いきおいよく6-3
誰かの声が聞こえた気がした。でももういい。
このまま起きてもまた朱里にやられるかもしれない。
どうせなら、このままあの世に逝っちまったほうがいい。
あいつ泣いてたな。馬鹿だあいつ。
ああ、でも惜しむらくは童貞のまま死んだことだな。
どうせ婚約したんだから一回くらいやっとけばよかった。
「――――介!」
また、何か声がした気がする。もう、いいじゃねえか。
また朱里に殺されるくらいなら死んでた方がましなんだよ。
あいつの泣き顔もう見たくないんだよ。
殺されるために生き返るって究極のMじゃねえか。
そんなのごめんだ。
「――――ぶっちょ! ぶっちょ!」
もしかして、俺を呼んでる?
お菓子みたいな言い方するな。
俺は部長だけど『ぶっちょ』じゃねえよ。
「――――部長! 起きて! 起きてください!」
おいおい、しつこいな。
「――部長! やばいです。部誌が落ちそうです!」
「なんだとお⁉ 誠がまたやらかしたんかああああああああ!」
「――ああ! 生き返った!」
そこには涙を流して俺を覗き込む沙緒と茶々。不機嫌そうに俺を睨む誠。
そして俺の胸元に両手を当てた親父がいた。
「間に合ったか」
親父は俺に心臓マッサージをしていたようだ。
ってことは、やっぱり俺は朱里にやられたのだろう。
「うわあああん。良かったああん。マジで心臓止まってたから、びっくりしたああああ」
茶々がえぐえぐと大泣きしながら言った。なんだ、ちゃんと目が覚めたのか。
「もう、部長。心臓止めて死んだふりなんて止めてくださいよ。びっくりするじゃないですか」
沙緒が涙を袖で拭いながら笑って言った。そんな死んだふりできたらすごいと思うぞ?
「一つ言いたいことがあるんだが、何で部誌が落ちそうだと俺のせいなんだ?」
誠がぼそっと呟く。日頃の行いが悪いせいに決まってるだろ。
でも、お前も目が赤いぞ? もしかして、お前も泣いてくれていたのか?
まったくどいつもこいつも、死んだ時くらい静かにしてろってんだ。
馬鹿なやつらだ。涙腺緩んじまうじゃねか。
あれ? そういえば俺、朱里にやられたんだよな?
なにがどうなってんだ?
「どうなってんだよ? てか、朱里は?」
「今、菫ちゃんとやりあってます」
起き上がって俺が見たもの。それはお互いボロボロになった朱里と菫の姿だった。
沙緒の話だと、俺が倒れた後、心臓が止まっている状態を見た菫が逆上して朱里に殴りかかったらしい。
朱里も何故か応戦して、今に至っているようだ。二人の姿を見るからに手加減なしだ。
「朱里まで何で殴りあってんだよ……」
「会長は誰にも負けられないって言ってました……」
負けられない? 何のためにだよ。
いつものお前だったら、そんなこと言わないだろ。
もうやめろ。やめてくれ。
そんな俺の願いは無情にも二人に届かない。
朱里の右拳が菫の顔にヒット。踏ん張ってこらえる菫。右拳で朱里に殴り返す。
どれぐらいの時間殴り合ったのか、もう技なんて関係ない。単なる殴り合いが続いていた。
二人とも、ダメージが蓄積しているようで、ぜえぜえと息も切れて、もうフラフラだ。
それでも何度か打ち合った後、二人は距離をおいた。
親父の横で朱里の戦いを見つめる親父さん。
その表情は後悔の色を浮かべていた。
「……京介すまぬ。黙っていたことを許せ。俺達の計画は豪一郎の言ったとおりだ。俺達が後ろ盾になれば分家も抑えられると思っていた。この件は朱里も承知していた。……だが、あいつは知ってしまった。自分が宿命の者であることを、京介が宿命の相手であることを。俺達が隠し通してきたことを知ってしまった」
こうなった結果に苛立ちを覚えているのか。
親父さんからギリギリと歯軋りして、強く握り締めた拳が震えている。
「親父さん。そんなの迷信みたいなもんだろ? なんで宿命の者ってのに、みんなしてこだわってんだよ?」
「血だ。宿命の者には兵頭の血が騒ぐのよ。菅原家にはこのような血のざわつきが無いようだがな。今の俺とて変わらん。勇次郎と相対したならば死力を尽くして戦いたくなるのだ。大事な友だとわかっているのにだ。朱里がお前を殺そうとするのは、お前を宿命の者と自覚してしまったからだろう。……いや、それだけではないな。朱里は、一馬の事で心を囚われておる。……馬鹿者が」
心が囚われている?
