魔法……おじさん(後編)
「女神様、僕は一つ反省しました」
『言ってご覧なさい』
「現実とは、残酷なものなのですね」
『他には?』
「……ごめんなさい」
心から謝った。
そして、帰っても怒られるのだろうなと思い、テンションは上がらない。
(どうするポン。もはやこっちが悪魔ポン。約束が違うポン!)
(僕に言わないで欲しい。確かにこの人間の行く末を見たいと思ったけど、君が良い感じの話しを作り上げたからこうなったんじゃ無いか)
(我ながら良いアドリブだったと思ったポンじゃないポン! 悪の組織を倒すにも、女神様を満足させる第一の要素の『可愛い』は壊滅的ポン!)
(そこはほら、君が活躍すれば多少なりとも可愛い要素が生まれるのでは?)
(ポンに期待しないで欲しいポン! ポンはナビゲーターポン!)
どうやらこいつの名前はポンらしい。なんとなくそう思ってはいたけど、なかなか面白いやつだ。
「これが……桜花が二十年越しに与えた力……」
何か急に目覚め始めているけど!
と言うか、フリフリのスカートでカチューシャをつけていても、顔と声は渋いおじさんだから、全然可愛くないというか、逆に怖いよ!
「ところで、悪の組織というのはどこにいるのかね?」
「ポン……その渋い声をなんとかして欲しいという願いは届きそうに無いポンね……」
「生まれつきなものでな」
そういえば、悪の組織ってどんな奴だろうか。
「あー、とりあえず『適当に』送っといたわ」
一番危険な声、そして一番危険な台詞が僕の脳に届いた。
突如、大きな爆発と地響きと共に、目の前が光に包まれる。
「さすがにそれはやり過ぎでしょう! 『シールド』!」
認識阻害をしているため、渋いおじさん改め魔法おじさんには見えないが、おじさんの前で神の力で生成した盾を作る。
(ぽ、ポン。助かったポン)
(いや、さすがにこれは……)
ようやく爆発が収まり目の前の光景がはっきり見える。
それは、絶望とも言える光景で、例えるなら巨大隕石が落ちてきた。そうとしか言えない光景だった。
「これは、一体……」
おじさんもさすがに驚く。だが言わせて欲しい。さっきの一言も凄く渋いので、圧倒的主人公感が凄い。見た目以外は。
「空を飛ぶポン。魔法少女……じゃなくて、魔法使いならそれくらい朝飯前ポン!」
「うむ」
いやだから、魔法少女(予定)がうむって……。
細かい所に突っ込みながら、認識阻害を継続しつつ突いていく。
爆発の中心には黒い人型の物体が立っていた。
『本当はそれなりに凝った敵を出す予定だったけど、速く終わらせたいからデザインは省略したわ。強さも適当よ』
「ちょっと待ってください、それってつまり」
ーまず普通じゃ勝てないのでは?ー
そう思った瞬間、第二の爆発が襲う。
「『シールド』! おい、使い魔! おじさんに何かさせろ! これももう数回しか無いとか適当なこと言え!」
正直女神様が適当に作った精霊でも、かなり強い。特に今回はただの爆発を起こす精霊とも言えない物体だが、それでも女神様の力が入った物体である。守るのも一苦労だ。
「え、選ばれし魔法使い! 今こそあの黒……? 黒き物を倒して、天界に平和をもたらすポン!」
所々疑問を浮かべながら、使い魔は話す。
「あいつを倒せば、桜花も安心して、この世を見ることをができるのだな」
「そ、そうポン!」
「よし、では協力しよう」
渋い。凄く渋いよ!
でもね、どうしてもそのフリフリのスカートとカチューシャに目が行って、慣れてしまうと今度は笑いがこみ上げてきそうなんだよ。
『カンパネ。良いかしら』
「ごめんなさい。何ですか?」
『何故最初に謝るのかはわからないけど、しばらく見ていると、何故かこう、滑稽ね。だんだん面白くなってきたわ』
「そ、それは良かったです」
『なるほど、最初だけ見て評価をせず、中盤から面白くなるアニメもあるかも知れないわね。続きを見てみようかしら』
女神様が何かを悟ったらしいが、今はそれどころでは無い。それもそのはず、この女神様との会話中、爆発が四回ほど行われている。
「ぬあああ!」
「大丈夫ポンか!」
「ぐぬ、心配はいらん、それよりも奴の弱点はどこだ!」
「ちょっと待つポン!」
そう言って、僕を見る。
(弱点教えてポン!)
(頑張れ! 僕も知らん!)
