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いきおいよく4-3

 沙緒が朱里のために椅子を用意して俺の横へ座るように促す。沙緒は良い子だな、本当に。

 茶々も見習えよ。何で、一緒に動いてお前は自分の置き鏡を持ってくるのかな? 


 横に座った朱里に明日の話をすると、表情がいつもの温和な朱里に変わっていく。 

 良かった。どうやら一時的なもので済んだようだ。

「ぐっ!」

 おいおいフェイクはやめろ。

 ほっとした途端に俺の足につま先の一撃を加えてくるなんて、お前そんなキャラじゃなかっただろう。


「へー、明日そんなに早く行くんだ? 起こしに行った方がいいよね?」

 俺の足への一撃など無かったかのように話す朱里。  

「あーそうだな。朱里悪いけど起きれなかったら困るから頼むわ」

 朱里に返すときにもジト目は忘れない。くそ、無視してやがる。

「え、いつも会長に起こしてもらってるんですか?」

「それは情け無いですね。いい歳して何やってるんです?」

「ああん。今の私、超表情よかったぁぁぁぁん」

 おい変態。その台詞はどう聞いてもおかしいし、関連なかったよな?

 他の二人の会話聞いてた?


 朱里が手をパタパタと振って、

「いいの、いいの。いつものことだから」

「会長は部長を甘やかしすぎでは?」

 菫が俺の事をゴキブリでも見るような目で見て言う。

 返す言葉もありませんです。トラウマ刺激するのであまりそういう目で見ないで下さい。

「あ、あの婚約してからモ、モーニングキスとかもしちゃうんですか?」

 沙緒が言った途端、朱里がぼっと紅潮する。

「し、しないよ。そんなこと」

「そこの辺は詳しく聞きたいな? 二人はどこまで進んでるんだ?」

 俺たちの後ろにいた誠が言った。振り向くとまだ倒れた姿だ。

 誠、お前さ。聞くならせめて起きてから聞け?

 倒れ伏したまま聞くのっておかしくない?


 誠の質問には、菫も沙緒も答えが気になるようで、俺たちの顔をじーと見つめている。

「無い、無いから。まだ何にもしてないから!」

「部長」

「なんだよ菫?」

「立つもの立たないんですか?」


「「ぶふっ!」」

 俺と朱里が揃って吹いた。


 まさか菫の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。 

「お二人の仲だと、セックスくらいすでにしてると思っていたので」

 いやいやいやいや、そんな言葉簡単に言うなよ。すげえ顔が熱い。

「婚約したからってそういうのねえよ!」

「いえ、婚約する前からセックスしてるだろうなと思っていたので」

 恥かしげもなくすらすらと言う。

「そんなことしてないよ! 私達、高校生だよ⁉」

 真っ赤になって反論する朱里。

「会長、今時そんなこと言うなんて笑われちゃいますよ? 部長だってそれは分かるでしょ?」

 確かに今時の男女交際は高校生らしくない不健全な付き合いしてる奴らもいる。

 でも純粋な付き合いしてる奴らだっているだろ。俺らもその部類だ。

 妄想は凄くしてたけどな。これは正直にしてた。

 朱里に言ったら殴られるレベル確定のやつ。

 

「私の勘違いですか……。つまり部長が童貞で会長が処女の組み合わせですか。……部長一言よろしいですか?」

「なんだよ?」

「やーい童貞野郎。初夜失敗しちゃえー」

「「ぶふっ!」」

 またも噴出す俺と朱里。

 おいおい、菫お前そんなキャラ持ってたの?


「え? え? もしかして次元さん。もう経験済みなの?」

 パニくった朱里が俺が目の前にいるのに菫に聞いた。

 そういうのってガールズトークで話すことじゃないの?

 普通、男のいる前じゃ聞かないと思うんだけど?

 

「秘密です」

 ニッコリ笑って答える菫。答えてねえけど答えるのかよ!