ああ、そうか。やっとわかった。
朱里は責任を感じているんだ。一馬を死に追いやったのは自分だと。
きっと朱里のことだから、自分だけが幸せになれないと思い込んでるんだろう。
一馬は負けることが嫌いだと豪一郎は言った。
朱里自身がその足枷をつけて、一馬の代わりに勝ち続けるつもりだろう。
本当に救いようのない馬鹿だ朱里は。
朱里と菫はお互い隙を窺っているうちに、朱里の視界に俺が映ったようで驚いた顔を見せた。
「京介……死んでないんだ。……そう。それじゃあ、……今度こそ殺してあげるね」
朱里はフラフラとしながらも、対戦中の菫ではなく俺へと足を進め、悲しそうな瞳で呟いた。
悲しそうな瞳なのに殺意だけはしっかりと目に宿っている。
死神が大鎌をもたげてくる。そんなイメージが朱里の背後に浮かんだ。
「ふざけないで!」
菫がフラフラになりながらも、朱里の前に立ち塞がり両手を広げて吼える。
「あなたは幼馴染で、家もお隣さんで、頭も良くて、運動も出来て、人望もあって、容姿も綺麗で、部長の事なんでも知っていて、そのうえ婚約までして……そんな人に勝てるわけがない。そう思って諦めてたのに……。いったい何なんですか⁉ 部活だけは一緒に過ごせる時間だったのに……。それすらも奪おうとするなんて、絶対許さない!」
「次元さん……どいて」
「どきません。確かに私はあなたより部長を知らない。でも、私だってあなたの知らない部長を知ってるんだから! 普段馬鹿なことばっかりやってるのに、部に部長がいるといないじゃ大違いなんだから! 殺すつもりなら、もうあなたに遠慮はしません。身体を張ってでも好きな人くらい守ってみせます!」
「……次元さん。…………強いんだね。ちょっと羨ましい」
「部長は私が守ります! 次元の名に賭けて!」
菫…………そうか。口には出さなかったけど、俺のこと思ってくれてたんだな。
後で俺のどこが好きになったか教えてくれよ。
それから俺、お前に全力で土下座するわ。ごめんな。気付いてやれなくて。
菫は掴みかかろうとして、朱里と掴みあいになった。
お互いの力が拮抗しているのか、握りあった手がぎりぎりと震えている。
「……何で、どうして、殺さなくちゃいけないんですか?」
「さあ、……どうしてかな?」
「婚約者なんでしょ? 好きなんでしょ?」
「本当は好きじゃないのかも……だって殺したいんだもの」
「どうしてそこまで……」
「同じ日に生まれたのが……いけないのよ」
「そんなの理由になってない!」」
菫は気合一閃、目にも力がこもってるのも見て分かった。
掴みあった手を左右に広げると、振りかぶって朱里に渾身の頭突きを放った。
朱里も瞬時に迎撃態勢に入り、二人の頭が激突し鈍い音が響く。
お互い衝撃に耐え切れなかったのか、頭をぶつけ合ったまま二人は崩れ落ちた。
倒れた二人に駆け寄ってみると、朱里も菫も完全に意識を失っていた。
「沙緒、茶々。二人を手当てしてやってくれ」
「はい。わかりました。茶々いくよ」
「はいです」
二人とも女だっていうのに……がちで殴りあいしやがって。
顔に傷でも残ったらどうすんだ。
思わぬ形にはなったけれど、俺は俺で今回の件にけりをつけなくてはならない。
「うーん。やはり反対して正解だったね。朱里君は兵頭の血を随分と濃く持っているようだ」
楽しそうに呟いた豪一郎をひと睨み。
「おい豪一郎。こんだけのことしてくれたんだ。一発殴らないと気がすまねえ」
「いいだろう。遊んであげよう。私も退屈してたんだ。私は指一本だけ使おうか」
人差し指を立てて、くいくいと挑発する豪一郎。
