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いきおいよく5-3

 イベント会場では翌日のイベントに向けて撤収作業が行われている。

 何があるのか知らないが、日ごとに変わるのだから大変だ。

 今日使っていた器材を業者がどんどんと車に搬出していく。随分と手慣れたものだ。


 俺達は秋月さん達に手伝いを感謝され挨拶を終えた後、解散となった。

 挨拶したあと部員たちと駅まで戻る。琴浦駅はイベント関係者で混雑していた。

 イベントの帰り、混雑した電車の中で茶々が小さく呟く。

「何か色々な意味で熱かったですね」

 右手に手鏡を握ったままなのは気にしないでおこう。


 確かに色々な意味で熱かった。俺達はその片鱗を見ただけに過ぎないだろう。

 それでも最後に見た光景は俺はある種の感動と決意を覚えた。

「俺らも頑張るぞ」

「「はい部長」」

 菫と沙緒が小さく返事した。

 部員たちの目も真剣そのものだ。これからの部誌作成に励みが付くだろう。

 大変なのはこれからも変わらない。


 集合した駅前で分かれてそれぞれ帰宅の途へと着く。

 誠や沙緒、菫は大事そうに鞄を抱えて歩き出した。茶々は手鏡だけど……。

 あいつぶれないな。ある意味凄い。


 乗り込んだバスの中でうとうとと眠気に誘われる。思ったよりも疲れたみたいだ。

 家に帰ったら朱里に話しよう。今日のイベントは俺にある決意をさせてくれた。

 俺は誠みたいにプロで食べていけるほどの才能も無いし将来それでメシを食っていける自信も無い。

 でも、漫画を続けたいんだ。輝ける場所があったんだ。

 今日のイベントで西側を見てそう思ったんだ。アマでもファンがいる。

 その人の作品を買いに来る。確かにプロとしてやっていけるならそれでいいだろう。

 狭い世界かもしれないけど、趣味の世界かもしれないけれど、利益は上がらないかもしれないけれど、大学に進学しても、社会人になっても漫画は続けたい。 

 きっと朱里は「京介の満足いくまでやってみなよ」と言ってくれるだろう。

 あいつはそんな女だ。


 ☆


 我が家と兵頭家が見えてくる。玄関に足を踏み入れると靴が並んでいる。

 どうやら今日は我が家で晩餐らしい。

 だが、ふと靴の数が足りないことに気付く。朱里の靴が無い。

 まだ家に残っているのだろうか。


 家に入りリビングを覗くと、俺の家族と兵頭家の朱里以外が揃っている。

「ただいまー」

「京介おかえり。あれ、朱里は?」

 お袋さんが俺が一人で帰って来たことを不思議そうな顔で見る。

「今日俺部活だよ。朱里とは出かけてないけど?」

「え、朱里朝からいないんだけど?」

「家にもいないの?」

 頷くお袋さんが冗談言っているように見えなかった。


 胸騒ぎを覚えて、兵頭家に行き朱里の部屋をノックする。

 返事が無く、気配もしない。ドアを開けてみるとそこは綺麗に片付けられたもぬけの殻。

 どこかへ行ってるのか? 

 携帯に電話してみると、部屋の中から着信音がする。

 朱里がいつも使っている鞄の中からだった。


「あいつ携帯も財布も持っていってない」

 俺は自分の家に舞い戻り、いつから朱里を見ていないか家族に尋ねた。


「朝、にーちゃんと暴れてたの見てから見てない」

 美希は俺が朱里に縛られていた時に助けてくれたから姿を見ている。

「他は?」

 みんな一様に首を振る。親父達やお袋は昨日の酒のせいで昼前まで寝ていたらしい。

 お袋さんは朱里が納戸でゴソゴソしていたから物音で起きてきたらしいのだ。


「朱里は納戸からロープ持って、京介の所行って来るっていって帰ってきてないわよ」

 お袋さん。そこで朱里がロープ持ってる時点で止めようぜ。起こしに行くのにロープはおかしいよね?

