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いきおいよく3-3

 下校時間となり、部活は解散になった。

 朱理と二人、職員室に鍵を返したあと、学校前のバス停に向かう。

 日の沈むのが遅い夏。まだ西の空は、オレンジ色の輝きを見せている。

 日差しに照らされ続けたアスファルトはまだ冷めず、熱気を放出中だ。

 この熱気の中バスを待っているだけで汗をかきそうだ。同じくバスを待っている奴らも、水族館にいるシロクマを思い出させるように、ダラダラとぐだっている。口は閉じろ。電信柱を抱くな。

 馬鹿者共が。

 貴様らぐだるのはいいが、温度差を求めて学校の壁にへばりつくな。

 我が校の生徒という自覚と誇りを思い出せ。


「京介、バス停の時刻表に顔をつけても、冷えてないよ?」

 こら朱理、そういうことは声に出してはいけない。

 俺みたいに心の中で呟くのだ。

 

「それにしても、今日は本当に暑いね」

 手をパタパタさせて、自分の顔を扇ぐ朱理。その割には全然汗をかいていないように見える。

 朱理は元々あまり汗をかかない体質だ。俺が大汗かいている時でも、汗一つ浮かべずにいる時がある。

 たまには大汗かいて、ブラが透けて見えますくらいのサービスをしろ、と声を大にして言いたい。

 ただし、俺様限定で、と付け加えるのは当然だが。

 もし朱理のその姿を他の男が見ようものなら、容赦なくその男にデコピンを食らわせねばなるまい。

 その時は記憶が無くなるまでデコピンに付き合ってもらうことになるだろう。


 そんなことを考えているとバスが到着した。

 暑さにやられたシロクマどもが、今度はゾンビのような歩き方でバスに乗ろうと移動する。

 お前ら、いいかげん人類に戻って来い。

 この馬鹿者共は乗り込んだ途端、猿みたいにはしゃぎだす。

 バスの中が涼しいからってはしゃぐな。


 俺達もバスに乗り込むと、冷房の効いた空間に心も体も癒される。 

「うひょー、涼しい。やっぱバスさいこー」

「京介うるさいよ?」

 だから朱理、そういうことは声に出して言っては駄目だ。

 俺みたいに心の中だけにとどめるべきだ。


 空いていた後部座席に腰を降ろすと同時にバスは発車した。

 バスから見えるのは、高校に通っている間ずっと見続けた景色。

 全く変わらぬわけでもなく、時折、国道沿いに新しい建物や店を見かけることもある。

 こんな小さな世界でも変わり続けている。大きな世界はどれだけ変わっているのだろう。

 おお、俺、詩人みたいなくね?

 漫画のネタに使えそうな気もするな。帰ったらノートに書いておこう。

 

 そんなことを考えていると、『ちょんちょん』と朱理が俺の手を突いてきた。

 ちらっと見ると、顔は前を向いているが、下では手をグーパーと、にぎにぎさせている。

 まるで、水面下でバタバタと足を振る水鳥のように、表面上は何事もないように装いながら。

 どうやら手を握れということだろうか。


 握った瞬間、

『手の運動でしたー。ばーか、ばーか』

 とか言うんじゃないだろうな。


 ……すまん。朱里に限ってはそういうことはないな。

 そういうのは俺がする行動だ。


 仕方なく、朱理のニギニギしている手に、そっと手を重ねる。

 重ねた手に指を絡ませてくる朱理。

 すると、朱理の顔が機嫌がいいものに変わる。

 俺はその顔を見届けて、また外を眺めた。

 まあ、純粋に照れ隠しなんだが。


 俺たちが降りるバス停に着いた。

 バスから降りて、家路へと向かう俺と朱理。

 その手はバスから降りて、また固くつながれた。

 その時はどちらからというわけではなく、お互いが手を伸ばした結果だった。

『からめ手に、我が心うち、温まれり』

 思わず、五・七・五を浮かべちまったじゃねえか。

 俳句、川柳、こういうの何て言うんだっけ?

