一年目 後期 その2
説明された詳細は、以下の通りだった。
学科は組ごとに参加者の平均を取り、合計が高いと勝ち。模擬戦は初の団体戦で、時間切れ時点の残っている人数が多い方、もしくは組で決めた主将の敗北。魔法戦は代表五名ずつで一対一の勝負による団体戦。魔法戦であぶれる人は、学科に回るらしい。
「不利な点が多い」
マリスはアマンダの説明を受けて、ぼそりとつぶやく。元々人数が少ない上、魔法戦だけは人数が多く有利かと思えば人数制限されて、人数があまり関係のない学科に回される。
そう感じたのはマリスだけではなく、教室中から文句が出ている。
「はいはい、決まった内容に文句を言っても覆らないわよ。それより誰が何に出るか、さっさと決めてしまいなさい」
アマンダの説教に、渋々といった風情でみんな黙り込む。マリスは立ち上がり、前に出る。
「では、まず魔法戦の代表五名を決めてしまいましょう。成績が上位の方で問題ないですわね」
前期のうちに、マリスが一組の取りまとめを行うようになっていた。はじめは面倒がっていたが思ったより楽しいらしく、今では率先してやるようになっていた。
自ら手を上げる者と、話し合って手を上げる者で五名が決まる。アンナは五名には入らず、学力戦に参加となった。
一組は二十一名で、模擬戦と学力戦にそれぞれ七名。魔法戦に五名で、外れた二名が学力戦に加わる。
「では、次に模擬戦の七名を決めたいのですが、出たい人は?」
ほとんど全員の手が上がる。そんな中、グルケは手を上げず、じっとしている。マリスが手を上げさせるために睨んでも、涼しい顔をしている。
「グルケは出たくないのかしら? 戦闘の実力はともかく、試合前に指示を出しておくのと試合中に出すのでは、全然違うと思うけれど?」
「ただでさえ人数が少ないんだから、俺が出る意味なんて無い。試合中は、あんたが臨機応変にやればいい。試合前に作戦くらいは立てるさ」
グルケの言い分は間違っていないが、マリスの思惑と違っていたのか、いらつきを抑えられず、若干ではあるが態度に出す。
「ああ、そう。じゃあ好きにしたら」
小さな声でつぶやいただけだが、ほとんどの生徒がそっと視線を外した。誰も好んで火に油を注ぎたくはない。
「で、模擬戦に参加したいのが多かったのは、どうしましょうか。実力はみんな解ってると思いますので、悪いけれど足りてないと自覚できる人は辞退してくださる?」
結果、あらためて手を上げたのは四人だけだった。誰もが納得のいく実力者なので文句も出ず、マリスを含めて五名が確定した。全員を見渡しながら、マリスは意見を求める。
「誰か、あらためて立候補はないですか? 推薦でも構いません」
みんな、怒っているマリスが怖くて黙っている中で、グルケが手を上げる。周囲が小声で止めるが、グルケは気にした様子もない。
「何? 今さら立候補ですか?」
「いや、推薦。こういうのは個々の実力以上に連携が大事だ。普段から連携の得意なアベルとダインを推薦する」
推薦された二人は慌てて口を挟もうとするが、マリスが顔を向けると、何も言えずに沙汰を待っている。
「グルケはああ言ってますが、いかがでしょう? 私も、お二人が参加されるのは心強いと思います」
「は、はい。是非ともお願いします」
マリスの態度が普段通りだったので、二人とも安心して答える。マリスも笑顔を返してから、他の生徒に確認を取った。
「他の方で、反対はありますか? 無ければ、残りの方は学力戦ね。皆様、頑張りましょう」
「怖かったー。何か、殺気? 空気がピリピリする感じでした」
授業が終わり、マリスたちの部屋にはシンシア、カティ、アンナの三人がいて、アンナが顛末を伝えていた。マリスは用事があると言って出かけている。