(そんなポン!)
「なにをしている。何かわかったか?」
「えっと、弱点は……心ポン!」
「こ、こころ?」
もはや混乱して何を言っているのか分からなくなったのだろう。
「敵は黒く染まっているポン。それは、負の力が集まっている証拠ポン。それをかき消すのは正の力。つまり、心のこもった攻撃ポン!」
『あのポンとかほざいている精霊、消して良いかしら?』
「女神様、ちょっと待ってください。適当に作った女神様にも責任があったのでは?」
『ぐうの音も出ないわね。許すわ』
内心ほっとする僕。いや、なんでこんな滑稽な状況に気を遣わないと行けないの?
「二十年、私は娘の事を考えていた。あのとき、酒気帯び運転している車を避けることができれば、娘は今頃元気に生活していただろうと」
突然渋い声で語り出すおじさん(魔法使い)。
「この二十年。憎しみもあるが、それを上回る愛もあるだろう。使い魔よ。何をすれば良い!」
「ぽ、ポン!?」
再度僕を見る。と言うか、とりあえず登場した後何も考えて無いのかこの使い魔は。
(何かビーム出すとか言え! 後は僕がなんとかする!)
(恩にきるポン!)
(若干おじさんに影響受けてない!?)
使い魔の言動が気になったが、まずは目の前の敵である。女神様が適当に作ったとはいえ、女神生の精霊。つまり、神の領域でないと倒せない。
認識阻害を使いつつ、魔法使いおじさんの背中に立つ。というか、若干露出している背中がもう気味が悪い。
「最大魔法のプリズムレーザーを出すポン!」
「承知した!」
そしてステッキを前に差し出し、照準を敵に向ける。
黒い敵はこちらに気がつき、爆発の攻撃を繰り出す。
僕の防御神術で防ぐも、攻撃神術の詠唱が途切れる。
「女神様! あの敵強すぎますよ!」
『元々消去する星よ。優しすぎるくらいよ』
さらっと恐ろしい事を言う。それに巻き込まれている僕の身にもなって欲しい。
そんなことを言っていると、おじさんがステッキを構えて台詞を吐く。
「ちょ……まだ準備ができてない!」
「ポン! ちょ、待つポ」
「桜花よ、二十年。ずっと見ていてくれてありがとう。そして、死してなお、父親を頼ってくれてありがとう。父親として、これほど嬉しいと思ったことは無いぞ。そして……」
おじさんは、認識阻害をしているはずの僕を見る。
「神よ。これからも桜花をよろしく頼む」
奇跡というのは、何をもって奇跡と言うのだろう。
宝くじに当たった。遠くのゴールにボールが入った。運命の人と結婚できた。
色々な奇跡が存在するだろうが、僕の目の前に起きている奇跡は、種類が異なった。
僕はただ呆然とし、目の前のおじさんの持った杖から放たれた光は黒い影に直撃し。
黒い影は消え去った。
.☆
「カンパネに一つ言うことがあるわ」
「なんでしょうか」
説教がくるのか、それとも最初に拳が来るだろうか。
「なかなか熱い展開だったわね」
予想外にも、お褒めの言葉だった。
「さっきも言ったとおり、アニメは一話だけではなく、二話や三話。もしくは最後まで見ないとわからない物がある。それを今回の星で学んだわ」
「そ、それはよかったです」
何はともあれ、魔法使いおじさんの住む世界は平和を取り戻し、おじさんは魔法使いという呪縛から解き放たれたのである。
というか、呪縛されたのは僕だったのではとも思えた。だって、誰が好んであんなフリフリスカートのおじさんを見たいって言うのかな!
人間の感情が無ければなんとも思わないのだけど、今は違う。少なくともあのおじさんはキモかった。声が渋いから凄く違和感しかなかったけど!
「それにしてもまたしても不思議な現象が起きた物ね」
「そうですね」
というのも、最後の攻撃は僕の攻撃では無い。
「あの使い魔でも無いのでしょ?」
「ええ、隣で驚いていました。やはり人間の力でしょうか」
「多少の魔力の補正は入れていたけど、あそこまでブーストするとなると、今後の星作成や設定も考える必要があるわね」
「まだ続くのですか?」
「当然よ」
「私の趣味は、作って、見て、楽しんで、壊すことよ」
この一言が無ければ、僕の頭痛も少しは減ると思うのだけれど。
魔法使いおじさんということで、ギャグ漫画とかだとありそうな展開ですが、そんなことをあえてやってみました。女神様の気まぐれもこれで反省してくれると良いのですけれどね。




