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いきおいよく5-2

 ――――正直、なめていた。

 たかだか販売イベントの手伝いだろうと。

 まず第一に俺が驚いたのは、すでに会場の入り口前に何百人いや千人はいるんじゃないかという人だかりができていたこと。まだ開幕もしていないというのに何だあの熱気は。

 会場が開くのは午前十一時だ。沙緒や誠が言うには徹夜組も当たり前にいるらしい。

 俺達は集合場所の裏口に行ってますますびびった。負けないくらい人がいる。

 これ全部今日の参加者かと驚いた。

 すでに搬入が始まっているようで、こちらも熱気盛んな状態だった。

 巷で聞く都内近郊でやるコミケだと、この規模の数倍らしい。

 混雑する中、沙緒が携帯で秋月さんに連絡を入れる。

 人がごった返す中でむやみに動くと分からなくなると菫が判断してのことだ。

 結局、秋月さんの旦那さんに向かえに来てもらって合流した。

 合流した俺達はそれぞれパスケースを渡される。

 いわゆるスタッフ証でこれがないと中で動き回ることも出来ないらしい。


 俺達は依頼人である沙緒の叔母、秋月詩織さんと対面した後、今日の予定と実施する作業内容を確認。

 男子は基本的に力仕事。女子は売り子さんと言うのが俺達に与えられた仕事だった。

 秋月さんのチームは秋月さんの旦那さん以外に男性はおらず、手伝いの女性が3人いる。 

 とりあえず開幕までの間、旦那さんと共に俺と誠は器材を借り受け定められた場所へ搬入。

 菫と沙緒は他の女性と一緒に販売する商品や飾りつけの手伝いをしていた。

 

 俺達に与えられた場所は東側C47という場所。いわゆるプロの領域らしい。

 その世界で飯を食っている人達はある程度固められているようだ。

 アマチュアやセミプロは西側に集められていて、一つのグループに対して面積自体も狭い。

 秋月さんも昔はあっち側にいたという。プロになったとはいえ、東側でも売り場面積に差がある。

 例えば、俺達がここに来る途中にあった澤田祥子の売り場面積はどう見ても秋月さんの十倍はある。

 それだけ商品の数も多いのだろうし、買いに来るファンに備えてのことだろう。

 全国的に有名な澤田祥子が毎年直接参加しているようで楽しみにしているファンも多いという。


 おおむね準備が終えたのは開幕一時間前で思ったよりも時間が経っていた。

 秋月さんから説明と注意事項を受ける。基本的な事項らしい。


 まず一つ目。

 このイベントが終わるまではスタッフなのでファンとしての行動は慎むこと。

 サインを貰うとか、写真を一緒に撮るとか、握手してもらうといった行為の事らしい。

 営業妨害にもなるし、他のファンとの争いの種になりかねないので禁止らしい。

 ただし、イベント終了後なら相手が了解してくれれば大丈夫らしい。


 二つ目。

 イベント参加者が物々交換でやりとりする慣例もあるらしいのだが、それは西側限定の話なので持ちかけられても断ること。東側でそれをやる事は禁止されているらしい。その辺がアマとの違いか。

 当然例外もあって、お互い知人に新作をプレゼントしあうというのはあるらしい。

 この辺は秋月さん自らやるみたいなので俺らは関与しなくても良さそうだ。


 三つ目。 

 ファンがたまに餞別やらプレゼントをくれる場合がある。高価な物の場合は断ることもあるが、安価な物や手紙などはその時にちゃんとお礼を言って受け取ってよいらしい。判断がつきにくい場合は秋月さんが対応するとのことだった。


