第肆拾伍話 I respect a certain movie : Dawn of the dead ③
時間が掛かった上に短いです(´・ω・`)
第肆拾伍話 I respect a certain movie : Dawn of the dead ③
朝の光がカーテンの隙間から差し込んで、薄暗い室内に一本の筋を浮かび上がらせていた。布団から顔を出すと、ピリリとした軽い痛みを肌に感じて真澄は顔を顰めた。乾燥した空気はじきに冬が訪れる事を知らせてくれる。まだ残る暖かくも気怠さを感じさせる微睡みの余韻は彼を立たせようとはしない。まだこの気怠さを味わっていたいと、真澄はまだハッキリしない頭でぼんやりと考えたが、すぐに気を奮い立たせて布団から這い出した。冷たい朝の空気は容赦なく肌に突き刺さり、一瞬の後悔が頭を過ぎったが真澄は脱ぎ捨ててあったモッズコートを羽織ると履き古した愛用のスニーカーに足を突っ込む。
また変わらない一日が始まると考えると、うんざりしながら真澄はシンクに向かった。昨日の夜作り置きしていたコーヒーがまだ残っていたはずだ。まずは朝の一服を楽しんでから、今日の作業を始めよう。そう自分に言い聞かせて、トントンとスニーカーの爪先で床を軽くノックする。隣に寝ていたはずの光はすでに起きた後で、もう温もりも残っていなかった。早くしなければまたどやされるなと苦笑しながら、彼は冷たくなったヤカンを手に取り不味くなっているであろうコーヒーをカップに注ぐと煙草に火を点けた。
★
床下を這うようになってすでにかなりの時が経過していた。もう自分の庭のようなものだ。薬局への抜け道はかなり前に完成し、シャッターで隔離された空間へは何度か降り立って必要な薬品及び物資の運び出しは完了している。二階の備品保管庫は、すでに何年も籠城できそうなほど充実している。食品も四人で生活するだけなら、近い未来に飢餓で死ぬ事は無い。当初の予定では、すでにここを発っているはずだった。なのにまだ自分達はこのモールに居る。それには理由があった。
薬品を手に入れた数日後、真澄と光は兄妹に別れを告げてモールを後にした。死体は斎藤の努力で数を減らすことに成功していて、近隣に潜む死体の数も減っていたため例の梯子の反対側に死体をおびき寄せる事で簡単に駐車場に降り立つことができた。そしてモールに到達したルートを逆に進み、二人は懐かしいスワンの待つ場所を目指す。途中、何体か死体を排除したが、例の黒目には遭遇しなかった。それがただの幸運なのか、そもそもあれが最後の一匹だったのか知る術はない。
物音を立てぬように慎重に移動したため思ったより時間が掛かったが、二人はようやく目的の場所に辿りついた。そして愕然とする。スワンボートは跡形も無くなっていた。確かにチェーンでしっかりと固定したはずだ。念入りに南京錠も三つほど使い固定したはずである。台風でも来ない限り流されるなど有り得ない。光は訳が分からぬという顔で周囲を何度も探したが、場所に間違いがないと分かっただけだった。比較的目立つ場所に停泊させていたので、いくら時間が経っていても間違うはずがないのだ。
「どういう事かしら・・・?」
「俺に言われても分からないっすよ。確かにここにあったはずです。」
二人で顔を見合わせていると、光が何かに気付いたようにしゃがみこんだ。そして何かを拾い上げる。
「これ見て桜井。」
そう言って差し出した光の掌には、錠の外れた見覚えのある南京錠があった。手に取って調べると、鍵穴に不自然な傷が何個も付いている。
「人の仕業か・・・。」
「まさかピッキング出来る人間が生き残っていたなんて迂闊だったわね・・・。」
フゥと軽く息を吐いた光は忌々しそうに天を仰ぐ。真澄も重い荷物を道端に下ろすと、手近にあった壁を背にして座った。死体から逃げる生活で、無意識でも背中を無防備に晒す事は無くなっている。数分、二人は黙ったままだったが、不意に光が口を開いた。
「戻るわよ。」
「しかないですよね・・・。」
