール=ボーバン。兄弟仲は悪くないらしいわ」
「ふうん。討伐合宿、カティも一緒だったら良かったのに」
話を振られて、カティは慌てて首を横に振る。
「私は騎士にはなれませんよ。他の貴族に付き添って入学された方も、全員が一般課程ですよ」
「騎士課程で学ぶからって、騎士になる必要はないけどね。でも、シンシアが一緒で良かった。一人だったら面白くない」
「そうね。私もマリス様と一緒に学べるのは嬉しいわ」
マリスの言葉に、シンシアは笑顔を浮かべる。
「でも、マリス様。学校で学ぶのは戦闘技術と知識だけではなくってよ? 色々な立場の子と仲良くなって人脈を作ったり、役に立つ人か見極めたりも必要よ」
「解ってるけど、面倒。人脈なんて別にいらない」
シンシアが笑顔のまま固まる。マリスが口を開こうとする前に、カティが助け船を出そうとする。
「あの、お嬢様は旦那様から色々とお伺いしているのですよね。私は見ておりませんので解りませんけれど」
「うん。聞いてる」
「それは、よい情報をお持ちですわね」
シンシアがマリスに詰め寄る。
「それで? そんな情報を持ちながら、一年を無為に過ごしたと?」
「えっと。無為に過ごしたつもりはない。というかシンシア、怒ってる?」
「いいえ、怒ってないわよ。ええ、怒ってませんとも」
シンシアは頷きながら目を閉じる。考えを整理しているようだ。マリスがシンシアから距離を取りながら、カティに非難めいた目を向ける。
「カティ、火に油」
「ご、ごめんなさい」
小声でこそこそと話をしていると、シンシアが目を開いてマリスに提案を持ちかけた。
「今年から、一緒に友人を増やしていきましょう。マリス様の立場なら、仲良くなりたいと思う貴族は多いわ。遠慮したいようなのもいるけど、マリス様なら人柄を見て判断できるでしょう?」
「えっと。それは、拒否権はある?」
「もちろん、ありません。卒業後をどうするかは存じませんけど、環境があるのに怠るのは甘えだわ」
シンシアがマリスのためを思って提案しているのは解ったので、マリスも否定するつもりはない。
「解った。でも誰でもっていうのは嫌。まずは、シンシアの友人から紹介してちょうだい」
「ええ、喜んで」
マリスの出した妥協案に、シンシアはようやく表情を柔らかくした。
マリス自身、ディルの養子になったとはいえ学校を卒業した後にディルの元を去るかもしれないと思っている。ただ、立場がどうあれシンシアとは仲良くやっていきたいという思いはある。生きていくにしても、マリスの腕なら隣国との諍いが絶えない領地を持つシンシアに雇ってもらうには不足は無いだろう。
そうなったときのためにも、シンシアの周りに変なのがいないか、調べておく利点は多い。
一年間一緒の部屋で過ごしてきて、シンシアの真っ直ぐで素直な人となりはいつも目にしており、信頼できる。マリスは彼女の下なら生きやすいだろうと考えていた。
「シンシアとは卒業後もずっと仲良くしたい。だから、周りの人と仲良くなるのも大事」
「私もマリス様と、ずっと良い友人でいたいと思ってるわ」
シンシアは仲の良い友達について説明して、討伐合宿で仲良く出来るよう話を進めていく。
そんな会話を聞きながら、カティは嬉しそうにしながらも、若干の羨望を持ちながら目を細めた。




