一年目 後期 その6
一組と四組の対戦は開幕の動きが小さく、にらみ合いがしばらく続いた。
主将のカイトを狙いたいところだが、シンシアがその前を守っていて、なかなか攻められない。
「行きます」
打ち合わせた通り、アベルとダインがシンシアへと向かう。残りの仲間も二人以上で組んで、展開していった。シンシアは向かってくる二人を相手にしないよう少し下がり、他の生徒がアベルとダインと交戦を始めた。
マリスはシンシアが下がった隙に、カイトへと詰め寄る。カイトも待っていたとばかりに向かってくる。
カイトは上段からマリスの剣をめがけて斬りかかった。他と比べて格段に速いが、振りが大きいのでマリスが避けるのに支障はない。
以前は避け方が悪かったせいで追撃を食らったので、前に出ながら脇に抱えるようにカイトの腕ごと剣を捕まえた。
「あっ」
カイトが慌てて手を抜こうとするが、マリスは剣で強く手を叩くと、カイトの剣がころんと地面に転がった。詰め寄ったシンシアがマリスの剣を打とうとしていたが、カイトが取り落としたのをみて、大きくうなだれた。
「カイト、弱過ぎる……」
あまりに残念な結果なせいか、シンシアとマリスが憐れみを浮かべた表情でカイトに目を向ける。
「えー、それまで」
他の組はまだ戦っており、一番早く終わってしまった。他の面々も、拍子抜けという顔をしている。
「いや、でも、だって」
何やら言い訳しているカイトを放って、マリスとシンシアは休憩所まで戻った。
「お疲れ様です」
「お疲れ様。あれなら、シンシアが主将で私とやりあう方が良かったと思う」
「せっかくマリス様との勝負だったのに、残念ね。でも、マリス様は動きに磨きがかかっていない?」
「どうかな。だとすれば、シンシアとの特訓が活きたのかも」
わぁぁ、と歓声が上がり、何事かと二人が目を向けると、カイトが勢いよく走っているところだった。周りは楽しそうに笑っている。
「……あれ何?」
「カイトくん、良くも悪くも馬鹿だから。今回の結果で弄られたのでしょうね」
「あ、そう」
そのまま、しばらくマリスはシンシアとの雑談を楽しんだ。他の試合も終わり、次々と残りの試合も消化されていく。
結局、マリスにとって一番楽しかったのは二組との試合だった。
その二組は、順当に三組と五組に勝ち、マリスたち一組は総合では1点差で二位となった。
表彰式など、すべて終わった後、夕飯を食べて部屋に戻った。
「カティ、おめでと」
「ありがとうございます、お嬢様。とは言っても、私は何もしていませんけれど」
「そんなことない。ちゃんと貢献してた」
「見てらしたのですか?」
「だって、四組とはすぐに終わったし、他は暇だったし」
マリスとカティの話が一段落したところで、シンシアが質問を口にした。
「マリス様、知ってらしたら教えて欲しいのだけど、気功って小さな魔力で筋力や速度を凄く高められるわよね。魔法使いが使うと、もっと効果が高いのかしら?」
「ディルに聞いたけど、そういうわけじゃないみたい。魔力を込めすぎても、肉体がついていかないから意味がないって。負担が強くなりすぎて、動いた途端に倒れるらしい」
「そうなの。じゃあ、もし誰かが使ったとしても、マリス様より速くはないわね」
「ディルは私より速い」
マリスのつぶやきに、シンシアは苦笑を返す。
「そういえば、カイトくんがマリス様の動きが速すぎて追えなかったって言ってたわ」
「そうだね。カイトの動きは速く感じなかった。入学前だとカイトの方が身体能力高かったみたいだけど、今は私の方が上かな」
「身体能力もだけど、動体視力が凄いのですね。普段からお嬢様とシンシア様で気功を使った速度に慣れているからでしょうか」
「シンシア、カイトにもっと力を付けろって言っておいて」
「ふふ、解ったわ。伝えておくね」
機会を見てあらためて模擬戦を行えるか、休日の予定を確認してもらうようシンシアに言付ける。
シンシア経由で承諾があり、休日にはマリスとシンシアに加えて、時々だがカイトも一緒に特訓を行うようになっていた。