なんだその余裕の表情は。俺にハンデまで与える気か。
とことん舐めきってくれるよな。
「豪一郎、絶対許さねえ。お前が余計な真似さえしなければこんなことにはならなかった」
「……それは私の台詞だよ。君たちが余計な真似さえしなければ、こんなことにならなかった」
豪一郎はスラックスのポケットに片手を入れた。
本気で指一本しか使わない気か。その余裕な態度が余計にむかつく。
「さあ、殴りたければかかってきたまえ」
油断しているうちが殴るチャンス。
頭の中にいくつか連続技に繋がるようにイメージを思い浮かべる。
豪一郎の重心を見ながら、右の拳を放ってみる。これは当てるつもりで出さない。
こいつの動きを見るためだ。一応狙いは豪一郎の右頬。
避けられたとしてもそこから蹴り上げのイメージ。下がられたとしてもこれなら届く。
俺が近づいたというのに、まだ余裕の表情の豪一郎。避けもしない。
だったらそのまま当ててやる。
俺は勢いのまま、左足を強く踏み込み、右腕を思い切り伸ばした。
――当たるはずだった。でも、俺の拳は豪一郎に届く直前で止まった。
伸びきった腕の先にはまだ余裕の表情の豪一郎。
俺の拳は豪一郎にあとわずかで届いていなかった。
「打つのがわかってるのに、止めないわけないだろう?」
俺の右肩に添えられた豪一郎の指。
俺の動きに合わせて指一本で俺の肩の動きを制した。
「リーチは私の方がある。さあ、どうする」
手が駄目なら脚がある。足を踏み変え左足で蹴り上げる。
イメージで組んでいた通りなので身体はスムーズに動いた。
だが、脚は当たることなく空を切った。
「モーションが大きい。それもバレバレだよ」
次期総代になる男だ。現時点で菅原家最強という肩書きは伊達じゃない。
俺の動きなど稚拙にみえるのだろう。
どこかに油断はある。そのはずだ。
諦めず何度も挑みかかるが俺の攻撃は空を切るばかり。
豪一郎の巧みな体捌きと足捌きに翻弄される。
焦りばかりが募ってくる。疲労感も増してきていた。
俺はこいつに一撃与えることが出来るのか?
そんな不安すら頭にもたげてくる。
待て。まだだ。諦めるな。どこかでチャンスはある。
次第に豪一郎は退屈そうな顔をし始めた。
「……君は本当に叔父さんの息子か? 町のチンピラ以下じゃないか」
「ぜぇぜぇ……期待はずれで悪かったな。このくそ野郎」
息もあがりつつあった俺は精一杯の悪態をつく。
「残念だけど、君では私に一発も当てることは出来ないよ」
敵わねえのはわかってんだよ。
不安を振り払うように頭を振る。まだ諦めるな。そう心に言い聞かせる。
俺のために身体張った部員がいる。
部長の俺が何もしないで、ただ見てましたじゃ、義理が立たねえんだよ。
何度だって、はいずってでもお前に一撃くれてやる。
また振りかぶって左拳を放つ。放った拳は豪一郎の指一本に止められた。
「君も知るべきだ。現実は残酷なものだと」
豪一郎は素早く俺の拳を振り払うと、俺の空いた肩に指を突き入れる。
肩の付け根に豪一郎の指が突き刺さる。鈍い痛み、それと同時に俺の左腕がだらんと垂れ下がる。
「な、肩が上がらねえ⁉」
「少しの間使えなくさせてもらったよ。無力な自分を恨みたまえ」
「ふざけんな! まだ他にも――」
どすどすっと連続して、両足の付け根に指を突き入れる豪一郎。
俺の両足が痺れて動けない。力が入らない。
「どうだい? 君の望みなど叶わない。これが現実なんだよ」
やり返したくても絶大な力には敵わない。そんなの分かりきっている。
だからといって、諦めたらそれこそ本当の終わりなんだよ。
