一年目 前期 その2
校外実習の前日、マリスたちは夕方まで準備に追われていた。背嚢に必要と思われる物を詰め込む。
さらに今回は対人ではないため、刃のついた武器を用意している。マリスは両手用の刺突剣と片手用の小剣を用意し、投擲用の短剣もいくつか服や背嚢に仕込む。カティは自己防衛のために小剣のみ持った。シンシアは、槍と長めの剣を持っている。
防具はあまり重いと動きにくいため、厚手の布でしつらえた服を用意し、要所を革素材で守る程度で済ませている。
一通りの用意ができた後、四人で確認しながら、念のための保存食やいざという時ののろし、火付け石に砥石といった雑多とした物を詰め込んでいく。
「班別行動、別の組でも大丈夫なのは助かりました」
「うん。カティやシンシアと一緒なのはうれしい」
「でも、五人行動で一人足りなかったとはいえ、女ばかりの中に一人だけ男の子を入れるのは、お互いのために避けるべきではなかったでしょうか」
カティとマリスが喜んでいると、シンシアから苦言が入った。
今回の班別行動では、班の中に必ず魔法使いを入れるように指示された。アマンダによると、これまで魔法に触れていなかった者も、この機会に魔法に慣れるためだそうだ。マリスたちの班はアンナが魔法を使えるので、問題なく四人で組めた。最後の一人をどうするか話をした結果、組む相手が見つかっていなかったグルケを誘ったのだ。
マリスやシンシアは貴族としても戦闘能力の面でも目立っており、何人もの生徒が一緒に行動をしたいと申し出たが、大抵は二人以上だったため、丁重にお断りをしていた。一人で申し込んできた人もいたが、あきらかに貴族に取り入ろうという下心が見えていたため、これも断っていた。
「気にするほどじゃない。彼はひ弱だから役には立たないけど、変な下心がない分ましな方。寝床は、獣に襲われない程度に離せばいい」
「……お会いしたことありませんけど、少しだけかわいそうになってきましたわ」
マリスの言いぐさに、少しだけ同情するシンシア。
「明日の準備できた? じゃあ、今日のうちにグルケに挨拶に行こう」
「え、今から? 結構遅い時間だと思いますけれど……」
シンシアが躊躇しているが、マリスは気にせず動き出した。カティは気にせずついていき、仕方が無くシンシアも後を追いかけた。アンナは同じ組のため、留守番を申し出た。
グルケの部屋の扉を叩き、こんこんと乾いた音が鳴る。
「はい」
「遅い時間にすみません、グルケさんはいますか?」
マリスが笑顔で話しかけると、出てきた男子は顔を真っ赤にした。
「は、はい。えーと、ちょっと待ってください」
すぐさま部屋の中に引き返し、グルケに詰め寄る。ぼそぼそと問い詰めているようだが、マリスの耳には届いている。
「おい、お前マリス嬢と知り合いだったのか? くそ、もっと早く知っていれば紹介してもらったのに。何の用か知らんが、早く行けよ。待たせるんじゃねえ」
「お前が引き留めてるんじゃないか。しょうがないな……」
「俺らを紹介してくれよ。同室のよしみじゃねえか」
グルケはひらひらと手を振って、外に出てくる。
「何の用?」
「明日からの実習で、全員の顔合わせができてませんでしたから。こちら、四組のシンシアですわ。私たちと同じ部屋ですの」
「ふうん。よろしく」
「あなたがグルケさんね。シンシアですわ、よろしくお願いします。聞いたお話ですが、筆記の特待生だとか。期待してますわよ」
「明日からの実習に関係しないと思うけどね、まあいいや。用はそれだけ?」
あくまで素っ気ないグルケに、マリスは気にした様子もなくうなずく。
「ええ、それだけですわ。そうそう、紹介については、私が強硬に断ったと言っておいてくださいな」
「聞こえたの? 扉、閉まってたよね。本当に規格外だね、お前」
カティとシンシアが首をかしげる中、グルケは機嫌が良さそうに部屋へと戻っていった。マリスも二人を急かして、遠目に複数から注目されている男子寮を後にした。
そして実習当日の朝、まずはこれまで通り、アマンダからの説明から始まった。
「今回の実習では、森にいる魔物の退治を行ってもらう。班ごとに競い、数や質で成績を決める。今回の森にいる魔物は小物ばかりで、死んだり大怪我する可能性は低い。でも、油断をすると怪我するし、最悪の場合は死ぬかもしれない。活動に自信が無ければいくつかの班で固まったり、定期的に巡回している教師に声をかけなさい。内申は下がるけど、命を失うと終わりだからね」
解ったか? と確認され、みんな真剣な顔でうなずく。元々戦闘力が低い子には、教師側が配慮して、実技の成績が良い子や腕の立つ魔法使いと組めるように調整している。
マリスの班に実技の成績優秀者が二人いても教師から承認されたのは、カティはまだしも、アンナとグルケが一年全体を見渡しても下から五本の指に入るからだろう。通常であれば守りながら戦うのは難しいが、マリスとシンシアがいれば、よほど大勢に囲まれない限り、何とかなると判断したのだと言われた。
くじで決めた順番に従って、それぞれの班が森の中に入っていく。しばらくして、マリスたち五人の順番になり、油断しすぎない程度に雑談をしながら、森に入っていった。




