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戦況《セキ side》

 ────これは開戦直後の出来事。

傭兵団アカツキの頭として先陣を切り、拠点潰しに興じる俺は微かな動揺を見せる。

何故なら────滅多に自然災害が起きないと聞いていた伯爵領で、土砂崩れが起きたから。

と言っても、被害に遭ったのはメイラー男爵家側の人間だけだが。

運が良かったのか、こちら側は全員無事。


 メイラー男爵家側の奴らも無傷とまではいかないが、命に別状はなさそうだ。


「とりあえず、身柄を拘束して隅に放置しておけ。怪我人の手当ても忘れるな」


 我らが主ルイス・レオード・オセアンより命じられた敵の手当て。

敵対している以上、別に放置しても問題ないのだが……『出来るだけ死傷者を出したくない』というターナー嬢の願いで、こうなった。


 我が主は本来、他人の意見……それも、感情的な主張を受け入れる方ではないんだがな。

やはり、婚約者は特別という訳か?

総司令官を誰にするか揉めた時も、ターナー嬢の肩を持っていたし。


 ちゃっかりあの現場に居合わせていた俺は、『主らしくない行動ばかりだ』と眉を顰める。

別に不快ではないのだが……不可解すぎて、気になってしまう。

ターナー嬢の何が主を変えたのか?と。


 確かに普通のお嬢さんとは色々かけ離れているが、家柄や能力は平々凡々。

主が関心を持つほど凄い人物だとは思えない。

となると……顔か?


 人形と言ってもいいほど整ったターナー嬢の容姿を思い出し、俺は『主も男だからな……』と納得する。

────が、直ぐに考え直した。

だって、あの主が……どれだけいい女に言い寄られても、眉一つ動かなかった男が急に色めき立つとは思えなかったから。


 『外見なんて……皮を剥げば、みんな同じです』と言い切った人だからな……それも真顔で。


 『あの時の主はちょっと怖かった……』と思いつつ、俺は敵の手当てを済ませる。

そして、患部に負荷を掛けないよう注意しながら縛り上げた。


「よし、一旦引き上げ────」


 『引き上げるぞ』と続ける筈だった言葉を呑み込み、俺は弾かれるように草むらへ視線を向ける。

『なんだ、今の音……』と訝しみながら。

他の部下達も同様に不自然な物音を聞き取ったのか、じっと草むらを見つめている。

『伏兵か?』と首を傾げつつ、俺は部下達に目配せすると────一斉に草むらへ近づいた。

音のしたところを取り囲むようにして陣取り、剣や槍を突き出す。

────が、特に手応えはなかった。


 無風にも拘わらず草むらが揺れたので怪しんだが、木の実でも落ちたのかと考え、武器を下ろす。

その瞬間────遠くに居る人影を発見した。それも、複数。


 あれは……恐らく、メイラー男爵家側の人間だな。

少なくとも、アカツキ(ウチ)のメンバーじゃない。


 人目を避けるように樹木の多い場所を通る彼らに、俺は不審感を募らせる。

格好や人数からして、普通の小隊ではないだろう。

増援にしては少な過ぎるし、武器も飛び道具ばかり。

遠距離攻撃を専門とする部隊と考えることも出来るが……それなら、後方に下がっている筈。

こんなにターナー伯爵家側(敵側)へ近づいてくる意味が分からない。


 となると、残る可能性は一つ────


「────こちらの拠点の背後へ回って、奇襲戦でも仕掛けるつもりか」


 メイラー男爵家側の思惑を推測し、俺は警戒する。

小隊規模の人数とはいえ、背後から一方的に攻撃されれば少なからずダメージを受ける。

その隙に本隊が攻め込んできて、形勢逆転……なんてことになれば、目も当てられない。

『絶対に阻止しなければ』という使命感に駆られながら、俺は彼らの背中を目で追った。


「一人は本拠地へ戻り、このことを主に報告しろ。他の者達は俺についてこい。敵の別動隊を潰すぞ」


 そう言うが早いか、俺は一瞬で敵との距離を縮める。

部下達も伝令役の一人を除いて、ピッタリ後ろについてきた。

そして、敵の前に躍り出ると、全員武器を構える。


「「「!!?」」」


 突然の奇襲に驚く敵達は、目を剥いて固まり────抵抗する間もなく、地面へ叩きつけられた。

『うっ……!』と呻き声を上げて蹲る彼らに、俺達は容赦なく二発目を入れる。

これで完全に戦意喪失したのか、それとも気を失ったのか……彼らはピクリとも動かなくなった。

ちゃんと呼吸音は聞こえるため、死んではいない。


 奇襲だったとはいえ、この程度で白旗を挙げるなんて軟弱だな。


 拍子抜けだと言わんばかりに肩を竦め、俺は部下と共に敵を拘束した。


「お前達はここに残って、こいつらから情報を聞き出しておけ。俺は一旦、本拠地へ戻る」


 『こいつら以外にも別動隊が居るかもしれない』という懸念から、本拠地の警備状況を一度確認したかった。

『人員配置の見直しも検討しなければ』と思案しつつ、俺はクルリと身を翻す。

────と、ここで雷が鳴った。

音の方向から察するに、場所はメイラー男爵家側の拠点の一つと思われる。


 伯爵領の天候は、いつも穏やかで安定していると聞いたが……今日はちょっと荒れているな。

まあ、被害を受けているのはメイラー男爵家側なので別に構わないが。


 『自然も我々に味方しているんだろうか』と馬鹿な考えが脳裏を過ぎり、俺は小さく肩を竦める。

この歳にもなって、一体何を考えているのか?と。

『ちょっと疲れているのかもしれない』と思いながら、俺は本拠地へ向かって走り出した。

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