 それってさあ、どうなの? 俺からしたら経験済みって聞こえるんだけど。

 朱里もどうやら俺と同じように感じたらしく、今度は沙緒に視線を向ける。

 お前はお前で何を慌ててるんだ?

「な、夏川さんはどうなの?」

「え? ノーコメントで」

 竿竹が凄い高速で捻じれてるんだけど? 何その表現。俺、分かんない。

 ちょ、マジで沙緒まで何? 

 俺が知らないだけでお前ら誰かと付き合ってんの?

 もう二人とも処女じゃないの?

 がーん知らなかった。何かショックだ。

 何か色々な意味でショックだ。

 まさか沙緒が誰かと付き合ってたなんて……。

 何か今、不穏なことを考えたような気がする。頭の中から振り払おう。


「えええええ? し、新城さんは無いわよね? この間まで中学だったし」

 今度は茶々にまで質問する朱里だった。何が聞きたいんだお前は。

「あ、私、もちろん処女ですよ。でも、キスはしたことあります。あ! あぁん今の顔凄くいい!」

 お前ちゃんと話しろよ。でも、キスの経験はあるんだ?

 変態の癖にあるんだ。鏡に映った自分とキスしたって話じゃねえだろな?

 てか、お前が自分以外に興味持ったことがあったっていう事実の方が驚きだぞ。


 朱里は呆然として、思いつめたような顔で何か考え込んでいる。

 えっと朱里さん? 思いつめるようなことは何も無いですよ?

 そういうのってさ。早く経験すればいいってわけじゃねえだろ。

 いつか俺と結ばれるんだし、その時までだな……。

 何か恥ずかしいな、おい。何考えてんだ、俺。


 起き上がった誠が自分の椅子を用意して、菫と茶々の間に椅子を並べて座る。

 座った途端、朱里が誠に質問する。

「た、高塚君はないよね?」

 もしもし朱里さん? どこまで聞いて回るんですか?

 どこの突撃リポーターですか? 全校生徒にまで行きそうな勢いですよね?


 朱里の質問が伝わらなかったのか。誠は何も答えない。

「ああ、よかった。高塚君は経験無いんだ」

 朱里は何故かほっとした顔で言った。

「あ? 俺、童貞じゃねえよ。なあ菫?」

 誠はそう言って、菫に顔を向けた。


「⁉」


 ちょい待て! 今のは俺も聞き捨てならんぞ。

 ええ? マジなの? 

 今の、菫に振ったってことは相手は菫なのかよ⁉

 お前ら付き合ってたの? 違う意味でも突き合ってたの?

 

「……プッ。……くくく、も、もう駄目。あはははははは」

 菫がもう我慢できないといった感じで笑い出す。

「くぅ~。誠さん、もう私無理です。これ以上続けられない」

「おいおい菫~。今から面白くなる所だったのに。我慢してくれよ」


「「へ?」」


 俺と朱里が唖然とする中、沙緒と茶々も腹を抱えて笑い出した。 

「すいません会長。今の全部冗談です」

「部長の顔すっごいおかしかった。ぷぷぷ、誠さんからの指示ですからね」

「おいおい。お前らも悪乗りしてたじゃねえか」

「ああん。笑顔が光ってるぅ」

 若干一名おかしい発言だが、どうやら俺達は部員にからかわれていたらしい。


 俺達の後ろから誠が指示を出していたらしいが、まったく気付かなかった。

 きっと我が部の伝統奥義『目だけで会話』を使ったんだろう。


 最近、使ってなかったから忘れてた。

 そういや春日部先輩いつもこれ使ってたなー。懐かしい思い出だ。


 誠が俺達に話しかけた後に、菫達が俺達をじーっと見ていたが、あれは後ろの誠を見ていたんだな。

 くそ。してやられた。うちの部はこういう悪ふざけのときの結束力が高いからな。

 