真澄も即座に同意する。すでにクロスボウの矢は片手で数えられる。模造刀も小さな傷が至る所に入り、いくら斬る事が目的では無いとはいえ近い将来に折れる可能性がある。ナイフだけは綺麗な物が多かったが、リーチを考えるとこの先を進むには自殺行為だ。海を行けないなら先に進むのはあまりにも厳しい。当然、今から船を探すにしても夜が来れば生き残る可能性は大幅に減る。リスクを考えると、戻る以外に選択肢が無い。二人はどの面を下げて戻るんだと一瞬考えたが、命と比べられる訳もない。念入りに準備をすると、重い荷物を担いで再びモールへと足を向けた。なぜスワンを奪った人間はあんなにも目立つモールに向かわなかったかなど疑問にも思わずに。
★
二人の帰還を喜んだのは鈴子だった。兄と二人残され、不安に押し潰されそうになっていた矢先に二人の帰還を知り大声で泣きながら光の胸に飛び込んだのは今でも覚えている。真澄はあの日の光景を思い出しながら、屋上で炭に火を点けて餅を焼いていた。切り餅のパックは常温でもそれなりに長く保つが、それでも賞味期限は間近に迫っていたので油断は出来ない。それに今は結構貴重になった炭水化物の摂取に餅はありがたかった。香ばしい匂いを周囲に撒き散らしながら膨らむ餅は、自然に涎を誘う。隣に銃を担いだ格好で腰を下ろしていた斎藤も、砂糖醤油を紙皿にスタンバイさせ今か今かと待っている。
焼きあがった餅を二人で摘みつつ、外に置きっぱなしにしていた缶ビールの350ml缶を一本開け回し飲む。さすがに一本ずつは贅沢だし、何より酔っ払ってしまうわけにはいかない。暖房のない屋内は、予想以上に冷えるので体を温める事が目的だ。ホフホフと白い息を吐きながら、餅は瞬く間に無くなっていき、満ち足りた顔の青年二人は駐車場を眺めながら煙草を吹かす。斎藤も最近はストレス発散に煙草を吸う事を覚えた。百害あって一利なしと言われる煙草も、ストレスの発散や会話の間を保たすことに関しては利がある。嫌煙家には考えられないだろうが、喫煙者も好きで体に悪い物を好んでいるわけではない。
斎藤は何となく銃を弄りながら、真澄は海の方を眺めながらが習慣になっていた。銃に関しては嬉しい事があった。例の黒目に襲われた時引き上げ損ねていた死体の雑嚢には予備の弾とマガジンが信じられない程入っていたのだ。多分補給部隊に所属していた隊員だったのではないだろうか。中には規格が合わない弾もあったが、もしかしたら別の銃を手に入れる機会があるかもしれないと大切に保管している。拳銃用の9mm弾は300発くらいあり、残されていた四丁の拳銃に関しては全員が装備できるようになった。
鈴子の自傷行為も最近はほとんど無くなり、欝に悩まされる事もない。それを斎藤は大変嬉しく思っており、影で光に多大な感謝の言葉を述べたが一笑されて終わった。光は「何もしてないわよ。」と苦笑混じりに一言呟いただけだったらしい。
光の傷はうっすらと残る程度になった。眉の端からこめかみ近くに3cm程の薄紅色の斜線がまだ見て取れる。どうせもう見てくれを気にする事はないから構わないと言いつつも、毎朝念入りにファンデーションを塗る光に、斎藤は何度も謝罪したと言う。だが、光はこの傷を見て鈴子がまた自傷行為に走らない様に気を使っているだけで本当に他意はないとの事だ。
ふと、海を眺めていた真澄は視線を横に泳がせた。向けた先には豆粒のような点が波間に浮かんでいるのが捉えられていた。
「あれはもしや・・・?」
そう言いながら真澄は傍らに置いてあった双眼鏡を手に取ると、その点の確認をする。かなり距離があるため確信は持てないが、そのシルエットには見覚えがあった。二人の乗っていたスワンだ。数ヶ月前に行方が分からなくなっていたが、現在の所有者はまだ健在らしい。自分達以外にまだ生き残りがいる事に安堵したが、同時に何とも言えない感情が脳内を埋め尽くす。あれは自分達の物だ。それを奪った連中(一人かもしれないが)に忌々しい感情が膨れ上がる。