 後は、他の所と揉めないように厳重注意された。揉めると次回から参加が出来なくなるようなのだ。 

 他の女性スタッフから菫、沙緒、茶々に売り子をしていると時折ナンパみたいなことをしてくる馬鹿もいるので気をつけてと言われていた。

 うちの部員たちはそこそこ可愛いからな。部長として背後から見守ってやらねば。


 会場内にアナウンスがなり開幕まであと三十分を切った。  

「うわ~ドキドキしてきた」

 沙緒が緊張した様子で言う。竿竹が稲妻のような形になってるけど意味が分からない。

「西側だけに……ちょっと遠いな」

 誠は誠で買いたい物の狙いが定まったらしく休憩時間にでも買いに行くつもりだろう。 

「これは入れていいんですね。はい。わかりました」

 他の女性スタッフに細部事項を確認する菫。ここでもしっかりしている。

「ああん。今日の顔も調子いい」

 手鏡で再度自分の顔を見つめて満足気に微笑む茶々。ここでも変態ぷりがおさまらない。

 この変態は人の目に触れないように倉庫に放り込んでおいた方がいいような。

 とはいえ茶々の美貌はこういう時はいい看板になる。

 今回の売り子の位置としてはセンターをキープした。せいぜい笑顔を振りまくがいい。


 俺と誠それと秋月さんの旦那さんは基本的に商品の補充が仕事。

 ウラカターズだ。なんならイタリア風にウラッティーノでもいい。

 売り場に持ってこれる商品の量は知れていて、割与えられている倉庫から補充していくのが俺達の役割だ。ポスターなどは軽いが、冊子となるとダンボールに入っていて結構重かった。

 商品を入れる袋なども補充が必要になるだろう。売り場までの移動も距離があって大変だぞこれ。


 開幕まで一〇分を切った頃、目の前を電車で会った澤田祥子が通った。

 俺達に気付いた澤田祥子は微笑みながら近付いてくる。

「また会ったわね。秋月さんのところのお手伝いなんだ?」

「あー、祥子ちゃん。おはよー」

 秋月さんが大きく手を上げて挨拶を送る。

「秋月さんおはようございます。お久しぶりです」

 丁寧に頭を下げる澤田祥子。

 目の前で繰り広げられる二人の会話に、

「え? え? え?」

 と沙緒が泡食った顔になった。

「お、叔母さん。どういう関係?」

 沙緒が秋月さんに聞くと、

「うちのスタッフとして働いていた時期があったのよ」

 あっけらかんと答える秋月さんだった。

「もう六年くらい前ですね。懐かしい」

「祥子ちゃん今や売れっ子だもんね。あたしも鼻が高いわ。あ、そうそう、この間お願いしたのよろしくね」

「はい。準備しておきますんで後で持ってきますね」

「忙しいんだからいいよー。後であたしが取りに行くよ。あ、そうだ。この子が取りに行くから」

 そういって秋月さんは沙緒を指差した。

「へ?」

 指差された沙緒は軽いパニック状態になっていた。

 竿竹が慌てたように左右に揺れる。上も下も落ち着け。

「あんたが欲しいって言ったんでしょ。いい機会だからもらってきな」

「あなたが沙緒さん? どんな字かしら? ちゃんと名前も入れておくわ」

 そう言って沙緒に微笑みかける澤田祥子だった。

「さ、沙羅双樹の沙に、えーと、糸に者って書いて緒で沙緒です」

 口をパクパクさせながらも必死に答える沙緒だった。

 竿竹は超高速でドリル状態になっている。あれはどういう状態なんだ?

「うん分かった。それじゃあ後で取りに来てね。待ってるわ」

 沙緒に優しくそう言って秋月さんに挨拶した後、自分のブースへと移動して行った。

「………………幸せすぎる!」

 沙緒は顔をくしゃくしゃにして喜んでいた。

 神様がいつもいい子にしているから沙緒にご褒美くれたんだろうな。

 ところで神様よ。俺へのご褒美はいつくれるんだ?

 

 ☆


 開幕のアナウンスが流れ、祭が始まった。

 警備員と会場のスタッフがハンドマイクで注意喚起しているのが聞こえてきた。

 西側東側ともに熱気を抱えた人の群れが流れ込んでくる。

 なんとなくだけど西側に流れている方が多いような気もする。

 部数が少ない可能性もありそれを狙う人もいるからだろうか。

 入ってくる人をみると必死の形相した人や心待ちにしていたような表情とそれぞれだ。

 人気のブースにはすぐに人の列が長く出来ていく。

 遠めに見える澤田祥子のところは段々と列が伸びていた。

 秋月さんのブース、俺達がいるところにも人が並び始まり対応が始まった。

 秋月さんがファンの人達から声をかけられて握手したり、プレゼントや手紙を貰ったりしている。

 秋月さんのファン層は女性が多い。年齢層的にも服装から若年層~二十代前半が多い感じに見えた。


 対応しているとあっという間に時間が経っていて、午前中のピークが過ぎたようで客足も安定してきた。その様子を見た旦那さんが「そろそろ交代で休憩しようか」と言い出した。