「え? え? え? えええぇぇぇー⁉」

 みんなの顔を何度も見て叫ぶ朱里。

 すまんな。うちの部員は悪ふざけが大好きなんだ。

 そういうところだけは部長の教育が行き届いてるんだわ。


 部員にしてやられて、恥かしさのあまり真っ赤な顔をしたままの朱里。

 だが、ここで手を緩めてくれるほど、うちの部員共は甘くない。


「会長もそういうことに興味があるんですね。ちょっと安心しました」

「会長とガールズトークで盛り上がれそうですね。部長を肴にするのっていいかも」

 菫と沙緒がニタニタしながら言った。

「あぁん。斜め右からの私の顔って可愛いぃん」

 若干一名、変態が変なことを言っているが気にしていたら気が持たない。

「こらこらお前ら。朱里はそういうの慣れてないんだから、あまりいじるな」

「あら部長ったら、いつもならいの一番に参加されるのに。婚約者には優しいんですね」

 菫が不満げな顔で言った。

 確かに悪ふざけなら率先して参加するのが俺なんだけどさ。朱里怒ると怖いから。

 お前ら本気で怒った時の朱里を見たことが無いからそう言えるんだよ。

 普段、俺を殴ってるのなんて、慈愛に満ち溢れてるレベルだぞ?

 あんなのいわゆるじゃれ合いだ。ここ数年見てないけど、真面目に命に関わるんだよ。


「……ふむ。まあ、この話題は封印しておくか。ところで明日の話の続きは?」

 誠が珍しく普通の事を言ったので、俺を含めたみんなが驚きの表情を浮かべた。

「誠さんがまともなこと言った……」

「言えるんですね……」

「俺、三年間で初めて見たかも……」

「誠さん……私の右顔と左顔、どっちが可愛いと思います?」

 また若干一名、変態さんが自世界から異世界への会話を挑戦しているが放っておこう。


「おいおい、俺だって極稀にまともなことくらい言うぞ?」

 心外そうな顔して言う誠だった。

 自分で極稀にって言うな。日頃の行いを自覚すんじゃねえよ。

 あと変態からの質問を普通にスルーしたな? 茶々がほっぺた膨らませてるぞ。


「あ、そうだ。明日ですけど、よろしければ会長もご一緒にどうですか?」

 沙緒が朱里に言うと、朱里は首を横に振って、

「ごめん。私はちょっとパスさせて」

「あー、そうですか。用事でもあるんですね。急にすいません」

「いいの、いいの。誘ってくれてありがとう。次の機会のときはお願いするわ」

 朱里が沙緒に微笑みながら言った。

 本当にいいのか? 何となくだけど、朱里が逆の事を言ったような気がした。

 それから俺達は明日の予定を再確認して今日の部活を終えることにした。

 


