北川明美〜深夜のひととき〜
雪の一雫再び
穏やかさと激しさが同居する喫茶店
『すのうどろっぷ』にまつわるお話は尽きません。
一風変わった常連客たちを、どうぞお楽しみください。
『もっとすのうどろっぷ』
開幕です。
昨日というか二時間前の仕事の神経疲れが高濃度酸素カプセルでもさすがに取り切れない。
でも、体と頭の休息はある程度できたので全裸のままカプセルから出てシャワーに直行。
周りの同僚たちも、のそのそとカプセルから出てシャワーに向かう。夢魔殺しの仕事は人が夢を見る深夜。
二時間で九時間相当の疲れをとってくれる高濃度酸素カプセルは二重生活を送る私達夢魔殺しの強い味方。
私達、夢魔殺しの実働隊は基本的に表の仕事を持っていて二重生活をしている。それを支えるのがこのカプセルとメディカルチェックをしてくれるスタッフ達のケア。
汗を流し、水を拭き取りガウンを羽織り廊下に出る。同じようにガウンでメディカルルームに向かう同僚たち。
その一人が人懐っこい笑みで私に話しかけてくる。
「姐さん、九州の報告書出てないって人事部長がお怒りでしたよ。一応明後日までに期間延長お願いしたッスけど行けそうッスか?」
三國 聖私の副官で潜入が得意なスカウトポジションの我が隊の一番槍。
絶妙に腹立つ軽口が特徴の天然人たらし。九州作戦では、任務の性質上他部署の手伝いに駆り出されていたので、いつもの様に丸投げ出来なかったので私が書かなきゃなのだが…………
書いたの、書いたのよ。でもね、漢文のテストの合間に書いてたせいで漢文なの。レ点と一二点まで完璧に書いたの。
でも気づいたの、日本語でいいんじゃんって。で、今書き直ししてるの。
「ありがとう、朝すのうどろっぷで書けると思う。結経由で送るから人事部長に伝えてくれる?」
内心の混乱を鎮めつつ、聖に伝言を頼む。人事部長、教頭に似てて苦手なのよ。似た人は三人いるって言うけど似すぎで怖い。
「おっけぇッス。あっ姐さん、今日の作戦ギリギリで、過剰戦力と言われてでも鏡花さんチーム呼んでくださってありがとうございます。あれがなかったら…………」
いつものあれ、私の中の夢魔が共振してターゲットが上層部の想定以上の強さだってわかったというだけ。
「ただの勘だけど、あれなかったらヤバかったね。そういう勘が働くように頑張るね、んじゃまたね〜」
軽口を叩いてないとやってられない。私は皆の命を預かってる。失敗なんて許されない。
聖を見送り、私もメディカルケアを受けに行く。
夢魔殺しは現実での傭兵事業と、人類の敵である精神生命体『夢魔』に抗うという二重組織。
夢魔殺しだけが、夢という人間が無防備に精神を晒す世界に現実と同じ戦力を持ち込み夢魔を滅する力を持つ。
起源は古く、断片的だが聖書にも記載されている。人類外の脅威にずっと抗い続けてきた裏の住人達。
私は今日も人々を守り、そして美味しいご飯を食べる為戦う。
さぁ、マッサージを受けたらすのうどろっぷで、いつものマンデリンと…………何食べようかしらね。
そういえばこの間、亘が心春ちゃんに新メニューでピデ出してたわね。久しぶりに亘のピデ食べたいな。
あっ、いけない。マスターって呼ばなきゃ、あの頃と違うのよ明美…………もう戻れない……よね。