「どうした桜井?」
苦虫を噛み潰したように顔を顰めていた真澄に、怪訝な顔の斎藤が声を掛けた。
「いや、あそこに浮いてんの俺と先輩が乗ってたボートなんすよ。例の盗まれた。」
「ん?よく見分けつくな。」
手渡された双眼鏡を覗きながら斎藤はそう言って呆れたように真澄の顔をチラ見した。
「ええ、あれには思い出が詰まってますからね。言い換えるなら先輩の次に大事な相棒ですよ。」
そうなのかと軽く相槌を打った斎藤だったが、何かに気付いたかのように再度双眼鏡を目に当てる。
「あれってこっちに舳先が向いてないか?」
「そんなはずは・・・?向いてますね。」
手渡された双眼鏡で再確認した真澄もスワンの首がこちらを向いている事に気付く。心なし豆粒が大きくなったようにも感じられた。湾を突っ切って真っ直ぐにモール方面に向かっているようだ。真澄も一度通ったルートだけに間違いようがない。これは暫く監視が必要だと感じた斎藤は、真澄を伝令に飛ばしモールの屋上に腹ばいになるとスワンの動向を追い始めた。
★
報告を受けた光はすぐに鈴子をまとわりつかせながら屋上に現れた。その後に真澄が銃を片手に持ち追随する。現在四丁ある拳銃は、誰もが携帯できる様に部屋に置いてある。平時の携帯は許されていないが、緊急時は誰もが持っていけるようになっていた。それだけ二人が信頼を得たという証だろう。鈴子の自殺ももう大丈夫だと判断されていた。新しいママにことさら懐いている彼女はもう過去を悔いて自らを傷つけはしない。
「私のスワンが現れたって?」
光は腹ばいになっていた斎藤に匍匐前進で近付きながらそう訪ねた。
「何であんたの個人所有みたいになってんだ?」
「あれは私のスワンなの。桜井は運転手だもん。」
当然だと言わんばかりに光は返す。斎藤はそれに答えずに入口近くにいた真澄を見る。真澄は諦めたような微笑を浮かべていた。
(完全に尻に敷かれてんな・・・。)
「ほんとにあのスワンだわ・・・。わざわざ引き返してくるなんていい度胸ね。」
斎藤の気などお構いなしに双眼鏡を奪った光はそう言って歯軋りを鳴らす。そこに同じく匍匐前進してきた鈴子が光に覆い被さるように飛び乗って双眼鏡を奪った。ぐぇっと小さい悲鳴が光の口からこぼれたが、鈴子はそんな事に構いもせず双眼鏡を覗き込む。
「あー、可愛いわねあのボート。いいなぁ、光はあれで真澄を落としたの?」
「あれでどうやって落とすのよ・・・。顔と性格に決まってんでしょ。」
『乳だな。』
兄妹の声がハモった。それに真澄は「うんうん。」と呟きながら頷く。
「相変わらず下衆ね。そんなわけないでしょ。そうよね桜井?」
兄妹に呆れ声を上げて振り返った光に、真澄は「ぇ?」と小さく返した。
「あんた・・・、まさか?」
「オ、オプションは大事ですよねっ!?ねぇ?」
光はそう呟き、真澄は狼狽する。そのやり取りが堪らなく可笑しかったらしく、鈴子がケラケラと腹を抱えて笑う。
「漫才もいいが、そろそろ着くぞ。」
斎藤の声のトーンが落ち、三人の表情に緊張が走った。誰が乗っているかは距離があって確認できないが、どうやら一人ではないらしい。スワンボートは、そうこうする内に立ち並ぶ民家の中に消えていった。ここからの角度では、海と街の境界は見えないのだ。見えていたら紛失したスワンボートにもっと早く気付いていただろう。
「来るならこっちよね・・・。桜井、板持ってきて。」
光はそう言って梯子の登り口に屈みこんだ。
★
光は真澄が持ってきた板を使って、梯子の登り口を完全に塞ぐ。この梯子は転落防止の半円形の鉄柵が上から下までパイプ状に囲っているため、上部の口を閉じると行き来が出来なくなる。つまり、上まで登ったはいいが梯子の中に完全に閉じ込められるのだ。簡単なネズミ捕りのような物だ。どうせ死体に追われて下にも戻れないだろうし、侵入者はゆっくり尋問して問題があれば撃ち殺せばいい。斎藤はそう考えた。今このモールにこれ以上の人間は要らない。元々、桜井達もどうにかして撃退する予定だったし、外部の生き残りは良くも悪くも癖のある連中しか生き残っていないだろう。そんな連中にここの平穏を荒らされるくらいなら殺してやると斎藤は密かに息巻いていた。