 ☆


 帰りのバスの中で、朱里が隣で物思いに耽っている。

 部活で起きたことでも考えているのだろうか。

「朱里、どうした?」

「ん~。実はさ。クラスで聞かれたの」

「何を?」

「もう、したかって」

「だから何を?」

 聞いてみると、朱里は頬を赤らめて言いにくそうに口を開いた。

「……えと、せ、セックス?」

「ぶふっ⁉」

 思わず吹き出す。

「ちょっ、つば飛ばさないでよ!」

「お前が変なこと言うからだろ!」

「私が言ったんじゃないよ」

 俺は周りに聞こえたんじゃないかとキョロキョロしたが、聞こえていなかったようで誰も俺たちを見ていない。

 お前ら普段どんな話してんだよ。まったく。


「いるんだよね。経験した子とか。名前は言えないけどさ」

 うん。聞かない方がいい。名前を聞いてしまったら、そいつの顔見た時に妄想が止まらなくなる自信がある。

「それでね? 我慢させ続けたら浮気されちゃうよって言われたの」

「そいつがどんな男と付き合ってるか知らねえけどさ。一緒にしないで欲しいな」

「だよね~。京介はそういうタイプじゃないって言ったんだけど」

 だったらいいじゃねえか。

 それに俺だって色々大人の階段昇ってみたいけど、俺はどうアプローチしていいかもわからん。

 いつか自然にそういう感じになるんじゃないかなとは思っているんだが。

 でも、してみたいのもまた事実。 


「でもね~。生徒会でも同じようなこと言われたのよ」

 朱里がため息をつきながら呟く。

 よし、もう一息だ。

 みんなで朱里をもっとたきつけて、俺の欲望達成に力を貸すのだ。

 おっと急に邪念が飛び出してきやがった。消えろ消えろ。

 てか、生徒会でもそんな話するんだ? お堅い事ばっかりやってると思ってた。


 表情から悟られないように、朱里から顔を背けて窓の外を見て呟く。

「ともかくだ。俺らは俺ら。他人は他人だ。つまんねえことは忘れろ。それに……全然進展してないってわけじゃねえだろ? その……俺は嬉しかったし……」

 幾度か重ねた軽いキスを思い出して、吐いた言葉が少し照れくさい。

 そういえばキスも俺からまだ一度もしたことがない。

 あれ? もしかして俺ってへたれなの?

 自分に疑念を抱き、頭を抱えていると、朱里が俺の肩にもたれてきた。

「ばか……」

 うわ、やばい。何この身体の中から湧き出る感情は。今、無性に朱里を抱きしめたくなってる。

 俺の心音がドキドキと早撃ちしていく。

 でも、周りには乗客もいるし、同じ学校の生徒も乗っている。ここではさすがに駄目だ。

 てか、朱里もなに目を潤ませてんだよ。そんな目で見るなよ。引き込まれそうになるじゃねえか。

 

「あは。ちょっとやばいかも。今、京介と無性にキスしたくなっちゃった」

 小さくか細い声で言う朱里。

 ごくっと生唾を飲み込む。

「……家に着くまで我慢しろ」

 誰に言った台詞なのか。自分で言っててちょっとおかしかった。

「……京介のへたれ……」

 小さく呟く朱里だった。でも朱里の顔は何だか嬉しそうな感じがした。

 バスの中でそれ以上会話せず、ただ朱里が俺にもたれかかっていた。


 俺たちが降りるバス停についた後、二人肩を並べて家路へと向かう。 

「……なあ、さっき聞けなかったんだけどさ……」

「何?」

「お前本当は俺達と一緒に行きたかったんじゃないのか?」

「京介には嘘は通じないよね。そうだよ。本当は行きたかった」

「なんで、パスって言ったんだよ」

「んー、自分で言うのもなんだけど最近嫉妬深いの」

 それは俺も思っているところだ。婚約してからと言うもの目立つ。

 とはいえ、一緒に行ける話をなぜ自分から棒に振る。

「嫉妬って言ったってお前――」

「――分かってる。部活の後輩と仲良くしてるだけなのは分かってるんだけど……我慢できないの」

 抑えられない自分を嫌そうに言う朱里。

 もしかして、俺と婚約する前も実は嫉妬に駆られることがあって、その時は我慢してたのか?


 我が家にたどり着き、玄関を開けてみると我が家の靴が無い。


「……そっちだな」

「……だね。……ということは……」


 いつもならここで分かれる朱里が、ぐいっと俺の手を引いて家の中に入る。

 頬を染めて、俺を握る手に力が入ったのが分かった。


「ねえ、ちょっとしてから向こうに行こうよ。たまには二人もいいじゃない。それに……さっきバスの中で言ったこと覚えてる?」



 おいおい、なんでそんなに積極的なこと言ってんだよ――バスの中?


 …………。


『あは。ちょっとやばいかも。今、京介と無性にキスしたくなっちゃった』

『家に帰るまで我慢しろ』


 ――――あれか! え、まじで真に受けてたの?


 ぐいぐいと引っ張られて、二階の俺の部屋に入った。

 やばいです。これかなりやばいです。心臓がやばいくらいバクバクいってる。

 ぱたんと閉じられた部屋の扉。俺の手を両手でそっと握りなおす朱里。

 頬を赤らめて、目には潤いを帯びてて、なんというか色っぽい。

 もしかして、あの夢が現実になるのか? 更なる発展しちゃうのか?

 

 自分自身顔が熱い。俺どんな表情してんだろ?