 時間が経つにつれ、誠がソワソワしていたのを見たからかもしれない。うちの部員がすいません。

 とりあえず、誠を先に休憩に入らせる。

 誠は休憩と言われた途端、「戦場に行って来る」と言って鞄を持って西側へと移動して行った。

 とりあえずがんばって探して来い。俺がその分働いておく。

 

 愛想を振りまいていた茶々も休憩に入った。

「部長。私の顔引きつってませんか? 手鏡見れなくて超不安なんですけど」

「大丈夫だ。ほれ」

 答えつつ、茶々の鞄を手渡す。するとすぐに鞄を漁りだして手鏡を取り出してチェック。

「ああん。時間が経ってもいけてる!」

 手鏡に映る自分の顔を見て安堵と恍惚とした表情を浮かべる変態がいる。

 お前にとって自分の顔は精神安定剤代わりかよ。スタッフの人が引いてるぞ?

 ひとしきり自分の顔を堪能すると茶々が周りをキョロキョロとして、

「あの部長。私も回ってきていいですか? こういうの初めてなんで」

 変態ぷりはともかく茶々も興味があるようだ。社会見学にもなるだろう。

「ああ、行って来い。休憩は交代で取るから早めに戻って来いよ」

「はーい」

 素直に返事する茶々は左手に鞄、右手には手鏡を持って移動して行った。

 お願いだからその手鏡は鞄にしまって行け。


 三〇分ほどして茶々が戻ってきた。ちょっと青ざめた表情なのは気のせいか。

「駄目です。人混みがひどすぎて気分が……」

 どうやら人酔いしたらしい。会場の中は空調が効いているはずなのに暑いからな。

「なんかコスプレした人から一緒に写真撮らせてくれって言われたんですけど」

 茶々は傍目から見たら異常なくらい可愛いからな。そういう輩もいるだろう。

「へー、コスプレもいるんだ?」

「はい。西側にたくさんいましたよ。戦隊ものの格好してました」

 戦隊物だと顔がわかんねえだろ。写真取る意味無くない?

「記念なのか? お前、顔は良いから、そのせいじゃねえか?」

「ですかねー。ちょっと座っときますね」

 そう答える茶々。謙遜ぐらいしろ。とはいえ、実際顔が青白いので座らせておくことにした。


 それからしばらくして誠が戻って来た。

 誠は珍しくニタニタして戻ってくる。お前の顔でそれは止めとけ。

「その顔だと手に入れられたらしいな」

 満足そうな誠に声を掛けると嬉しそうな声で返してきた。

「おお。ターゲットは確保できた。ついでに今度そのサークル覗かせてもらう話も取れた」

 普段からエロイことばっかり言っているから、ついつい忘れてしまうが誠はプロ志望だ。

 将来この道で食べていく決心をしている。

 親との約束で大学へは進学する。それを条件に認めさせている。

 それ故誠は勉強する。

 二年に上がった時、D組からB組へ所属を変えられたのも本人の努力の結果だ。

 三年に上がる時にはA組に上がれなかったが、むかつくことに誠は五月の中間試験と総合テストでB組のトップなのだ。こいつなりの目標地点が決まっているからだろうが、誠に負けてると思うと必要以上に悔しいのは何故なんだろう。

 前に何でエロ系ばっかりなんだと質問したことがある。

「簡単なことだ。エロイのが好きに決まってるからだろ」

 さらっと答える誠だった。聞いた俺が馬鹿だった。

 年がら年中エロイことしか考えていない馬鹿に聞くだけ無駄だった。

 とは言うものの、俺も立派な青少年。興味が無いわけではない。むしろ好きだ。

 誠ほどオープンではないにしても、人並に興味はある。

 と、言うわけで今日買ったやつ今度貸してくれ。

 

 誠と俺が交代して沙緒も茶々と交代。二人でイベント会場をぐるりと回ることにした。

 西側を覗くと、アニメキャラや漫画のキャラに扮したコスプレイヤーがたくさんいた。

「部長見てください。目玉の親○がいますよ」

 それコスプレとして選択間違ってるよな? 等身大の目玉の○父怖いよ!

