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一年目 前期 その1

 入学式の翌朝、カティは朝六時頃に目が覚めた。普段働いている時は五時頃に起きていたため、寝過ぎてしまったように感じる。手早く自身の身だしなみを整えた。

 他は誰も起きていないが、朝食の時間は七時と決まっているため、そろそろ起こさなくてはいけない。


「皆様、おはようございます。起きてください」


 カティは全員に声をかけつつ、マリスの寝台に手を伸ばすと、目が開くまで何度も肩を揺らした。他の二人は、それぞれ目が覚めたようで挨拶が返ってくる。


「ん……おはよう。いつもありがと……」


 目が覚めて起き上がるが、また目が閉じる。カティは慣れた様子でマリスの手を引いて寝台から引きずり出し、鏡台の椅子に座らせる。そして髪型を整えるうちに、徐々に目が覚めてきたようだ。

 シンシアは早々に動き出しており、自身で身だしなみを整えている。アンナも自ら整えているが、あまり道具を持っていないようで、手ぐしで梳かす程度で、ほとんど手を入れていない。


「お嬢様、終わりましたよ」

「んー」


 まだ反応が鈍く、カティへの返事もあいまいだ。しかしカティはそれ以上何も言わず、アンナに声をかけた。


「アンナさん、よろしければ整えてさしあげましょうか?」

「いえ、そんな。私なんかが……」

「まあまあ。いいからいいから。今は時間がないので、簡単に済ませておきますね。時間がある時に念入りに整えてみましょうか」


 半ば強引に椅子に座らせ、手を加える。若干そばかすが目立つものの、かわいらしい顔つきをしている。髪も無造作に伸ばされているため、野暮ったく見えるが、きちんと整えると印象も変わりそうだ。


「あら、見違えましたわ」


 シンシアがアンナを見てつぶやく。アンナはどう言えば良いのか解らず、おろおろとしている。


「背筋を伸ばして、おどおどしないように。堂々としていれば、なめられませんわ」

「は、はい。気をつけます」


 ぴしっと音が鳴るような勢いで、アンナは背筋を伸ばした。そこへマリスが援護を入れる。


「大丈夫、もしいじめられるようなら、私が注意するから」


 それぞれ準備が整い、朝食をとった。朝食後はそれぞれの組に別れて、教室へ向かう。名残惜しそうなカティに適当な言葉を残して、マリスはアンナとともに一組へ向かった。



 教室に入ると、すでにほとんど揃っている。席は決まっていないようで、空いている席に座った。軽く目を通すと、グルケが少し離れたところに座っていた。


「みんな揃ってるね。じゃあ、挨拶から始めようか。試験官もしていたから覚えている人もいるかもしれないが、私はアマンダ。一組の担当を行う。一年の主任も兼ねているから、何かあれば言いなさい」


 一組の担当は、試験の責任者だったアマンダだった。アマンダは、自己紹介の後、出席を確認するかたわら、自己紹介をさせていった。

 特に目立った人物は見つからず、マリスも無難に自己紹介を済ませた。


「授業の前に、今後の予定について説明するわ。一週間後に二泊三日で校外実習が行われる。いくつかの班に分けて競うのだけれど、分担は一週間の授業を見て判断するわ」


 少し間をあけて、アマンダは説明を続ける。


「さて、授業を始めよう。午前は座学、午後から教練。体を動かすのが苦手な子もいるし、すでに騎士団に入って活躍できそうな子もいるけど、はじめのうちは全員まとめて行うわ。様子を見ながら、授業の内容も変えていく予定よ」



 午前は授業を少しと授業方針への要望調査だった。騎士課程、士官課程、文官課程などいくつかからの選択式となっており、マリスは騎士課程を選択する。

 そして授業が終わり、昼食の時間になる。教室で食事が配られる。マリスがアンナと一緒に食べていると、声をかけられた。


「久しぶりだな」

「あら、グルケさん。お久しぶりです。無事、合格できたようで、何よりですわ」


 ふん、と鼻を鳴らしてマリスに目線を向ける。


「お前、言うだけのことはあるね。まさかカイトに勝てるとはね……」

「あの時、見ていらしたの? 声をかけてくれたらよかったのに。カイトさんとお知り合い?」

「噂だけで、知り合いじゃない。来週の実習もだが、今後は組対抗で何らかの行事が行われるかもしれない。その時、俺は戦えないからな。もし模擬戦なんかがあると、お前が主軸になるだろうけど、それで構わないのか、確認したくてね」


 マリスはむっとした表情を作って、グルケの言葉をたしなめた。


「私の名前は、お前じゃなくてマリスですわ。名前で呼んでくださいな。模擬戦の方は、私は騎士課程を選択しましたので、問題ないでしょう。私が役に立たない場面もあるでしょうけれど。もしあなたが采配を振るなら、失敗してぼろぼろにならないよう祈ってますわ」

「そんな失敗、するもんか」


 憮然として離れていくグルケに、アンナはそっと聞いてくる。


「マリス様、怒らせてしまって、よかったのですか?」

「怒るってほど怒ってない。それに、グルケはまだ私に何も良いところを見せてない。来週の実習が良い機会になればいいけどね。アンナは魔法課程だよね?」

「はい。魔法の制御が甘いから、向上させたくて」


 午後からの教練は、魔法を使う人は集まって魔法の練習を行い、残りは身体能力の簡易検査だった。マリスは当然のように組の中で一番成績が良く、グルケはほぼ最底辺だった。



 翌日、マリス、グルケともに希望の教練へ振り分けられた。アンナは当然ながら、魔法課程に振り分けられている。

 授業が終わり、自由時間になってから確認すると、シンシアも騎士課程、カティは一般課程を選択したらしい。


「一般課程って何やるの?」

「広く浅く、ですね。一通り学びますが、どれも専門家にはかないません。まだ何をすれば良いか解らない子や、そもそも学校を経由して就く職業と関係ない私のような立場の人が多いですね」

「それも良かったかも。失敗した」


 悔しそうなマリスに、カティは笑みをこぼす。


「でも、お嬢様。一般課程だと模擬戦なんてほとんど無いですし、年に一度の武術大会にも参加資格はありませんわよ」

「武術大会、あまり興味ない。カイトも一年目でそこまで伸びるとは思わないし」

「意外ですわね。戦えたら誰でもいいというわけではないですのね」

「うん。でもシンシアとは一戦してみたい。普段の動きもきびきびしてるし、結構強そう」


 慌てて首を振るシンシアに、カティとアンナは苦笑いを漏らす。


「そういえば、来週の実習は近くの森で陣を張って、魔物狩りだそうですよ。この学校、実践的というか戦いに比重をおいてますねえ」

「隣国との戦争も激化しそうって噂もありますし、仕方が無いかもしれませんね」

「魔物狩り? それは楽しみ」


 マリスは知らなかったので、カティの言葉に反応する。目がきらきらと輝いている。


「近くの森だと大層な魔物はいないですから、心配はいらないでしょうが、むやみに突出して囲まれたりしないでくださいよ」

「大丈夫。それより、カティこそ気をつけて。いざとなったら逃げたらいいよ」



 そんな話をしながら一週間が過ぎていき、実習の日がせまってきた。

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