 帰ったらノートに書いとこう。

 

 二人で我が家の玄関をくぐると、靴が所狭しと並んでいる。

「……今日は、うちのようだな」

「……私、着替えてくるね」

 朱理は踵を返して自分の家に向かう。

 俺はそのまま自分の部屋に向かい、荷物を置いて、ササッと着替えてリビングに向かう。リビングに入ると、長テーブルが二ついつものように並んでいる。

 キッチンにいるお袋たちに、帰ってきた挨拶もそうそうに済ませ、自分の席に座る。

 美希と大地はいないようだが、多分、美希の部屋で遊んでいるのだろう。

 親父達はパンフレットを広げて、二人して相談事をしている。

 

「親父、親父さん、ただいま。何を見てんだよ?」

 置いてあるパンフレットを見ると、表紙にウェディングドレス姿の女性。

 洋式、和式、イスラム式といろいろ種類がある。

 ねえねえ、このイスラム式って、おかしいよね?


「おう、京介おかえり。お前と朱理の結婚式のプランを、今のうちから考えておこうと思ってな」

「それで、いろいろな所から、パンフレットをもらってきたのだ」

 お前ら、早急すぎるだろ。どんだけ、両家を結びつけたいんだ。

 それと親父さん、イスラム式のパンフを手に取るのはやめろ。うちは仏教だ。


「なあに、俺たちは勝手に言ってるだけだ。」

「お前たちの意思を尊重するぞ。ただ、備えというものがやはり必要だからな」

 親父達なりに、俺達のことを考えてはくれているのだろうけれど、それでも、まだ早すぎるだろ。


 婚約自体は良いけれど、結婚は俺が働き始めてからの話だろ。

 そうなると、進学、就職がうまくいったとしても、五年も先の話だ。

 いい機会なので、聞いておくことにしよう。


「親父、親父さん。俺と朱理が結婚するのは、俺が働いて、落ち着いてからでいいんだよな?」

「何を言う」

「それでは遅すぎる」

 親父達は慌てて言う。


「婚約したからには、高校卒業と同時に入籍をだな」

「うむ。結婚式はともかく、俺たちとしては、先に入籍だけでも済ませてだな」

「ちょっと待て。稼ぎもないのに、結婚って馬鹿だろう」

「お前が死ぬほど働けばいい。大学に行きながら、死に物狂いで稼げ」

「いざとなったら、うちで働けばいい。こき使ってやるぞ」


 死ぬほど働くのは構わんさ。婚約した時点で覚悟はしてる。

 だが、オヤジの会社に入るのは、ご免被りたいぞ。

 完全に、親の脛かじってるだけじゃねえか。

 結局、親の働きで養われているようにしか見えないだろう。


「親父、親父さん。それは無理があるってもんだろう。将来的には、結婚するんだから、それまで待ってくれよ」

「ならぬ。京介」

「それはならぬのだ」


 親父達の表情は、何故か、焦っているようにも見えた。

 親父達は何故ここまでこだわるのか。

「着替え終わったよ」

 その時、着替え終わった朱里が、リビングに入ってきた。

 俺と親父達が座って話し込んでいるのを見て、気になったのか、俺たちのもとへやって来る。


「三人で何を見てるの?」

 朱理はそう言いながら、俺たちの前にあるパンフレットに視線を送る。


「うわあ、これ、結婚式のパンフ? もしかして、私達の結婚式の話してたの?」

 嬉しそうな表情で言う朱理。


「うむ。備えに越したことはないからな」

「俺たちも待ち遠しいのだ」

 親父達は口々に言う。俺が言ったことは伝えないのか?


「朱理、いま親父達に俺達のけ――――――ぐわ!」

 突然、親父に頭をヘッドロックされ、話すのを邪魔される。何すんだ⁉


「コイツも照れておってな。卒業と同時に籍を入れたいと」

「明日にでも籍を入れたいような勢いでな。はっはっは」

「京介そうなの? そんなに早く私と結婚したいの?」

「むがあ、あねごあなごあびへへ」(違う、誰もそんなことは言ってねえ)

 くそ、ヘッドロックからスリーパーホールドに移されて言葉にならねえ。


「おうおう、京介も照れておるわ」

「朱理、母さんたちを手伝ってきてくれないか。俺は腹が減った」

「うん。手伝ってくる」

 朱理は満面の笑みを浮かべて、上機嫌でキッチンに移動。


「おばあ、いいばへんばばへ」(親父、いい加減離せ)

 ようやく、親父の腕から解き放たれる。


「どういうつもりだ?」

「何の話だ」

「わからぬな」

「しらばっくれるな。なんで朱里に話しようとしたら邪魔した」

「気のせいだ」

「理由がなかろう」

 おい、親父達、何を盛大にフラグを立ててやがる。

 これでつまんない理由だったら、回収に困るだろ。


 それとも本当に、朱里には言えない何かがあるのか?


