一年目 中休み その1(幕間)
マリス様に教えてもらった気功は、前期が終わる前に使えるようになっていた。実家に戻る前に使えるようになりたかったので、とても嬉しい。
「結構早かったね。後は慣れ。ただ、足に魔力を込めて速く動けても、思考は速くならないから注意が必要。しばらくは、使っても身体の動きに振り回される」
マリス様からの忠告で、私は少しずつ身体を慣らしていった。おかげで、前期と後期の間にある中休みに家へ帰る頃には、ごくわずかな気功だと、ほとんど副作用は気にしなくて済むようになっていた。
「ただいま戻りました、お父様」
「おお、おかえり、シンシア。学校はどうだったね?」
「おおむね問題なく過ごしていますわ。お手紙で少しだけ書きましたが、お父様にお伝えしたい内密の話があります」
「うむ、聞こう」
私はお父様と一緒に稽古場へ行き、実演してみせた。今まで一度も模擬戦でお父様に手も足も出なかったが、気功を使うと互角以上の勝負に持ち込めた。お父様は様子見で守りに入っていたので打ち崩すまではいかなかったが、使っている間は、始終私が有利に立ち回れていた。
「なるほど、確かにとんでもない技だ。兵士に教えると戦力は桁違いに上がるが、そんなわけにもいくまい。今後の情勢によるが……」
私が気功について説明すると、お父様はすぐに軍事転用を考え始める。心配になって、私は忠告を入れる。
「私、マリス様からお父様に伝えてもいいと許可をいただいてますけど、今のお父様には伝えたくありません。一度王都に行って、ゴドウィン公から許可を得てくださいませ」
「ふふ、儂よりも友人を取るか。まあ、それも良い。となれば、長くかかるのも面倒だな。シンシア、戻ってきてすぐだが儂は王都に行くぞ。お前が教えてくれないなら、言われた通りゴドウィン候に聞くとしよう」
お父様は言うや否や、早速王都に向けて手紙を飛ばした。止める暇もない。
ゴドウィン候からはすぐに訪問を歓迎するという返答があった。すぐに準備をして、王都へ戻る。移動に片道三日かけて、滞在は二日だけ。何のために戻ったのか解らない。
でも、まあ、マリス様の家に訪問できるのは悪くない。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
ゴドウィン邸を訪れると、年かさの執事が応対に現れた。お父様が挨拶をして、私も同じように挨拶する。
応接室でしばらく待っていると、マリス様とゴドウィン候が入ってきた。
「お待たせいたしました、ローリー卿。お久しぶりですね」
「元気そうで何よりですな、ゴドウィン卿」
挨拶を済ませて、二人は微笑しながら歓談を始めた。王室がどうの隣国がどうのと、面白くない話が続く。
「行こう。向こうにカティもいる」
大人たちが話を始めると、マリス様は私の手を引いて歩き出した。普段あまり触れてこないので、少しどきりとする。無表情なのは変わらないし、顔色も変わっていないが、少し嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「暇してたから、来てくれて嬉しい。あとで手合わせしよう。シンシア、強くなってるから楽しみ」
マリス様に連れられて向かった先は、マリス様の私室だった。すでにカティがお茶の準備を進めている。
カティは二人分を用意すると、少し離れて控えている。学校だと気にせず四人分を用意して同じ席に着くが、お屋敷では節度を守って侍女に徹するらしい。
「ありがとう。カティが淹れてくれるお茶はおいしいから、これだけで来た価値がありますわ」
「あら。そんなことをおっしゃっいますと、お嬢様が拗ねますわ」
「別に拗ねない。そんな子どもじゃない」
拗ねないと言いながら拗ねたようにしか見えないが、可愛いと思ってしまう。私も随分と馴染んできたものだ。カティと顔を見合わせてくすくすと笑っていると、マリス様は話題を変えてきた。
「ところで、シンシアはどうしてローリー伯にそのまま伝えなかったの?」
「そうして欲しそうに見えたからですわ。乱用しない条件で、って言ったのに、わざわざ兵士に教えるとかなんとか。一度ゴドウィン様と話をしたかったのかと思ったの。きっかけ作りというところかしら」
「シンシアは色々と考えてるね」
「マリス様も、考えてないわけじゃないでしょう?」
「まあ、そういうことにしておく」
意図があるのか面倒なのか、曖昧な答えを返してくる。マリス様らしいといえば、非常にマリス様らしい。いつも通り、つかみどころが無い不思議な感じだが、不快感はまったくない。
しばらくカティを交えて三人で話をしていたが、マリス様がうずうずとしていたので、稽古場を借りて剣を交えた。基本的に勝てないが、それなりに持ちこたえるようにはなってきている。
そして、お父様の許可を得て、今日はそのままマリス様のお屋敷に泊まった。