チリン、と鈴が鳴った。丈夫に張り巡らされた板を下から押し上げた時に鳴るように、予め仕掛けていた物だ。当然少しの隙間しか残していないので、それ以上は上がらない。
「ネズミが掛かったわね。」
緊張した面持ちの光と、マシンガンを構えた斎藤が顔を見合わせるとソロリソロリと梯子に近付いた。ここを登ってくるのは間違いなく人間だ。板は下からゴンゴンと何度も叩かれていたが、それ以上の抵抗は無かった。銃器の類は持ち合わせていないようだ。もし持っているなら、ぶち破って上がってきてもよさそうだがしないところを見ると持っていないのだろうと斎藤は判断した。それでも銃を持っていた場合を考慮し、銃の軌跡の死角に回り込むとしばらく観察する。光は少し離れた場所で待機し、真澄は拳銃を持って鈴子の傍に待機した。
「何だこりゃ!開かねぇじゃねえかコンチクショウがっ!!!」
「あんたの馬鹿力で何とかしなさいよっ!下にキショいのが一杯寄ってきてんだけどっ!?もう戻れないじゃないっ!!!」
「うるせぇっ!俺でもどうにもならん時くらいあるんだよっ!」
何やら痴話喧嘩のような会話が板の下から響いてきた。どこかで聞いたようなやり取りだなと光は眉を顰める。
「大体なんで私があんたと二人で偵察なんかしてんのよっ!」
「お前がどうしても俺から離れられないとか喚くから仕方なく連れてきたんじゃねえかっ!」
「そんな事言ってませんー。あんたが一人だと寝られんとか言うから仕方なく付いてきてやったんじゃないっ!」
「アホかお前っ!俺がいつそんな事言ったっ!?」
「アスカに聞いたわよボケオヤジッ!!!」
「俺は一人でも余裕しゃくしゃくシャクユミコなんだよっ!」
「嘘つけっ!大体シャクユミコとか言ってるだけで年齢丸出しだっつーのハゲッ!」
「ハゲてねぇ!!!」
「時間の問題でしょうがアラフォーがっ!!!」
「アラフォーとか言うなブサイクッ!」
「かわいいですー。」
「ギャルなんかメイクしてなきゃ眉なしオバケじゃねぇかっ!!」
「誰がギャルよっ!オッサンかお前っ!」
「恥ずかしながらもオッサンには違いねぇがその辺のオッサンと同じだと思うなよっ!」
「認めんのねっ!オッサンならオッサンらしくそんな板ぶち破りなさいよっ!」
「オッサンとガテン系は紙一重で違うんだよっ!!!俺には専門外だっ!デンキヤを・・・。」
「電気屋を・・・?」
「舐めんなよっ!!!!!」
その瞬間、板がメキッと嫌な音を立ててひしゃげる。そして一瞬の間を置いて頭が板をブチ抜いて現れた。光はそれを確認するまでもなく顰めた眉間に指を当てて、銃を構えた斎藤を制する。大丈夫だと。頭の主は穴の開いた板から首を伸ばして辺りをキョロキョロと見渡し、目ざとく光を見つけて目を輝かせた。
「おおっ!!その爆乳はもしかしてっ!?」
『とっつぁん・・・。』
ため息と共に光と真澄二人の口から同時にその男を指す固有名詞が溢れた。
★
怯えたような目で兄の影に隠れ、珍入者を見る鈴子をやれやれと言いながら光は二人を紹介した。
「とっつぁんとギャル子よ・・・。」
「簡単すぎねぇ・・・?」
「水無月優でーす。一七歳でっす。」
「はぁ・・・、どうも・・・。」
面食らったように困惑する斎藤を他所に、光はまず二人がなぜスワンに乗って現れたか訪ねた。
「それがよう。」
「あんた達死んだ事になってんのよ。」
二人同時に捲し立てるので今いち状況が飲み込めないが、何度も聞き返すうちに内容が分かってきた。どうやら光と真澄は道中で死んだと勘違いされたらしい。原因はスワンを奪った人間だ。二人組の男で、フェリーに侵入した所をあっさりと見つかり一人はネイルガンで蜂の巣にされ、一人は右手を壁に打ち付けられて洗いざらい喋ったという。蜂の巣にされた男は明日香の姪の花梨を人質に取ったので仕方なかったという。