 

 一歩、朱里が前に踏み出る。更に近付く二人の距離。

 朱里が顔をゆっくりあげて俺の目を見つめる。

 その瞳に吸い込まれるかのように、無意識に俺も一歩前に踏み出した。

 朱里の手を解いて、自由になった手を朱里の肩を置く。

 

 朱里がそっと瞼を閉じた。ゆっくりと唇をめざして顔を近づける。

 俺の唇に朱里の柔らかい柔らかい唇が当たった。

 初めて俺からしたキス。ちょっと歯に軽く当たった。不器用ですまん。

 これで朱里としたキスは四回目だけど、軽く触れたキスと違って少し息苦しい気もした。

 だけど、その息苦しさをもっと深く味わいたくなって、俺は朱里を強く抱き寄せた。

 そのとき重ねた唇にほんの少しの隙間が出来て、足りなくなった酸素をお互い吸い込んで、また深く重ねた。

 酸素が足りないせいか、頭がボーっとしてくる。


 朱里が俺の頭に手を回した。朱里の手に力が入っているのが分かる。

 何秒たったのか。心地よさに未練を残しつつも唇を離した。

 俺の頭を抱いたまま、朱里も息を苦しげに「はぁ」と吐息を漏らす。

 その仕草がまた俺の劣情に火を着けた。

 朱里の腰に手を回し、顔を朱里に近づける。

 朱里は嫌がることなく再び俺のキスに応じた。



 甘く息苦しい時間がまた二人を包む。

 気が付けばさっきよりも強く、朱里の唇を吸っていた。

 朱里から肺に入った空気を奪うかのように。

 これがむさぼりあうようなキスって奴なのだろうか。

 

 

 突然、朱里が身体中の力が抜けたように膝をがくっとさせた。

 崩れそうになって唇が離れてしまった。

 倒れそうになった朱里を抱き支え、ゆっくりと座らせる。

「……もう……京介強引。激しいんだから」

 はあはあと息も絶え絶えに言う朱里。

 どうやら本当に朱里の身体の空気まで吸い込んでいたようだ。

「わ、悪い。加減分からんかった」

「でも、……悪くない」

 そう言って朱里は俺の胸に倒れこんだ。

 倒れこんだ朱里を受け止めぎゅっと抱きしめる。


「私、幸せだよ」

「そっか、俺もだぞ」

 これは嘘偽り無い言葉。

 胸の中にある温かい感情は幸せなものだと確信していた。

 朱里をぎゅっと抱きしめていると邪念が呼び起こされてくる。

 これ、このまま大人の階段一気に上がっちゃうんじゃね?

 どっかの作家のタイトルみたいに『童貞よさらば』とかになるんじゃね?

