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プロポーズ

「────私と結婚してください」


 一切言い淀むことなくプロポーズを口にしたルイス公子は、硬い表情を浮かべる。

こういったことに慣れていないのか、緊張しているようだった。


 この展開は……ちょっと予想外ね。

彼のことだから、結婚問題を解決するため何かしら手を打ってくれるだろうとは思っていたけど……こう来るとは。

せいぜい、結婚相手(優良物件)の紹介くらいだと思っていたわ。


 『まさか、自分を差し出すとは』と内心動揺しつつ、紅茶を飲む。

とりあえず、冷静になろうと思って。


「……理由をお伺いしても?」


 一生を左右しかねない出来事なので即答を避け、私は判断材料の提示を求めた。

すると、ルイス公子は『もちろんです』と二つ返事で了承する。


「ここから先の話は、気分を害するかもしれませんが……」


「大丈夫です。私は気にしないので、率直にどうぞ」


 『言葉や表現に気を遣わなくていい』と告げると、ルイス公子はホッとしたように息を吐いた。


「分かりました。では、遠慮なく……」


 首を縦に振り、カチャリと眼鏡を押し上げる彼はテーブルの上で手を組む。


「既にご存知かと思いますが、レイチェル嬢は現在私の恋人として扱われています。そんな状況でまともな男性が、求婚してくるとは到底思えません。なので、ここは紳士として責任を取るべきだと考えました」


 なるほど。一応、筋は通っているわね。

まともな男性に求婚されないのは、事実だから。

トーマス様の件からも分かるように、今の私に求婚してくるのは怪しい人ばかり。

それこそ、オセアン大公家と敵対している家門やルイス公子個人に私怨を抱いている者くらい。

だって、まともな人なら公子の恋人に手を出そうとは思わないもの。

ほとぼりが冷めるのを待つにしても、私は既に結婚適齢期。

悠長にしていられるほど、余裕はない。


 改めて自分の状況や立場を鑑み、『実は結構切羽詰まっているのよね……』と嘆く。

おもむろに天井を見上げて黄昏れる私を前に、ルイス公子はスッと目を細めた。


「それと、責任云々を抜きにしても────貴方とは元々結婚したいと思っていました」


 真顔で思わぬことを暴露するルイス公子に、私は面食らう。

────が、直ぐに平常心を取り戻し、レンズ越しに見える黄金の瞳を見つめ返した。


「何故ですか?」


「私が結婚相手に求める条件を全てクリアしていたからです」


 淡々とした様子で質問に答えるルイス公子は、手を組んだままテーブルに肘をつく。

その仕草が、妙に上品に見えた。


「私の掲げる条件は全部で三つです。一つ目、かつて精霊師を輩出した家門であること。二つ目、親戚付き合いが希薄で当主の権限を脅かさない血縁関係であること。三つ目、私の仕事やプライベートに口を挟まない人物であること。以上の条件を満たした未婚女性が、貴方だったという訳です」


 一息で結婚条件を説明し、ルイス公子は組んだ手の上に顎を乗せる。

貴族の価値観とかけ離れた考えを持つ彼に、私は少し驚いた。

こういう時、真っ先に提示されるのは家柄や経歴だから。


 貴族の中の貴族というイメージがあったけど、本当は真逆かもしれないわね。


 などと思いつつ、私はおもむろに口を開く。


「では、噂の件が決め手となって結婚を申し込んできたのですか?」


「いいえ、違います。先程も言った通り、私は元々貴方と結婚したいと思っていました。ラードナー令息と結婚するギリギリまで、チャンスを窺っていたくらいには」


 『婚約破棄を知った時は不謹慎ですが、大喜びしましたね』と言い、ルイス公子は悪戯っぽく笑う。

これまでの紳士らしい態度とは、一変。少年のような無邪気さが垣間見えた。

初めて触れるルイス公子の素顔に目を見張りつつ、私は更に言及する。


「では、一体何が決め手になったんですか?ルイス公子の掲げる条件は厳しいですが、全く居ない訳じゃありませんよね?」


 『何故、そこまで私に固執するのか』と問い掛けると、ルイス公子は一瞬だけ目を伏せた。

かと思えば、意を決したように言葉を紡ぐ。


「確かに探せば、きっと他にも条件の当てはまる方が居たでしょう。でも、レイチェル嬢じゃないとダメなんです────あの神秘的で美しい土地を相続するのは、貴方だから」


 ハッキリと『貴方自身に興味はない』と言い切ったルイス公子に、私は思わず固まる。

別に気分を害した訳じゃない。ただ、動揺しただけ。

ウチの領地は至って、平凡で……結婚を申し込むほどの魅力などないから。


「我が領に何か特別なことでも?」


「はい。実は以前遠征で貴方の領地を訪れた時、精霊がたくさん居たんです。それはもう土地を埋め尽くすほどに」


「!!」


 精霊師ならではの目の付け所に、私は目を剥いた。

と同時に、『何故そんなことを知っているのか』と訝しむ。

『契約していない精霊は普通見えないのに』と思いつつ、自分なりに知恵を絞った。

そして、一つの可能性に行き着く。


「あの、ルイス公子は────精霊眼(・・・)を持っていらっしゃるんですか?」

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