 目玉に血管までつけんじゃねえ。夢に出てきそうじゃねえか。

「あ、あれはエ○ァのアスカですね」

「あー、服だけな。あれは冒険しすぎだろ。隣のレイは似合ってる」

「あれ? 部長。あの人達喉仏ありますね。男の娘さんぽいですよ」

 男⁉ マジで男なのか?

 アスカはちょっと無理があるけど、レイは結構可愛いと思っちまったぞ!

 本当にいるんだ? 幻想世界の生き物かと思ってたのに男の娘いるんだ⁉  

「部長もやってみたらどうです?」

 にひっと笑いながら言う沙緒は明らかに俺がやらないと分かって言ってきている。

「ああいうのは誠の方が似合うと思うぞ。あいつ顔が良いからな」

「あら、部長もそんなに悪くないと思いますけど?」

 沙緒お前は良い子だな。でもお世辞ってもんや社交辞令ぐらいは俺だって分かるぞ。 

 

 ☆ 

 

 茶々と同じように人混みに当てられたようで、すでに俺は帰りたくなっていた。

 沙緒は元気に「ほー」とか「へー」とか「すごっ!」とか「うわ~」と感情の赴くまま声を上げている。ところで何が凄かったのか教えてくれ。気になる。

 キョロキョロとチラチラを繰り返すだけで列には並ばない沙緒に声をかける。

「なあ、沙緒。お前見てるだけでいいの?」

「欲しいのもありますけど。今回は報酬が大きいですからそれで十分ですよ」

 こういうイベントだと財布が緩みそうなものなのにしっかりしている沙緒だった。

 回っている時に竿竹の先端がにゅっと突然向きを変えたことが何度かあった。

 竿竹が向いた商品を見てみると沙緒が興味を持つであろうタイプのものだった。

 宿主の嗜好を把握しているかのような動き。理解できない謎の動きを見せる時もあるが。

 なんとなく竿竹の観察日記でも描きたくなる気分だ。 

 

 二人して見学して戻ってくると菫がおらず、茶々と誠に聞いてみると休憩に入ったそうだ。

 しばらくして俺達が店子に戻ったころに菫が戻ってきた。

 手には小さな紙袋。どうやら何かを買ってきたようだ。

「何か欲しいのあったのか?」

「ええ。少しだけですけど」

 澄ました顔で言う菫だが目は口ほどに物を言うことを忘れているようだ。

 菫の瞳の奥で祭が開催されている。リオのカーニバルくらいの規模だ。

 鞄の中に大事そうにしまう菫。相当、お気に入りの作品でも手にしたのだろう。

 菫の嗜好は少女漫画が主で特に恋愛物が大好物だ。自作の漫画も甘ったるい恋愛ものを描きたがる。

 たまに少年誌を読んでいるときもあるが、基本バトル物は嫌いである。

 絶対いい作品描けるから、YOU、バイオレンス描いちゃいなよって言いたい。

 いや他意は無いんだ。他意は。経験に基づいて描くといい作品が出来ると思っただけだ。

 