 おかげで朝縛られたんだぞ。過ぎたことは、まあいい。今は朱里だ。

「俺、朝出るときに朱里が家の前で見送ってくれたんだ。その後だよ」

 誰も朱里を見ていない。部屋には携帯と財布の入った鞄がある。


 これって?――――――失踪? 


 そう思った途端、家の電話が鳴り、お袋が受話器を取った。

「はい。もしもし菅原です。ああ、ご無沙汰してます。少し待ってください。あなた電話よ。豪一郎さん」

 受話器を受け取った親父。

「……もしもし。……! お前自分が何をしているのか分かっているのか?」

 突然怒鳴りだす親父。

 状況が一本の線を作る。このタイミングで豪一郎からの電話、怒鳴りだす親父。

 朱里がいなくなったのは豪一郎のせいか。


「何だと⁉ それはおかしいではないか! ――くっ、切りやがった」

 受話器をガチャンと乱暴に切る親父。相当いらだっている。

「――朱里は今、豪一郎の元にいる。奴め、おかしいことをほざきやがった」

「何て言ったんだよ?」

「奴は『警察に言っても無駄ですよ。勘違いしないで下さい。朱里さんは自分の意志で私の元にいる』そう言った。とりあえず朱里の身に何もしていないので安心するようにとも言っていた」

 何で朱里が自分の意志で豪一郎の元にいるんだよ。俺には意味が分からない。


 親父とお袋はあちこちに電話をかけ始めて豪一郎の所在を調べ始めた。

 相手も所在を隠しているのか。全然尻尾が掴めない。

 変に表沙汰に出来ない所がかえって時間がかける羽目になった。

 今の時点で朱里の意志で行っているならば豪一郎の言うように大騒ぎできない。

 これも豪一郎の計算づくなのか。焦りと落胆だけが増加する。


 俺は歯痒い思いでいた。何も出来ない自分が悔しかった。

 親父さんもお袋さんも気が気で無い状態なのか。随分と心配そうにしている。

 大地も美希もしょげ返っている。

  

 おい朱里。お前何考えて豪一郎の所へ行ったんだよ?


 ☆


 一体、何がどうなってるんだ。

 朱里が自分の意志で豪一郎のもとへ行く理由がわからない。

 

 親父とお袋が手分けして親戚筋のあちこちに電話をかけているが、未だに豪一郎の居場所が分からない。

 俺に何か出来ることは無いか。がむしゃらに外を探し回りたい気持ちにもなる。

 当てもなく探したって見つかる訳も無い。くそ。何でもいいから手掛りが欲しい。


「――咲も知らないのか? すまぬが分かったら連絡をくれないか? ――ああ、すまない」

 どうやら咲ねえにも連絡して聞いたようだ。


 ――――結局、手掛りの掴めぬまま、時間だけが過ぎていった。


 そんな時、

『ピピッピドゥ♪ ピピッピドゥ♪ パッパヤッパッパ♪ パッパヤッパッパ♪ フフゥ~ン♪』

 このくそシリアスな場面でふざけた携帯の音が鳴る。俺のだが……。

 この音は電話の着信だ。猛烈に後悔した。ふざけてこんなのにするんじゃなかった。


 家族からの冷たい視線を受けつつ画面を確認。電話の相手は茶々だった。

 なんだよ。こんな時に今忙しいんだよ。


「はろはろ~。部長ですか? 今、私の右顔がすごく輝いているんですけど、どう思います?」

「…………」

 ――――ピ。

 無言で電話を切る。

 どう思うも何もねえよ。知るか、そんなの。空気読め。このクソ変態が!