「スワンが海を漂ってたのを拾ったって言うからてっきり俺はよう。」
「ピッキングされて盗まれたのよ。じゃなきゃとっくに帰ってるわ。」
「それで本題なんだけど・・・。」
優はそう言うと、信じられない話を始めた。
「その男は斥候らしいのよ。」
「俺も最初は石工だと思って同業者歓迎ムードだったんだけど、このアホが真の意味に気付いてな。」
「アホって私のことじゃないよね?未来のことよね?」
「アホっつったらお前か健太郎くらいしかいね・・」*佐伯健太郎【七歳】明日香の甥
パチーンと小気味の良い音が鳴り響き、とっつぁんが背中を抑えてのたうち回る。
「話戻していい?」
「さっさと先に進んでいいわよ。鈴子が怯えてるから・・・。」
「ふむ、じゃあ進めるわね。」
優はそう言うと今度は真面目な表情になり、事の次第を説明した。
「つまり、やつらは盗賊団みたいな連中の斥候だったわけよ。北の方から南下しながら、手頃なスーパーやこんなモールなんかを漁って生活する集団なんだけど、物騒なのよね。何処から仕入れたか分からないけど、何人も銃を持ってるらしいわ。それで立て篭っていた人間を皆殺しにして物資を補給しながら移動しているわけ。規模も数十人だってさ。今はまだ大分北にいるらしいけど、もうじきここにも来るわ。それでここにも人間が居るって聞いたから、警告しに来たわけよ。」
「脚色はしてるが大体合ってる。」
のたうち回っていたとっつぁんが真面目な顔でそう続けた。光は俄かには信じられないと思ったが、この二人が自分達に嘘を吐くメリットはない。
「つまり、ここがやられたらルート的に次はあの山荘もやられるってわけね?」
「そうだ。やつら海路を使ってるらしい。あのフェリーに気付かないわけないからな。」
「で、ここで食い止められると思って来たのか?」
ようやく状況の飲み込めた斎藤がそう言うと、とっつぁんは首を横に振った。
「思うわけないだろ。親切心で来ただけだ。俺達も南下しようかと思ってな。警告ついでに物資でも分けてもらおうと。」
そこまで聞いて、光と斎藤は頭を抱えた。こちらにも銃があるとはいえ、たった四人。この二人を入れても素人が六人。とてもじゃないが勝てる要素がない。相手が武装集団なら、尚更だ。男三人は確実に殺されるだろうし、女三人は死ぬより辛い責め苦を受けた挙句に殺されるだろう。
「逃げる?」
鈴子は心配そうに兄と光の顔を交互に見る。
「逃げてどうする?北はもう無理だろう。内陸に行けば確実に死ぬ。死体が波みたいに押し寄せてくるからな。南に行っても追いつかれて同じ目に会う。なら、ここで隠れてやり過ごすか、戦うしかない。」
斎藤はそう言って銃を握った。
「隠れるって言っても、下からのバリケードを破られたらここも安全じゃなくなる。それに物資を持って行かれたらお手上げよ・・・。」
光も暗い顔でそう呟いただけだった。
「隠せばいいでしょう?」
不意にしっかりした声が室内に響いた。
「俺が何のために床下に何ヶ月も潜ったと思ってるんですか?ここは略奪にあった後みたいに偽装して、床下に隠れてやり過ごしましょう。大丈夫、床さえ補強すれば下に落ちることもないし、物音さえ立てなければいくらでもやり過ごせます。物資も十分床下に隠せますよ。スペースはいくらでも作れますから、その辺の心配は要りません。問題は時間です。すぐにでも取り掛かりましょう。とっつぁんと優はすぐに戻って皆をここに。フェリーは乗り捨てましょう。上手くいけば皆がここで生活出来ます。」
「他に案がないようだし、それでやってみましょう。」
光の声に、斎藤と鈴子も渋々と頷く。とっつぁんと優は、その日の内にスワンボートに乗って山荘へ向かった。
やっぱあの映画だとこうなっちゃうよねぇ・・・。
久しぶりに登場した二人、いかがだったでしょうか?山荘の人間は一応全員が無事という設定になってます。甥っ子と姪っ子の名前が一切思い出せなかった作者ってどうなんでしょうねぇ?




