入学まで その7
入学試験から十日、マリスとカティに学校からの合格通知が届いた。事前に聞いていた通り、マリスは実技で百点で特待生扱いだった。カティは筆記が九十八点、惜しくも特待生になり損ねた。
「カティ、惜しかったね」
「合格できて安心しました。ですが、学校にかかる費用をお給金以外にすべて負担していただくのはやはり申し訳なくて……」
「私が行くのに付き合わされるんだから、気にしなくていい。私に費用がかからなくなったんだから、ディルは私たちにお金を払ってもいいくらい」
そうしよう、とマリスは決めて、ディルの部屋へ行く。カティには止められず、後をついていった。部屋で書類整理をしていたディルは、二人が入ってきたのを見て、手を止めて迎え入れた。
「どうしたの? あ、合格通知? 二人ともおめでとう」
「そう。相談がある」
マリスは滅多に相談やお願いをしないので、ディルは嬉しそうに頷いた。
「なんだい。マリスからの相談なんて珍しいね」
「合格祝いが欲しい。私の分の学校費用が浮いたから、その分ちょうだい」
「そういえば、マリスにお小遣いってあげてなかったねえ。いいよ。それくらいならすぐに用立てしよう」
「半分はカティに、実家に送るお給金とは別で、学校生活を送るためのお金として別枠で渡して」
必死に断るカティに、ディルからもマリスへの擁護が入る。
「学校でも色々と物入りだからね。都度言われるより、まとめて渡しておく方が楽だから、構わないよ。今後、お金の管理もできるようになっておく方がいいし、これも勉強と思って試してみな」
ディルがすぐに人を呼んで、手配が進められた。やり取りが終わった後、ディルはマリスに目を向ける。
「こちらからもお願いというか、目を通しておいて欲しい資料があるんだ」
ディルは紙の束をマリスに手渡す。ぱらぱらとめくるマリスに、説明を入れる。
「上の三枚分は、今年入学と在校中の要注意人物。俺の政敵というか、一方的に敵視されているというか。たぶん色々と難癖付けてくるから、気を付けな。国にとっても害悪だったりするから、結構厄介なんだよね。四枚目からはちょっと面白かった分。試験中にマリスと絡んだカイト君、彼も載せてる」
「その要注意人物とやらをどうにかしたくて、私を養子にした?」
「まったく関係ないとは言わないよ。とはいえ、マリスに何かを依頼するつもりもないし、何もしなくていい」
ディルは椅子に座ったまま、カティの存在を意識してか、ぼやかして答えた。マリスも特に追求せず、話題を変える。
「そういえば、試験前に言っていた王子殿下って、結局本当にいるの?」
「いらっしゃるよ。合格したけど、本人のご意向で偽名で紛れ込んでいる。本人から何らかの動きがない限り、気にしなくていいよ」
「そう。ところで、なんでこんな資料がここにあるの?」
「学校長と知り合いでね。情報を回してもらった。ああ、君たちの合格に手心は加えられていないから、胸を張って通えばいいよ」
マリスは実技で百点だし、筆記も九十二点。カティも筆記が九十八点で、実技も目標点の七十点は超えていたので、手心の加わる余地はない。
適当に返事を返しながらディルの部屋から出て、マリスはカティを連れて自室に戻った。部屋で要注意人物の見た目と名前、性格を頭に入れつつ、面白いと言っていた部分を確認する。
カイトを含めて、今年度の特待生が載っていた。
マリスとカイトが、実技での特待生。面接は一名、筆記で四名だ。筆記で百点を取った中には、グルケも入っている。
「グルケも百点。他のは見覚えがない」
「あら、良かったですね。特待生になっていなければ、受かっていても通わなかったかもしれませんし」
話を適当なところで切り上げて、二人は入学に向けて準備を進めた。全寮制のため、これから卒業までの五年間、長期の休み以外は学生寮で生活をするのだ。学校側には貴族と侍女として同室を希望しているが、必ず聞き入れられるとは限らない。
「お嬢様、もし別の部屋になったら、同室の方にご迷惑をかけないよう注意して生活してくださいね」
「大丈夫。普通に生活くらいできる」
カティは無理だ、と口から出かけたが、すんでのところで言いとどまる。
「何かあれば、私を呼んでください。いいですか、くれぐれも、ご自分で何でもできるとは思いませんように」
「大丈夫。カティはちょっと、過保護」
「過保護なものですか。お嬢様の寝起きの悪さは、相当なものですわ。毎日ご自慢の黒髪を整えるまで、目は開いているのに寝ているような顔をして。ぼさぼさのまま、扉を開けそこねて顔をぶつけたのはお忘れですか?」
「あれは、そう、えと、夢遊病?」
はいはい、とあしらわれつつ準備を整えていった。
そしてマリスの腕も完治した頃、入学の日がやってきた。