 午後になり、人気のあるブースは相変わらず人の群れが減らず常に一定量を保っている。

 秋月さんのところは悲しいかな並んでも数人だ。

「そろそろ顔つなぎ行って来るわ」

 客がいなくなったのを見計らって秋月さんは手荷物を持ってどこかへ行ってしまった。

 このイベントに参加している知人に挨拶回りに行ったようだ。

 見送った旦那さんが肩をすくめて俺達に小さく呟いた。 

「この業界も何だかんだいって人脈が物言う時があるんだよ」

 何か嫌な世界を見せられたような。


 ☆


 どんなものにも終焉はある。

 一日を通して熱気だった祭も終わりに近付いてきた。

 俺達の活動に問題は起きなかった。途中、茶々が鏡を見たがる病の発作を起こした以外は。

 いきなりぶるぶる震えて「て、てかがみ」とつぶやき始めた時はとどめを刺そうかと真剣に考えた。

 どんな中毒患者だよ。本当にどうにかならないかな、この変態。

 まあ余談はともかく、今回は部活動の一環でのお手伝い。

 部員たちに成果があったかどうかは分からない。各個人それぞれ何かを得たのだろうか。

 俺自身が得た事といえば、漫画やイラストで食べていくには絵が上手いだけでは駄目なんだと知ることができたことか。西側を回っていた時、サンプルを少し見させてもらった。俺よりも漫画歴が長い人達の作品。個人の好みもあるだろうが、綺麗なイラストだからといって、内容が薄っぺらい漫画もあれば、これは俺より下手だろうと思うような絵でも展開がうまかったり、共感する要素があったりして続きを見たくなる漫画もあった。やはり内容が大事なのだな。俺も精進しよう。

 

 閉幕のアナウンスが流れ出すと、客の中には「短すぎる!」と文句を言う人達もいた。

 買いたいものが買いきれなかったのか回りきれなかったのか。残念でしたと言う他あるまい。



 会場から客がいなくなり、しばらくするとアナウンスがまた入った。

『会場内の撤収は大変混雑いたします。東側から順番に行いますのでしばらくお待ちください』

 アナウンスを聞いて、秋月さんが、

「沙緒今のうちに祥子ちゃんところ行っておいで。この後だと難しくなるよ」

 手をひらひらとさせて沙緒に促した。

「うん。行ってくる」

 沙緒は満面の笑みを浮かべて澤田祥子がいるブースへと向かっていった。

 俺達は残って撤収準備を手伝う。秋月さんのところは、ほんの少し在庫が残った。

「なかなか完売とは行かないよね」

 そう言う秋月さんだったが目標部数は捌けたようで安心したような表情だ。

 概ね撤収準備が終わり後は搬出を待つだけになった。

 秋月さんの旦那さんが俺達にある事を教えてくれた。

「君達も手伝ってくれてありがとう。そうそう、この後西側覗いてみて。きっといいもの見れるよ」

 西側に何があるのだろう?


 しばらくすると沙緒が手に袋をぶら下げて戻ってきた。

「ぶ、部長! サイン付きイラストだけじゃなくてこんなのまで貰っちゃいました」

 袋の中を見せながら言う沙緒。

 袋の中にはこのイベントのために用意したであろう書き下ろしの小説。挿絵も自分で描いた作品のようだ。

「これファンの間でプレミア付くくらい入手困難なんですよ!」

 興奮した様子の沙緒の頭の上で竿竹がドリル状態、いやバネのような形でびよよんびよよんと動いていた。おもしろいなーこれ。はねまくりだな、おい。


 ようやく撤収の順番が回ってきた。俺達は倉庫に向けて移動していく。 

 その時に西側に通じる扉の前を通ったのだが、そこには喜怒哀楽があふれていた。

「お疲れ! 今日の成功はみんなの苦労の結果です。また次回もっといい作品を作りましょう!」

「ちくしょう! こんなんじゃ駄目だ! もっと大衆受けする奴じゃないと駄目だ!」

「終わったー。○○さんに比べたらまだまだだー。売れのこちゃったし。はあ……赤字だ」

「楽しかったねー。次もがんばろうねー」

 サークルやアマチュアが多い西側ではドラマが起きていた。

 知らない人から見れば、たかが漫画、たかがイラストかもしれないけれど。

 作り手は夢を追いかける。結果に一喜一憂しながら高校生の俺達と変わらない姿があった。


 立ち止まっていた俺達に旦那さんが声をかけてくる。

「これが君達に見せたかった光景だよ。夢がある世界だ。でも彼らは真剣なんだ」

 夢を追いかけるものに輝ける世界がある。

 それは俺にとって今日の手伝いをすることで得た一番の報酬のように思えた。

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