 ☆


 キッチンでは、朱里が機嫌良さそうに、お袋たちを手伝っている。

 俺は、親父達が隠し事をしているようで、気になってしょうがない。

 探りを入れても、何も答えない親父達。

 パンフレットを見るのに忙しいから、向こうでおとなしく待っていろと、聞く耳を持たなかった。

 くそ、何だってんだ?


 食事の用意が進む中、美希と大地がリビングに現れた。

 美希は、朱里と同様に手伝いを始め、大地は定位置、俺の向かい側に座った。


「お腹すいたー。おい、にーちゃん、何を変な顔してんだよ?」


 大地が俺の顔を見た途端、怪訝そうな顔で聞いてくる。

 そうだ、大地なら何かを知っているかもしれない。


「大地、ちょっとツラ貸せ」

「な、何だよ」


 焦ったような表情を浮かべる大地。

 大地には年功序列のすばらしさを、幼少の頃から体に叩きこんである。

 図体はでかくなってきたが、まだ俺には敵わない。

 俺と勝負すると、どうなるかを知っているだけに、無茶なことはしないのだ。


「お前、俺に隠し事してないか?」

「な、何のことだよ?」


 知らばっくれようとしているが、伊達に実の兄弟のように育ってきた俺の目は誤魔化せない。

 お前が隠し事をした時に左の耳たぶを触る癖があることを、お前は気づいていないだろう。

 今、俺の目の前でその行為をしているということは、俺に隠し事をしている証拠なのだ。


「よし、確定。ちょっとこい」

「ちょ、にーちゃん、何すんだよ⁉」


 大地の首根っこを掴んで、拉致。


「ちょっと京介。もうすぐ、ご飯できるよ?」

 俺が大地の首根っこを掴んだまま、リビングを出ようとすると、朱里が声をかけてきた。

「あー悪い。すぐ戻るから。大地と少し話をするだけだ」


 そのままリビングを出て、俺の部屋へと向かう。

 大地を部屋に放り込んで、邪魔されぬよう部屋の鍵をかけた。


「さあ、吐いてもらおうか?」

「ちょ、にーちゃん、何を言ってるか、わからないんだけど?」

「お前、俺のことがわかってるよな? 無意味に吐けと、俺が言うと思っているのか?」 

 俺が大地を睨みながら言うと、大地は顔を青ざめていく。

「さあ、言え。何を隠してる?」

 親父達が何をしているか、少しでも知ってることを話しやがれ。


「じ、実は……」

「実は?」

「俺、美希と付き合ってる!」


 誰もお前のことなんか聞いてねえ。

 俺が聞きたいのは、朱理の……今、何て言った?


「ちょっと待て。俺の耳がおかしいようだ。今、美希と付き合ってるという戯言が聞こえたんだが」

「そ、そう言ったんだよ」

「いつからだ?」

「春休みから」

「どっちからだ?」

「お、お互いっていうか。俺も美希好きだし、あいつも、俺のこと好きだって言うから」

 何を顔を赤くしてんだ、この野郎。


「何で言わなかった?」

「内緒にしてたからに決まってるだろ!」


 いや、全く気付かなかった。

 仲が良いとは思っていたが、俺と朱理の関係のように、幼馴染としてだと勝手に思っていた。

 俺たちとは違って、こいつらが恋愛関係に入っていたとは。


 大地になら、美希をくれてやってもいいとは思う。

 こいつが美希を大事にしているのは、俺自身知っているからだ。

 いざという時、大地は身体を張ってでも、美希を守るだろう。

 だが、このまま祝福してやれるほど、俺は人間ができていない。


「……で?」

「でって、何だよ?」

「どこまでやった?」

「にーちゃん! それだけは、マジで勘弁してくれ!」


 大地は素早く正座すると、土下座して頼み込んできた。

 ほほう。つまり人様には言えぬようなことを進めている、と判断して良いのだな?