「マリス様なら殺気を込めるくらいできるけど、どうしてそこまで怒ったのかしら」
「前に教室で、マリス様とグルケくんが対抗戦の話をしていたとき、グルケくんが参加に前向きだったからだと思います」
「その場にいなかったので解りませんけれど、模擬戦の参加者を選ぶための演技ってことはないでしょうか。お嬢様は普段から何かと面倒がりますけど、戦うことにかけてはどこまでも悪知恵が働きますからね」
三人が盛り上がっていると、がちゃりと扉が開いてマリスが入ってきた。
「誰が、悪知恵が働くって?」
「嫌ですわ、お嬢様。盗み聞きとは趣味が悪いですよ」
アンナが青い顔になっているのを気にせず、カティが混ぜっ返す。
「普通に歩いて戻ってきた。気づかないカティが悪い」
「まあまあ。それより、どこに行っていたの?」
「グルケのところ。模擬戦の対策」
組別対抗の話になり、マリスはシンシアとカティに確認を取る。
「シンシアは当然模擬戦だよね? カティは?」
「私も、残念ながら模擬戦への参加になってしまいました……嫌だったのに……」
カティが渋々といった風情で告げると、マリスの目が輝く。
「それは良かった。カティの二組は、残ってる人数が多かったよね。えっと、参加者十一人?」
「え? そんなに? 私の四組は九人よ。かなり違うわね」
「一組は七人。シンシアとカイトのいる四組が一番手強いと思ったけど、二組も結構厄介。カティもいるし」
「いえ、それほど大したものではありませんよ。一組や四組みたいな、突出した戦力も無いですし」
「数が多いというのは、それだけで有利」
ひとしきり模擬戦の話で盛り上がった後、マリスがアンナに檄を飛ばした。話が逸れたので、カティは四人分のお茶を淹れなおす。
「アンナも、頑張って満点取って。人数が少ないから、個々の点数がとても重要」
「え? 満点なんて、これまで取ったこと無いですよ」
「これまでは関係ない。今回取ればいい」
マリスが言っている横で、シンシアとカティがぼそぼそとアンナに同情している。
「あれ、本気で言ってますよ。アンナさんも猛勉強させられそうですね。かわいそうに……」
「マリス様も、無自覚に無茶を言うからね。アンナには大変な一ヶ月になりそうね」
ふと思い出した、というようにシンシアは話題を変えて、アンナに助け船を出した。
「そういえば、試験のときにも少し名前が出ていた王子殿下が入学したというお話を覚えてます?」
「覚えてる」
マリスが視線を変えると、アンナも感謝を込めてシンシアに顔を向けた。
「噂では、前期のうちに退学したそうよ。原因までは聞いていないけれど」
「ディルに聞いた。何でも早々の実習で、クマが出たのも要因の一つらしい。不慮の事故で死んだら困ると言ってた」
「なるほど、確かに亡くなられては困るわね。王位継承権も第一位の方だから」
シンシアが納得して頷いているが、マリスは興味なさそうに話題をたたむ。
「いなくなった人はどうでもいい。あの程度で退学するなら、何も無くても退学してる」
「クマは、あの程度なんて言葉では済まないです、お嬢様」
「私も強くなってる。きっと今なら、気功使わなくても戦える」
「マリス様、どこまで強くなる気ですか」
「ディルに勝つまで」
カティもシンシアも呆れているが、マリスはディルに一度も勝てていないのが悔しいようだ。
「ゴドウィン公といえば、三年ほど前に国王陛下の御前試合で優勝してましたよね。それは、国でも一、二を争う実力と言えるわ。あの方から一本取るのは、至難というより不可能だと思う……」
「諦めたら何も前に進まない。今は無理でも、そのうち勝つ」
カティは、ディルが今でも時々ひやりとさせられると言っていたのを思い出し、やはり組別対抗の本命はマリス率いる一組だと確信した。