「まだ、右手が残ってる」
手だけの力で豪一郎の眉間めがけて、力のない一発を放つ。
動かない豪一郎。当たれ。小さな願いと希望。だが、やはり現実は残酷だった。
それもまた、豪一郎に右肩を指で押さえられて当たる寸前で届かない。
指一本分の距離を残して。
豪一郎は指で肩を押さえたまま、笑って言った。
「当てさせても良かったけどね」
そんな豪一郎に俺も笑って返してやった。
「余裕だな。お前にも現実は残酷だって教えてやるよ」
そして俺は届かなかった右拳から、渾身の指を弾く。
指一本分の隙間、それさえあれば十分だった。
俺から弾かれた指は豪一郎の眉間に当たり、俺の指には確かな手応えが伝わる。
「覚えとけ。俺がデコピンの伝承者だ!」
過去に一度だけ使ったことのある『デコピンの極み』。正真正銘、俺が持つ究極のデコピンだ。
自分にも絶大なダメージが返ってくる。これでもう、この指はしばらく使い物にならないだろう。
もう指の感覚も残っていない。これで俺の武器はなくなった。
ぶっ飛び倒れた豪一郎。ざまあみやがれ。そのまま気絶してろ。
だが豪一郎の手がぴくりと動き、起き上がろうとあがいている。
マジかよ。……さすが次期総代だな。あれくらってまだ意識あるのかよ。
まいった。もう打つ手ねえわ。
起き上がる豪一郎。だが、足元はフラフラとしている。
「くっ。油断したよ。ざまあない」
一歩進んだ所で膝をつく豪一郎。そりゃそうだろう。手応えは確かにあった。
俺の指が使いもんにならないくらいの大打撃だったはずだ。
まあ、いいわ。この後ボコボコされても一発入れられただけ気が済んだ。
元々、どうあがいたって敵わない相手だ。
部員に格好いいところ見せられないけどな。これで勘弁してくれ。
俺が覚悟を決めた時、俺と豪一郎の間に割り込んだ影があった。
「――――もういいでしょう?」
俺達の間に割り込んできたのは、女性作家で豪一郎の婚約者、澤田祥子だった。
☆
膝をつく豪一郎に寄り添う澤田祥子。
「豪一郎さん、もうやめよ? こんなことしたって一馬兄さんは帰ってこないし、喜ばないよ……」
「……祥子……。それぐらい私にだって分かっている。でも……悔しいんだ。何も出来ない自分が……」
悔しそうに言う豪一郎に、そっと背中に手をあてる澤田祥子。
一馬兄さんって聞こえたけれど、澤田祥子は兵頭一馬の妹なのか。
駆け寄ってきた誠が俺の身体を支えてくれた。
まだ手足が痺れていて、感覚が戻らない。
右手は自分が放ったデコピンの極みのせいだが。
誠の手を借りてゆっくりと腰を降ろす。
澤田祥子は俺に視線を向けると、頭を下げた。
「ごめんなさい。この人が何故こんな事したか全て話すわ」
澤田祥子は語る。
とある計画の事を。
そして自分たちの事を。
菅原豪一郎と兵頭一馬は宿命の者である。幼き頃より両家の争いに参加し、お互い戦いあった。
拳を交えるもの同士だったが、学校も同じでクラスも一緒、いわゆる幼馴染だった。
いつしか豪一郎と一馬は友人になった。まるで親父達の様に。
ある日二人は約束をした。「両家の争いを止めさせよう」と誓い合った。
そして、両家の誰にも文句を言わせないようにするため、次期総代を目指してお互い腕を磨いた。
そして、豪一郎はそれを実現した。次は一馬の番だった。
だが、朱里が現れたことで、その目論見は海の藻屑へと消えた。
彼は負けたこと、友との誓いを守れなくなってしまったこと、全てに絶望して命を絶った。