 語るに落ちたな大地よ。

 まだまだ修行が足りないようだ。


「……大地、頭を上げろ。俺を見損なうな。俺はお前のことを買っている。美希の相手がお前なら、俺も文句は言わん。他の誰にも言わんから、俺には話せ」

「……にーちゃん。……ほ、本当に、誰にも言わないでくれよ?」

「ああ、誓ってやる」

「つ、付き合った日にキスして、さっき……生乳触らせてもらっ――ぐあ!」


 本気のデコピンを大地にお見舞い。

 正座の姿勢のまま、吹っ飛ぶ大地。


 つ、つい、本能的に本気のデコピンを出してしまった。

 中学生の分際で――――生乳ゲットだと?

 許さん。

 俺ですら、まだ無いというのに。

 しかも、俺がヘッドロックかけられている時に、お前は、美希の乳を揉んでいただと⁉

 羨ましすぎるだろ!

 万死に値する。


 大地は完全に白目をむいて倒れている。

 俺の本気のデコピンをくらったからか、気絶しているようだ。


 どうしようか。

 全裸にでもして、外に放り出しておくか。

 それとも、す巻きにして、三日くらい行方不明なってもらうか。

 いや、それも生ぬるい。


 …………いや、そんなことは後回しだと、我に返る。


 俺は大地に、こんな事を聞きたかったんじゃない。


 気絶した大地を揺らして起こす。

 大地はまだダメージが残ってるのか、焦点が合っていない。

 この状態ならば、簡単に質問に答えそうだ。

 さあ、少しでも知ってることを吐きやがれ。


「おい大地。朱理に何かあったのか? それとも、何かあるのか?」

「え~、にーちゃんと婚約したくらいだよ~。お姉ちゃんは嬉しそうだし~」

 言葉もおぼろげな感じで言う大地。嘘は言ってないようだ。


「親父さんの様子は? 何か隠してるっぽいんだ」

「父さん? そういえばこの間、母さんと一緒に病院に行くって言ってたな~」

「え? どこか悪いのか? 元気そうだけど」

「俺、そのあと知らない~」


 もしかして、親父さんかお袋さんのどっちかが身体を壊しているのだろうか?

 だから、俺と朱理の結婚を急がせているともとれる。


 五年も待てないって…………癌か何かの不治の病なのか?


 大地から、病院以外のことは聞き出せず、これ以上の聞き取りを止めることにした。

 親父さんとお袋さんが、病院に行くっていうのも、俺の知ってる限りでは珍しい。

 二人とも、いや、両家の両親ともに健康すぎて、病気になって寝込んだのを、一度も見たことがない。

 その血を引いているからか、俺や朱理も、大地や美希も、病気になったのは数少ない。

 俺が病院に行ったのなんて、中学一年のときに、親父さんに関節技をやられて、脱臼した時くらいだ。

 

 たかだか、親父さんが寝ている間に、両手両足を縛ってから、フライングニードロップで起こしたくらいで、その報復にしては、脱臼するまで関節技かけるなんて、大人気ないと思ったもんだ。

 脱臼した俺を見て、腹を抱えて笑った親父も親父だと思うが。

 

 昔話はともかく、フラフラしている大地を連れて、リビングに戻る。

 あまり長いこと二人で話していて、親父達に勘づかれても面倒な話だ。

 どうやら食事の用意ができたようで、俺たちを呼びに来たのか、リビングの入口で朱理とばったり出くわした。

「京介、ちょうど良かった。今、呼びに行こうと思ってたの」

「ああ、悪い。すぐ座るわ。ほれ、大地も座れ」

「大地どうしたの? 何か、フラフラしてるよ」

「ああ、さっき、俺と上で暴れてたからな。疲れたんだろ」

「もう、京介ったら、また、乱暴なことしたんでしょ」

「ごめん、ごめん。まあ、いつものことだ。気にするな」


 朱理と一緒に、いつもの席に着く。大地も美希の横に座った。

 美希は大地の様子を心配して、何やら声をかけているが、大地は「大丈夫」と答えるだけだった。

 それにしても美希よ。にーちゃんは、お前が俺よりも大人の階段を登っているとは、思わなかったぞ。

 確かに、ここ最近のお前は、成長期に入ったのか、女度が上がってきている。

 胸も大きくなってきたような気もしていた。だが、やはり妹として、見てしまっていたので、そういうことは考えられなかった。大地が相手だから、にーちゃんは黙っておくけど、他の奴だったら、にーちゃん何してたか、わからなかったぞ。

