フラグを言うと髪が消える世界(前編)
世界にはあらゆるフラグが存在する中、その存在を許さないと思った女神様。ベースの星を再度複製し、カンパネを送り込み、またしてもドタバタ騒動に巻き込まれる。
「世の中には、気に入らない出来事が充満しているわ」
唐突に怒りをあらわにする女神様。一体何事かと思い、女神様と、その先の画面を見てみると、そこにはいつも眺めている『ベースの星』を拡大した画面があった。
「唐突にどうしたのですか?」
女神様が怒ると、正直恐ろしい。
星を簡単に作ることができ、人間や精霊を無かったことにすることも簡単。
つまり、怒らせると言うことはつまり、絶望である。
「カンパネ。ちょうど良い所に来たわ。これを見なさい」
そう言って、一つの映像を見せる。
そこには、一人の少女が食パンを加えて走り出し、角を曲がる瞬間に美少年と衝突。そこからなにやら良い雰囲気になるという映像だった。
「えっと、人間の出会いや恋についてはそれほど詳しくは無いのですが、これをきっかけにこの二人は結ばれて繁栄すれば良いのでは?」
「繁栄は良い事よ。でもね、この出会い方はダメなのよ!」
一体何を言っているのか分からない。
「えっと、出会い方に何か問題があるということで良いですか?」
「そうよ。これこそ、俗に言う『フラグ』よ」
「フラグ……ですか?」
そういえば、人間の世界に行ったときにフラグについて誰かが電車の中で話していた気がする。
例えば映画とかで、結婚の予定がある人は必ず死ぬとか、ツンデレの幼なじみが急に優しくなり始めたら恋人になるとかなんとか。
「本来はこのパソコンという人間が作った機械の言葉らしいけど、いつしかこういうお約束などの事をフラグという単語でひとくくりにしたの」
「はあ、それで、何が気に入らないのでしょうか」
若干呆れつつも、とりあえずご機嫌を取らねば何かが起こってしまう。慎重かつスルーできる様に何とかしよう。
「お約束の出来事での出会いなんて、レールの上を走る電車と一緒よ。私が見たいのは人間のなし得る無限の可能性であって、こんな決まり切った出来事なんて必要ないわ!」
なるほど、単純に気に入らないというわけではなく、人間の可能性を信じた上でわかりきった出来事をされるのが気に入らなかったのか。
「ですが女神様、こうして出会った人間や、フラグを立ててしまった人間はどうしようも無いかと」
「そうね。フラグを立てた人間は……
消そうかしら」
「ちょっと待ってください」
「何よ。これこそ私本来の姿でしょう?」
そういえばそうだった。
前回のアニメに影響された女神様を見ていて若干認識が変わりかけてたけど、この女神様、残虐で残酷な性格をお持ちだった。
「それはやめましょう。後味が悪いです」
「じゃあ何か良い案でもあるのかしら?」
両手に光りを灯し、僕に近づく。つまり、良い案を出さなければ僕は消されるのだろうか。正直絶体絶命である。
「えっと、消すという行為は生産性的な意味でもマイナスです。ここは人間の可能性を引き出すという意味で、滑稽な罰を与えるのはどうでしょう」
「滑稽な罰……」
両手の光は消えていく。どうやら少し満足のいく意見だったらしい。
「ふん、カンパネにしては良い意見ね。採用とするわ。そしてその滑稽な罰だけど思いついたわ」
「え、それは一体?」
「フラグを立てたら、髪の毛を無くすわ」
.神は髪を消す
例のごとく僕はベースの星を複写され新たに設定を加えた星に転移されたわけだけど、今回は正直僕の視点は必要無いのではと思った。
『何を言ってるのかしら。カンパネの視点があるから直感的に色々とアイディアが生まれるのよ』
「それはそれは。で、今回は誰か目標となる人間はいるのでしょうか?」
『そうね。とりあえず設定が繁栄されているか、実験をしてみましょう。えい』
何をしたのだろうかと思い、目の前を見る。
目の前には男子高校生と女子高校生が楽しく会話をしている。
「匠先輩、今度の試合頑張ってください!」
「任せろ真希。今度の試合で勝って優勝旗持って帰ってくるぜ」
何やら青春をしている。
そんな中、いたずらな風が吹く。
「きゃ!」
「うお!」
女子高校生のスカートは捲りあがり、下着があらわになる。すかさず手で押さえるも、その下着はしっかり男子高校生の目に焼き付いていた。
「……見た?」
「……いや?」
「……えっち」
その言葉を発した瞬間、女子高校生の顔は真っ赤になる。
そして男子高校生はというと。
一気に髪の毛が抜け落ちていく。
「……え、ええええ!」
「た、匠先輩……? ええええ!」
どうやら今までの世界と違ってフラグを立てると髪が抜け落ちるというのはつい先ほどできあがったルールらしい。
「これは一体、俺の髪は……真希?」
後ずさる女子高校生。
「えっと、その、試合頑張ってください。行けませんけど応援してます」
「ちょ、来るって言ったじゃん!」
「その、用事を思い出しちゃって」
「その日は一日空けるって約束だっただろ!」
強い言葉の後に腕を掴む男子高校生。その行動に女子高校生は反射的に悲鳴を上げる。
「きゃ!」
「……え」
「あ、えっと、その。正直怖いです。急に髪が無くなって、その、なんというか……
キモい……です」
まあ、正直驚きだろう。
徐々に髪が無くなる人は、その人生の重みや苦労があって髪が犠牲になったのだろう。
スキンヘッドの人は格好いい人も多く存在する。
しかし考えて見て欲しい。
下着を見てしまい、照れた瞬間、髪が全て抜け落ちたのである。ホラー以外に何でも無いだろう。
「さようなら、先輩。できればもう連絡しないでください」
「ま、待ってよ!」
男子高校生の言葉はむなしく、女子高校生は走り去っていく。
おそらく男子高校生の青春の一ページは、これで終わっただろう。
『なるほど、人間を消すよりもよほど生産性のある物語が生まれたわ』
「急に話さないでください」
急に頭へ語りかける女神様。何かを考えているらしいけど、その思考はまだ読めない。
『ただ絵的にも地面に髪が落ちるのはあまり綺麗とは言えないし、落ちた髪は消滅するように書き換えるわ』
星一つ作る力を持っている人が、そんなことで力を振る舞わないで欲しいが、今は黙っておこう。
『さて、次の標的だけど……ん?』
女神様が再度考え始める。
「何かあったのですか?」
『何かあったというか、ごめん、ちょっと設定をミスっちゃった』
女神様のちょっとというのは、僕にどれほどの影響を与えるのか、いつも不安になる。
そしてそのちょっとと言うのが、今まさに目の前に起きた現象だろう。
目の前には転がってくる車。
このまま立っていれば、僕は絶対に潰されるだろう。
瞬時に右手を前に出して、神の力を出す。
「シールド!」
車は潰れながらも二つに割れる。僕は間一髪助かっているが、周囲は爆風で所々けが人も居る。
「女神様! 一体何を!」
『髪の修正をする時に、間違ってそっちに送り込んじゃった」
「過激なテロリストを……』