「私達は秘密裏に計画してた。あなた達のお父様が計画していたように、私達も両家の争いを止めるつもりだったのよ。総代になった豪一郎さんと私が結婚することでね、二つの家を結び付けようとしたの」
考えていた事は同じだった。
親父さんは朱里を総代にして、俺と結婚させて兵頭家を抑えようとして。
豪一郎たちは自らが総代になって、両家を抑えようとして。
なんだ、この残酷な運命は。
「お互い目指したものは一緒だったのに、お互いが秘密に動いたから、お互いが望まない結果になってしまった……。悲しいよね」
そっと、澤田祥子は豪一郎を抱いた。
「この人は失ってしまったの。兄さんが死んで、あなた達の婚約を聞いて壊れてしまった。あなた達の幸せを願えなくなってしまった。それから朱里さんやあなた達の事を調べだしたの」
そして知ったのが、親父達のついた嘘。
もし俺達が生まれた日を偽らずにいたら、親父達が家を出ずにいたら。
俺と朱里は幼い時から拳を交えることになった。お互いを敵として見るようになっていただろう。
そうなっていたなら、俺達が婚約する話などでてこなかった。
今となっては想像の世界。
親父達の友情が、子を思う気持ちが関わる人達の人生を歪めてしまった。
「この手で復讐も考えた。だが、一馬が勝てなかった相手に私が勝てる気がしなかった。もし彼女が総代になったなら私は負けるかもしれない。情けない話だ。もし君がまともに修行を受けていたなら彼女に匹敵する強さを持っていただろう。それが宿命の者だ。それすらも叶わないのなら、せめて君たちの思惑だけは潰したかった」
そう言った豪一郎は小さく「すまない一馬」と呟き、肩を落とした。
「あんたら馬鹿だろ」
思わず言い放つ。
豪一郎、澤田祥子が俺を驚いたような目で見る。
「何で、総代になってからとか言ってんだよ。朱里も馬鹿だ。豪一郎が次期総代で、朱里が次期総代になるんならそこで争いなんかやめちまえよ。親父も親父だ。俺達の事を思ってるんだったら、最初から逃げんな。てめえらが総代になって変えちまえば良かったんだ。伝統とかお家柄とか血筋とか宿命とか関係ねえよ。自分自身がどうしたいかじゃねえのか? どんなことでも諦めた時点で終わりじゃねえのか?」
俺はふと、昨日見たイベント終了後の輝かしい光景を思い出す。
「諦めてねえ奴ってさ、すっげえ格好いいんだ。俺はそれを知ってる。あんたらはどこかでそれを忘れちまった。諦めたやつらだ。朱里だってそうだ。俺と婚約した。でも、宿命の者だからって一馬のことがあるからって俺を殺そうとした。あいつは婚約の先を諦めちまった。一馬もそうだ。朱里に負けて諦めちまった。あんたらも一馬が死んだことで色んなことを諦めちまった。ふざけるなよ。何、言い訳してんだよ。あんたらが。残ってるあんたらが諦めてどうすんだよ。一馬の変わりに、一馬がやれなかった事をやってやれよ」
俺は気絶して倒れたままの菫を見た。
「あそこで倒れてんのはうちの副部長だ。諦めの悪いやつだから、あんなにボロボロになってまで俺を守ろうとしてくれた。すげえ格好いいだろう?」
俺は横にいる誠を顎で示して、
「こいつだってそうだ。365日エロイことばっかり考えてる。でもな、そんだけ自分の作品にぶちこむんだよ。磨き続けてんだよ。一度も諦めねえで作り続けてんだよ。あそこで介抱してるうちの部員たちもそうだ。一生懸命に追いかけてる。やりたいことを諦めないでがんばってんだ」
最後に思いっきり力を込めて言ってやる。できる限り大きな声で。
「ガキが一生懸命諦めねえで追いかけてんだ。大人になったからって忘れるんじゃねえ!」
今できることをやる。それが未来につながるんだ。




