入学式 その後
「はい、風系統なので、物を運ぶ時に浮かせるというか、力をあまり入れずに持てるようになるのでございます」
これまで貴族に接していなかった上に、シンシアに怒鳴られた直後である。アンナは怒りを買わないように必死な様子だが、言葉遣いがなにやら怪しい。
「アンナさん、そんなに気を遣わなくて大丈夫ですよ。マリス様は身分にこだわらない方ですし、私はただの侍女で、商人の家に生まれたのですから」
カティがまくし立てているうちに、マリスはシンシアが機嫌を損ねないよう、気を回す。
「シンシア様、盗んだ場面をご覧になったわけではありませんよね。アンナさんの人となりが解るまで、様子を見てはいただけないでしょうか?」
「……解りましたわ」
少し不機嫌そうだが、マリスの言葉に頷く。そのまま、アンナが荷物運びの手伝いを申し出て、言った通りに重さが減り、軽々と持ち運びができるようになった。
「思ったより演技し続けるのはきつい。というか面倒」
「でしょうね。お嬢様、旦那様とのお稽古以外、集中力が長持ちしませんでしたものね……」
どこかで言ってしまおうと決めて、荷物の整理を進める。二人の予想通りアンナは手荷物以外に何もなく、びくびくしながらもシンシアの整理を手伝っていた。
「お二人は、ずっと一緒に育ってきたのですか?」
荷物の整理が終わり、四人が座って一息ついていると、シンシアが興味深げに問いかけてきた。何か気になる点があるだろうか、と首をかしげながら、マリスが説明する。
「いえ、一年ほど前から私に仕えてくれています。それまでは実家で暮らしておりました」
「そうでしたの。すごく息が合ってらしたので、乳兄弟か何かで生まれた時から一緒なのかと思いましたわ」
良い機会だ、と二人は頷きあい、そしてカティがくすくすと笑いながら否定する。
「そんな、恐れ多い。息が合っているように見えるのは……お嬢様が、ぽかをやらかさないか、私が気を配っているからですわ」
「え?」
シンシアは首をかしげるが、アンナはあまり驚いた様子はない。というよりも、先ほどからあまり言葉を発していない。マリスは二人を見ながら、説明した。
「実は、私はあまり人付き合いに慣れてないの。言葉遣いもがさつで、模擬戦を見てくれていたシンシア様はお解りと思いますが、戦いの技術以外はあまり興味も持てなくて」
カティにはさんざんだらしないところを見られているのだとマリスは肩をすくめる。
「やはり、聞き間違いではなかったのですね」
「聞き間違い? 何が?」
アンナがぽつりとつぶやき、マリスは聞き返す。
「私、風が音を運んでくれるせいか、勝手に周りの声を拾ってしまうのです。全然制御ができなくて、だから学校に来て、制御できるよう魔法の技術を上達させたくて」
言い訳じみた説明をするアンナに、なるほどと相槌を返す。
「荷物整理をしながらの言葉、聞き取っていたのですね。それで、お嬢様が上流にあるまじき言葉遣いをしていたのも耳にしていたと」
「ええ、はい」
気まずそうに、お茶を飲むアンナ。
「そんなわけで、ぶっきらぼうな感じだけど、構わない?」
小さく首を傾けながら、マリスは二人を見つめる。アンナはすぐに頷いたものの、シンシアは眉間に皺を寄せている。
「構わないというか、お好きになさっていただいて結構ですが、私は別に無理をしていませんので、改めるつもりはありませんわよ」
シンシアの言い分に、当然とばかりにマリスは笑顔を見せる。
「うん。シンシア様は生粋のお嬢様だからね。立ち振る舞いも話し方も洗練されていて綺麗と思う」
シンシアは顔を真っ赤にしながら、そういうことでしたら、と納得させられた。横では、カティが呆れたような目をマリスに向けていた。
「ところで、お二人の組はどうなってますか? 私は二組で、お嬢様が一組です」
「私は四組ですわ。結構ばらばらですわね」
「あの、私、一組です」
アンナとマリスが同じ組と解り、二人で盛り上がる。カティは横目で見ながら、お茶を飲む。
「妬いてますの? 今まで独占していたお嬢様が取られた……って」
シンシアが顔を寄せて、カティにぽそりとつぶやいた。口に含んでいたお茶を吹きかけて、なんとかとどまる。
「な、何をおっしゃっているのですか。別に私は、そんな……」
にやにやとした笑みを浮かべながら、シンシアは言葉を続ける。
「あれだけの強さをお持ちで国を代表するような貴族の娘で、それでいて威張らず自然体はむしろ貴族らしくなくて。それでも、普通はあんな口調は欠点というか貴族社会では爪はじきにされそうなのに、凄く似合っておられるわ。どうしたら、あれだけの強さを身につけられるのかしら」
かすかに羨望の眼差しを浮かべるシンシアに対して、期待しすぎないようマリスに対する人物評価に下方修正をするべく説明を付け加えた。
「確かに物理的な強さはおかしいくらいですが、御父上に鍛えられたとなれば、納得できるかもしれません。それに、内面の方は、あれで案外お子様ですよ? 同室で暮らしていれば、きっとすぐに解っていただけると思います」
「そう。それはとても楽しみね。ところで……少しは寂しさがまぎれたかしら?」
この方も見た目通りの性格じゃない、とカティはシンシアの人となりに若干の修正を加えた。