『ピピッピドゥ♪ ピピッピドゥ♪ パッパヤッパッパ♪ パッパヤッパッパ♪ フフゥ~ン♪』

 すると、すぐに茶々から電話がまたかかってきた。美希と大地の突き刺すような視線が痛い。


 音も恥ずかしいので急いで受話ボタンを押して、電話に出る。

 今度同じこと言ったら怒鳴ってやろう。

「何も言わずに切るなんてひどいじゃないですか!」 

「自分の胸に手を当てて考えてみろ!」

 電話越しにごそごそと服の擦れる音がした。どうやら実際に自分の胸に手を当てているようだ。

「それなりに成長してます。見せられなくて残念です。はっ⁉ 私ってば身体までいい感じ?」

 誰かこの変態を黙らせてくれないか? できれば永遠に。


「今忙しいんだよ? 朱里が――――」

 ――さらわれた。と、言いかけて言い留まる。茶々には関係のない話だ。

 言ったところで何にもならない。無用な心配をさせてしまうだけだ。


 すると電話越しに茶々が

「あ、そうそう。その会長なんですけど。駅前で部長達と分かれた後、黒塗りの外車に乗ってるの見かけたんですよ。男の人が運転してたんですけど。もしかして部長捨てられたんですか?」

「ちょっと待て。その話もうちょい詳しく聞かせろ!」

「へ? 見たって言ってもちょっとだけだし」

「いいから。誰が運転してたって?」

「は、はい。見たことない男の人でした。ちらっとしか見てないですけど」

「どっち方面に向かってた?」

「な、何怒ってるんですか。やっぱり捨てられたんですか?」

 お前はどうあっても俺が捨てられたことにしたいのか。

 そんなことはどうでもいいんだよ。

「いいから教えろ!」

「えと、海岸線の方へ向かってましたよ」

「そうか。サンキュー」

「あ、ちょっと。部長、結局捨てられた―――」

 茶々の言葉を待たずに電話を切る。最後までこだわってやがったな。

 


「親父、海岸線に向かって朱里を乗せた外車を見たって後輩が」

「外車だと? それなら豪一郎だな。あやつも外車に乗っている。――しかし、海岸線だと? 何でそんなところに――――」

 海岸線の先、行き着くところは海の見える田舎町だ。

 親父達にも思い浮かぶようなものがないようだ。


「親父、車出してくれないか? 海岸線を走ってみたら手掛りに辿り着けるかもしれない」

 もうじっとしていられなかった。

 手掛りが一つでもあるなら、それを頼りに朱里を奪い返しに行きたかった。

「うむ。すぐに行こう」

「俺も行く」

 親父さんもついてくるようだ。自分の娘だ。そりゃあ心配だろう。

 親父と親父さんと一緒に玄関へ向かおうとした時、家の電話が鳴り響いた。


 両家族一同がその電話に注目する。もしかして豪一郎か? それとも親戚筋からの情報か?

「……俺が出る」

 電話に出ようとしたお袋を止めて親父が受話器を取った。

「もしもし、菅原ですが? ――豪一郎! 今、お前一体何処にいる? ――何だと⁉ ……ちょっと待ってろ。京介変われ。お前を指名してきた」

 親父がコードレスの電話を俺に手渡す。

「――もしもし、変わったぞ。京介だ」

「やあ、京介君。久しぶりだね。何年も会っていないけど元気そうで嬉しいよ」

 想像していたよりも澄んだ声。電話の声というのに通りがいい。

「あんた一体何考えてんだよ? 朱里を出せよ」

「そう慌てないでもらえるかい? 君の婚約者さんには指一本触れていないから安心したまえ。私はそこまで愚かではない。それよりも京介君。ちょっとゲームをしてみないかい?」

 小さな含み笑いが聞こえる。何がゲームだ。こいつマジで頭いかれてるのか?

「まあ、簡単なことだ。救出ゲームだよ。舞台も用意させてもらおう。まだちょっと時間がかかるから明日の朝迎えを出すよ。それまで大人しく待っていてくれるかな」

「ふざけんな! 何がゲームだ。いい大人がふざけてんじゃねえ!」

「私は退屈しているんだ。いや……そうだね。これは私の復讐だ。それでは――」

 ぷつっと電話が切れた。くそ、朱里の声を結局聞けなかった。

 それに退屈ってますます意味が分からない。復讐って何のだよ?

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