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一年目 前期 その3

 森に入ると、見える範囲に複数の生徒がいた。拠点を作るには少し開いた場所が必要で、外縁付近は競争率が高い。奥に入るほど危険性も高まるが、魔物を狩れる可能性も上がる。

 マリスたちは森の奥に入っていく。動物や魔物が近づいたら解るように、慎重に進んだ。


「この森にいる魔物はサル、イノシシ、ウサギ、リス型くらいだ。サル型は頭の良さと敏捷性がかなり厄介で、イノシシの突進を食らうと大怪我じゃすまないかもしれない。ただ、イノシシは騒音を鳴らしながら近づくから、すぐに解ると思う」

「サルは夜にも来る?」

「いや、基本的にすべて昼に活動する。ただし、昼間にサルが狙いを定めて、こちらが気づかない場合、夜に寝てから襲いかかくる事例はある」

「じゃあ、昼に見落とさなければ大丈夫」


 マリスは森に入ってすぐ、口調を取り繕うのをやめたが、グルケはまったく疑問を持たずにうなずいただけで受け入れた。カティがなぜか聞くと、無理しているのが見え見えだったとのことだった。他にも気づかれているか心配するカティに、グルケは噂は流れていないから大丈夫だと返す。

 後ろでは、硬くなりすぎているアンナに、シンシアが緊張をほぐすよう肩を叩いている。


「この森は群れて襲ってくるのもいないから、囲まれる心配も無いですわね。油断をしては駄目だけど、気負いすぎずに行きましょう」

「は、はい。シンシア様、お気遣いありがとうございます……」


 アンナは若干どもりながら返事をする。そこからは、あまり会話はせずに、行軍に集中していった。


 他の班がまったく見えなくなり、それからもしばらく進んでいくと、急にマリスが声を上げた。全員足を止めて、マリスが指さす方向を見る。

 姿は見えないものの、しばらくすると地響きのような音が聞こえ出す。草木を折るような音と荒い鼻息のような音も鳴っている。


「イノシシ。直線上にならないよう、みんな離れて動かないように。シンシアはグルケを、カティはアンナを守ってあげて。アンナ、もしそちらに行ったら、風の魔法で突進を少しでも押し返して」


 マリスが両手用の刺突剣を構えつつ矢継ぎ早に指示を出しているうちに、全長が2メートルはありそうな大柄のイノシシが視界に入った。

 その時には、すでにマリス以外の四人は木々にまぎれて突進されにくい位置に逃げ込んでいる。

 さらに、マリスはわざと剣で地面を叩き音を立て、イノシシの注意を引く。いのししは走ってきた勢いのまま、誘われた通りマリスに突撃を行った。マリスは周りの木にぶつからないよう注意しながらイノシシの突進を横に避け、同時に剣を眉間に突き刺す。深く刺さり、イノシシの額から血が吹き出した。しかし、イノシシは止まらずに走り抜け、先の方で方向転換を行った。

 振り返ったイノシシは赤い目に怒りをあふれさせながらも、痛みを感じていないのか勢いを落とさずマリスに向かって突っ込んでくる。


「目か足をつぶさないと、イノシシはずっと突進してくる!」


 グルケが叫び、マリスは刺突剣を投げ捨て小剣を取り出す。そして、一度目よりも小さく避けて、同時に短剣を片目に突き刺した。平衡感覚を狂わせたのか、イノシシは斜めになり、木にぶつかって止まった。

 マリスが追いかけるよりも早く、近くにいたシンシアがもう片方の目を潰す。イノシシは倒れたまましばらく暴れていたが、シンシアがとどめを刺した。


「大物でしたね。いきなりでしたが、さすがマリス様です」

「両手武器だと狙いがぶれるから持ち替えたけど、動きも単調だし勢いに飲まれなければシンシアも十分に勝てる」

「確かに魔物と言っても、普通のイノシシを大きくしただけですわね」

「いや、大きいとそれだけで十分に驚異だぜ。こんなにあっさり勝てるのがおかしいだけ」

「でもこれなら、何回やっても負けない」

「避けながら目に突きを入れられるのは、たぶん一年生を見渡してもお前だけだよ」


 マリスとシンシアの会話に、グルケが混ざる。しばらくイノシシについて語り合っていたが、カティから注意が入った。


「はいはい、それもいいですが、早く野営地を探しましょう。食事の準備もありますし、急がないと何も用意できませんよ」


 魔物になってしまっては動物の時と違い食べられないので、手早く証明部位の尻尾だけを切り取り、マリスたちは森の中を進んでいった。


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