 だが、やっぱり、ちょっと早いから、そこまでにしておいてくれ。


「京介、どうしたの?」

 俺が美希を眺めていると、不思議がった朱里が聞いてくる。

「いや、妹たちも大きくなったもんだと思っただけだ」

「そうだね。大地も随分と大きくなったわ。前まで、お姉ちゃん、お姉ちゃんって、くっついてきてたのに」

 少し寂しそうに言う朱里だった。


 最後の料理を運んできたお袋達が席に座ると、親父達が立ち上がった。

「皆、揃ったな」

「では、今日も美味しくいただこう」

 

 皆で合掌し、食事が始まる。

 それぞれ、談話しながらの食事。

 大地ががっついている横で、少しずつ口に運ぶ美希。

 未希は時折、大地の頬に付いたごはん粒を取ったりと、世話女房みたいにもしている。大地達の仲を知った上で改めて見ると、なんとなくいやらしい目で見てしまうのは、俺が下賎なせいだろう。


「京介、どうしたの?」

「いや、なんでもない。それよか、えーと、あの副会長なんつったっけ?」

 二人をいやらしい目で見てしまったことを誤魔化すために、あえて別の話を振ってみる。 

「双葉?」

「あー、そうそう。えーと、如月双葉だったか?」

「うん。あってる。双葉がどうしたの?」

「いや、二年なのに、副会長やってるから」

「私なんかよりすごいよ。処理とかすごい早いし、見習うところいっぱいあるの」

「お前がそこまでベタ褒めするんだから、相当なんだな」

「うん。そうだよ。すごいんだよ。ところで、おかわりは?」

 俺の茶碗の分量を見て言った。気遣わせてすまねえな。

「あ、貰う」

 残りのご飯を口にかき入れ、茶碗を朱理に渡し、おかわりをもらう。


「はい、京介」

「お、ありがとう」

 茶碗を貰うときに、朱理の表情が何かを聞きたそうにしていた。

 お前、言いたいことがあるんだろ。

 そういうのは、お互いすぐわかるんだからちゃんと言えよ。

 

「何か聞きたいんだろ?」

「……あのさ、さっきお父さん達と結婚の話してたんでしょ?」

「……ちょっとだけな」

 朱理はあの時、嬉しそうな顔をした。

 正直に、俺が親父達に言ったことを、伝えたほうがいいのだろうか。

 変に嘘を言っても、朱理には通用しないだけに、躊躇してしまう。


「私はさ、結婚を軽く見ているわけじゃないけど、早くしたい。……でも、京介が待てっていうなら、待つよ?」

 どうやら俺の幼馴染は、既に俺の考えを見抜いていたらしい。頭が上がらん。

「朱理にはかなわねえな。俺は収入を得るようになってからでいいと思ってるんだ。大学行く予定だってあるからな。俺はともかく、朱理は確実に大学にいけるんだから、邪魔はしたくない」

「だよね。京介なら、そう言うと思ってたもん」

 俺はちょいちょいと手招きして、そっと耳打ちする。

「親父達は俺が言おうとしたら、邪魔しやがったけど、お前、心当たりあるか?」

「無いよ。確かに、お父さん達の態度はおかしかったけど」 

「さっき、大地に聞いたら、親父さんとお袋さんが病院に行くって話だったが、聞いているか?」

「え、何それ? 聞いてないよ」

 大地は知っていて、朱理は知らない。何なんだ?

 重い病気だとするならば、大地にだって隠すはずだ。

 単なる健康診断なのか、それとも何かを隠しているのか。

 俺の杞憂かもしれないが。


「なあ、朱理。お前、最後に病院行ったのいつだ?」

「えーと、高1の時かな? 大掃除の時に頭ぶつけた時だよ」


 その時のことは覚えてる。

 二年前の年末、俺と朱理は、親父達の会社の大掃除を手伝うことがあった。

 その掃除中に物が落ちてきて、朱理の頭に当たってしまったのだ。

 本人は大丈夫と言ったが、念のため病院で診てもらった。

 あの時も朱理はすぐに病院から戻ってきたし、大事には至らなかったと聞いている。


 もしかしたら、その時に異常が見つかったという説も考えられるが、それならば、朱理を病院に連れて行っているはずだ。

 考えても、親父達が俺たちを早く結婚させようとしている理由にならない。


 一体、何なんだ?

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