 俺の下半身では眠っていた暴君が『ちょっと! ここ狭いんですけど?』と言わんばかりだ。

 そんな風に考えていると、俺の考えとは逆の言葉が朱里から放たれる。 

「京介……まだ勇気が出ないけど……いつかしようね」

 ですよねー。そんなトントン拍子に美味しい話なんて無いですよねー。


「ああ、朱里がいいって言うまで俺も待つよ」

 とは言ったものの、本音はしたい。

 だが強引に朱里を手篭めにする勇気もなく、初めての時はやっぱりお互いに気持ちが出来た所で迎えたいものだ。


 俺の下半身では暴君が『ちょっと! 起こすだけ起こして何勝手に決めてるんです?』と暴れている。

 頼む。静まってくれ。俺にも男のプライドがあるんだ。待つと言った以上、お前も我慢してくれ。


「……あの、京介」

「どした?」

「さっきから京介のが……固いのが当たってるんだけど」

「へ?」

 言われて下を見てみると、朱里のわき腹辺りと凶棒化したモノがいるポジションが接触している。

 すぐさま朱里と離れて、朱里に背中を向けた。

「ごめんね。そんなになってるのに」

「これはしょうがないから。気にしないでいいから」

 俺は何を言い訳してんだ。


「で、でも。クラスの子言ってたよ? おっきくなったら出さないと男は辛いって」

 それ言った奴連れて来い。ちょっと強めのデコピンするわ。

 あってる部分もあるけれど、それを朱里に教える必要ねえだろ。

「大丈夫だから! しばらくすれば治まるから!」

 慌てて言う俺に朱里が後ろからギュッと抱きついてくる。


 背中に当たる朱里のふくよかな胸の感触が気持ちいい。

 静まりかけてた暴君が『また出番ですか⁉』と、下からアピールしてくる。

 いいからお前は悟りでも開いてろ。これからしょっちゅうあると思え。


「私、京介のこと好き。大好き」

 俺の背中に顔を埋めて言う朱里。


「……俺も好きだぞ。これからもよろしくな」

 こんなこという柄じゃないけど、思えば俺、朱里に好きだと言ったの初めてかもしれない。

 そう考えると順番がおかしいよな、俺達。


 俺の言葉を聞いて、朱里の腕に力が篭る。

 数秒して、朱里の腕の力が緩みそのまま腕を解いた。

 それから俺の前に回りこんでくる。照れくさかったのだろう。顔が真っ赤だ。

 

「あ、あのね京介。質問とお願いがあるんだけど」

「なんだよ? 土曜日のことか?」

「い、いや、そうじゃなくてさ……」

「なんだよ。はっきり言えって」

「男の子って自分でどうやって処理するの? 抜くって言うんでしょ。京介もしてる? 一度見てみたいの」

「ぶふっ!」

 思わず吹き出す俺。何てこと言い出してんだこいつ。


「馬鹿、そういうのは人に見せるもんじゃねえよ!」

「だって、わかんないんだもん。興味あるんだもん。見せて!」

 真剣な顔で駄々を捏ねる朱里に手で大きくばつを作って言う。

「駄目だ! それだけは絶対駄目だ!」

 断固として見せられん。自慰行為を見てみたいなんて、どんなプレイだよ。

 誠が喜んじゃうぞ。

   


