事実は小説より奇なる世界(後編)
やっと解除されたー!
すごい。ここまで心の声が大事だとは今まで思わなかった!
『貴方の顔から全て読み取れるわ』
「わあ!」
唐突な女神様の声に驚く。わー、本当に声に出ない。これほど自由な感情というのが大切なのが実感できたのは今日が初めてである。
「とはいえ、コーヒー店に入ったのは良いのですが……」
テーブル席に一人というのはとても緊張するものである。一人だったらカウンターにすべきだったと思ったが、女神様が『それで良いわ』と褒めてくる。
「なぜここなんですか?」
『となりのテーブル席、見てみなさい』
神の力を使って、視界を広く。そして聴覚を上げる。そこに聞こえてきたのは。
「これから本当の話をしなくては行けない状況。本当の娘では無いといつ言えば良いのかと思いつつ、とりあえずメニューを広げて話題を出す。何を飲むかね?」
「実は本当の父親では無いと知っているけど、明日からは夫の転勤先の海外に行かないと行けないから、今日がそれを聞き出すチャンスだけど、とりあえずメニューを見せられたから答えよう。こ、コーヒーのブラックで」
何この会話。
いや、凄く重いんだけど、良くそんな息が持つね二人とも。
『なるほど、ありがちなパターンね。本当の娘では無いと隠してたけど、実は娘はその事実を知っている。さて、この先の展開はどうなるのやら』
「いやいや、二人とも声に出してましたよね! 録音機とかあったら録音して再生してあげたいですよ!」
『そんな野暮なことはダメよ。神は見るだけ。干渉は許さないわ』
「散々干渉した女神様に言われた!」
「隣のテーブルの人、何やら独り言が凄いと思いつつ、とりあえずその話題でも振ろう。隣の人、何やら個性的な人が座っているね」
「同じ事を思っていた。何やら個性的な人だけど、それよりも同じ事を思ったということに、やはり違う血が流れていると言うのは信じられなくなってきた。とりあえず返事をしよう。そうね」
『ほらー、干渉したー』
(んんなああああああ!)
とりあえず心で叫ぶ。僕のことはほっといて欲しいのと、娘さんはこんな些細なことで血縁とか考えないで欲しい。こんな独り言で違う血縁が信じられないのであれば、人間全員同じ血縁では無いことに違和感を感じるだろ!
「旦那の仕事が成功している事に不満は無いが、本当に娘が幸せなのかが心配である。とりあえず聞いてみよう。旦那は、優しいかね」
「連絡は週に一回。しかも数分だけのやりとりだが、父親に心配はかけさせたくない。うん。毎日連絡しているよ」
「本当だろうか。いつも電話をすると、すぐに出るし、実は旦那は冷たいのでは無いだろうか。本当かね?」
「顔に出たか心配になったが、とりあえず大丈夫と返事をする。うん。だから明日からの海外は楽しみよ!」
「本当の娘では無い。しかし、二十数年。男一人で育てた娘の考えは、血が繋がって無くても分かる。本当に幸せなのかい? 実は連絡が取れてないんじゃないかい?」
「何故予想できたのか不思議である。だって、本当の事は言ってないはず。どうしてそう思ったの?」
「なんとなく予想ができる。会えば目の下のクマはひどくなり、いつも寂しい顔をしている。なんとなくそう思ったのだよ」
「なんとなくで分かるはずが無い。だって。なんで本当の親じゃ無いのに、そんなこと分かるの!」
……。
今のは、最後の言葉がおそらく耳に入ったのだろう。
人間というのは不思議な生き物だと、自分自身で感じた。
国や性格にもよるが、思ったことを正直に言える人は少ない。少なくともこの国はそうである。
だが、怒りや悲しみが頂点にさしかかったときにだけ、何故か感情が破裂するかのように本音が出てしまう。
この世界はどうだろう。
感情は全部出てしまっている。
一歩歩くごとに行動している事を言わないと行けない世界。
しかしそれは誰も聞いていない。
いや、聞こうとしないからだろう。
だからこそ、この父親は血は繋がって無くても聞こうとしているのだろう。
言葉に出ているが物理的に聞こえていない心の声を。
「娘だからだ」
心の声の無い、純粋な一言。
この世界ではまずあり得ない神のルールを打ち破った瞬間だった。
『お、おどろいたわ。私のルールを壊す人間が居る何てね』
「女神様。時に人間は無意識という行動で神を超えると思います」
『無意識?』
「はい。予想外の展開が良い例です。あの人間は意識して話したのでは無く、本当にそうしか思っていないからこそ出た発言だったと思います」
『わからないわね。でも、それはわかろうとしないからそう思っているのかもしれないわね』
女神様が、初めて僕の言葉に同意した?
『いいわ。この世界での情報収集はこれで終了としましょう』
「もう良いのですか?」
『ええ。神を超える存在が少しでも出たら、それは人間じゃないもの。後日談なんてつまらないものよ』
「……はい」
そうして、僕はカミノセカイに戻り、この星は。綺麗に無くなった。
☆
「人間の感情というのはとても難しいのはわかったけど、それ以外の種族やシチュエーションが気になってきたわね」
「……いい加減に休んでは?」
「何を言っているのかしら。私に体力は存在しないわよ」
ため息をつき、とりあえず僕は次のお題が来るまで部屋に戻ろうと考える。
「そうそう、次の星は人間だけの星じゃないから、心してかかってね」
「と、言いますと?」
「長年試行錯誤してきた星で、精霊達が自由に住まう星。それでいてなかなか環境が良い感じにできあがったから、これをベースに実験するわ」
またしても苦労が耐えない。そう予想できてしまった。
いとです。
ここまでお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。
詳しくは活動日誌に記載します。
とりあえず女神様の星作りはここで一旦終了となります。
ほぼ毎日の投稿ということで、少し大変でしたが、やりたいことができたという実感があります。
それ以上にご覧になってくださった皆様に感謝です。
引き続き別な話を作成している最中です。また、短編もよろしければご覧いただければと思います。
では




