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一年目 前期 その6

 体調が戻ったマリスは、約束通り休みの日にシンシアへの説明を開始した。特に道具は不要なため、部屋で行っている。アンナは気を利かせて、カティと一緒に買い物に行っている。


「ディルから教えてもらったんだけど、魔法自体が使えなくても、魔力は身体を巡っている」

「え? でも、魔力があれば魔法が使えて……」

「うん。魔法を使うほどの魔力ではないの。だから属性もない。身体の中だけで動かす感じになる」


 今ひとつ解っていない顔のシンシアに、具体的な事例を出す。


「剣を振るとき、腕に力を入れるよね。そこに魔力も上乗せできれば倍以上の膂力で斬りかかれる。走るとき、足に魔力を込めれば倍以上の速度で走れる」


 それだけというマリスに、シンシアは質問を投げた。


「じゃあ、魔法を使えるほどの魔力を使えば、さらに早く走れたりするの?」

「魔力を込めすぎても、身体への負担は大きすぎると動かした途端に筋肉がちぎれたり、骨が折れたりする。鍛えてないと駄目。だから、魔力は私よりカティの方が高いくらいだけど、身体能力は低いから大して効果を発揮できない」

「解ったわ。それで、これまで魔力なんて意識したことないけど、どうやれば良いのかしら?」

「えっと、こつが解れば簡単。私は二ヶ月ほど、カティは半年ほどで感じられるようになった。楽な姿勢で座って、目を閉じて深呼吸する。目を閉じていても、全身が見える感じになる。それが、魔力を見ている状態。次に身体のうち、手に集中したり、足に集中したりできるようになる。そうなれば後は慣れで、目を開けていても大丈夫。一日に一時間くらい寝る前にやれば、そのうち感覚が掴めるはず」


 言われて、シンシアは椅子の上で姿勢を整えて、早速目を閉じる。マリスは座って説明していたが、しばらく放っておく方が良いと判断して、欠席して出られなかった授業の内容を復習していた。

 そして数十分が経過しても、シンシアに何も変化は無い。マリスはシンシアが椅子から落ちないうちに、忠告する。


「やってると、眠くなる。そのまま寝入っても問題ないときの方がいい」

「うん、そうね。でもこれ、ゴドウィン公以外に誰かご存じなのかしら」

「どうだろう。本人は、他国にも知れ渡るとまずいから、大手を振って教えて回れる技術じゃ無いって言ってた」


 シンシアは目を開き、マリスを軽く睨む。


「そんな国家機密みたいな秘伝を、こんなところで簡単に教えて良かったの?」

「大丈夫。許可は取ってる。前にも言ったけど、教えてもいいと私が思った相手で、ディルが了承したら問題ない」

「私の実家は、ゴドウィン公と仲が良いわけではありませんわ。それに私が勝手に誰かに話さないとも限らないわ」

「実家は関係ない。それに、これでも人を見る目はあるつもり。シンシアは大丈夫と思った。そもそも不要な技術だけど、グルケもたぶん問題ない。アンナやカイトはちょっと危険。前者は何かの拍子に脅されたりすると言いそうだし、カイトは何も考えず自慢げに誰かに言いそう」


 それに、とさらに付け加える。


「カティからの伝言に入っていたんだけど、ローリー伯には伝わっても大丈夫。だから、シンシアから事情と合わせて伝えておいて。どこまで開示するかは判断できる方だって思ってるみたい」

「解ったわ。信頼してもらえるほど何もしてないけど、期待は裏切らないように精進するわ」

「信頼しているわけじゃない。大丈夫と判断しただけ」


 よく解らない、と首を傾げたシンシアに、マリスは深く考えなくていいと伝える。


「ところで、この技術には名前はついていないのかしら?」

「聞いてない。なんで?」

「何か名前がある方が、便利と思うの」

「じゃあ、ディルがどこかの国に、似た効果の技術があるって言ってた。気功とかなんとか。そっちは秘術らしく、ディルもどんな方法か知らないみたいだけど、それでいいんじゃない?」

「解ったわ。では今後、何かあれば気功と言うようにしましょう」



 そしてシンシアが魔力を感じ取り、気功と付けた能力を使えるようになったのは、前期も終わろうかという時期だった。



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