 なんとか朱里の無理な願いを拒否することに成功した。

 朱里をなだめて家に先に行っていくように言って聞かせた。


 その後はいつもと変わらぬ両家での食事。

 食事が終わって朱里はいつものように家事を手伝い、その間にイラストの続きをしに俺は自分の家に戻って今に至る。 


 お互い好きだと言えたことは良かったのだが、不安が残る。

 確かに年頃の女の子だし、女だって性的なことに興味があるのも分かる。

 とはいえ、俺が持っていた朱里のイメージにぶれが生じてきている。

 あいつのことは分かっているつもりだった。

 俺がそう思っていただけだったのか、最近のあいつを俺は分からなくなってきている。


 考え事をしながらの作業は乗りが悪い。なんだか今日は上手く描けない。

 そんな自分に嫌な気持ちになって、気分転換がしたくなる。

 こんな時は風呂にでも入って気分を払うのが一番だ。

 気持ちを切り替えるのには身体の疲れを癒すことがいいだろう。

 風呂から出て続きを少しだけして、明日の手伝いに備えて寝ることにしよう。


 下に降りるとまだ親父達は戻ってきていないようでシーンとしている。

 週末なので親父達と一緒にお袋達も酒でも飲んでるんだろう。


 替えの下着と寝巻き、バスタオルを籠に入れ、脱いだ服を洗濯機の横にある洗濯籠に放り込む。

 浴室に入り、浴槽の蓋をあけると柚子の香りが立ちこめる。

「おお、今日は入浴剤入りか。気が利くじゃねえか」


 手桶で身体を流してから浴槽に浸かる。柚子の香りが心地よい。

「ふ~。なんか婚約してからあいつ変わったよなー……」

 ええい! いつまでも考えてもしょうがねえ。

 さっさと風呂を済ませて切り替えねえと。


 温まるのも程々に、洗顔、洗髪。

「お? 新しいシャンプーだ。どれどれ」

 昨日まで使っていた白い器と違い、青い器のシャンプーとコンディショナー。

 とりあえず使ってみよう。少量のシャンプーを手に取り頭をワシャワシャとしてみる。

 よく泡立つシャンプーじゃねえか。泡心地もしっかりした感じで泡がつかめそうだ。

 ちょっと楽しくなってきた。泡を更に作って頭の上に盛ってみる。

 鏡で見てみると泡が頭の上で立っている。

「うほ、これ楽しい!」


 その時思いもよらぬ事態が発生した。

 ――――カラカラカラと浴室が開く音がしたのだ。

「え?」


 振り返ると、そこには何故か服を着たままの朱里の姿。

「京介、背中流しにきたよー」

「ちょ! 馬鹿、お前何考えてんにょ!」

 思わず手で前を隠す俺。うわー最悪だ。シャンプーの泡まみれになっちまった。

「えー、お風呂場の電気が点いたから、背中流してあげようと思ってきたんだよ?」

 悪びれた様子も無く言う朱里。

 おい、ちょっと待て。何さも当たり前なことのように言ってるんだ?

 それに俺だけ裸って言うのはおかしくないですか?


「いらん! 自分で洗うからいい!」

「えー、お父さん達も行って来いって言ってくれたのにー」

 どんだけ酔っ払ってんだクソ親父が!


「まともじゃない状態の親父の言うことなんて聞くなよ!」

「いいから、いいから」

 そう言って、俺の背後のタオル掛けにあったボディ洗い用のタオルを手に取る朱里。

 う、動けん。動いたら愚息が丸出しになってしまう。

 何、このプレイ。羞恥心を煽るプレイなの?


 俺が愚息をガードしたままで、朱里が横からボディシャンプーに手を伸ばす。

 鏡に映る朱里の視線が、ちらっとだけ俺の愚息の方向に向いたのは見逃さなかった。

 こいつ……まだ諦めてねえな? 


 ワシャワシャとタオルがこすれる音が背後からする。

 鏡の中の朱里が何か企んでいるように見えるのは気のせいだと思いたい。

 でも、俺の経験則からいうと、この表情の朱里は確実に何か企んでいる。

 頼む。どうか、俺の思い過ごしであってくれ。


 朱里は俺の左肩に左手を添えると、それを支えに俺の背中を泡まみれのタオルで擦っていく。

 いい力加減で超気持ちいいんだが、ひょこひょこ揺れる朱里の頭が気になってしょうがない。

 あわよくば愚息を拝見仕るというように、隙間越しから覗き込もうとしてやがる。

 幸いなことに俺の愚息はシャンプーの泡が付いたおかげで泡まみれの状態だ。

 泡が途切れたとしても、手でもガードしてるのでそう簡単に見えはしまい。


 感じからして朱里が概ね背中を擦ったところで声をかけた。

「もう背中はいいから。後は自分でやるから。ありがとな」

「駄目だよ? ちゃんと流さないと」

 朱里はそう言ってシャワーを手に取ると、バルブを捻ってシャワーを勢いよく俺の背中に向けた。

「つめたっ!」

 シャワーから出てきたのは温かいお湯ではなく水。しかも、ぬるま湯でもない冷水だ。

 思わず反射的に朱里の方に身体を向けてしまった俺だった。

 俺は朱里の顔を見て文句を言おうとしたが、朱里の視線はまじまじと俺の下腹部に向いていた。

「……ほうほう。ほんとに縮こまるんだね」

「え?」

 下を見るとむき出しになった俺の愚息が冷たい水を浴びて縮こまっていた。

 あらプリティ。暴君の時とは大違いだ。そんな事思ってる場合じゃねえよ。

 両手で覆い隠すが、時すでに遅し。

「ねえねえ。それおっきくなったらどうなるの? やっぱり固いの?」 

 朱里が興味津々な表情で聞いてくる。

「いいから出てけえええ!」

「京介のけちー。見られたって減るもんじゃないでしょ?」

「俺の心が減るわ!」



 誰か助けてくれ。

 俺の婚約者がどんどん駄目になっていってる気がする。

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