事実は小説より奇なる世界(前編)
小説には心境や状況が書かれてある。もしそれが全部セリフだったらどうなのだろうという疑問から、またしても女神様は世界を作り出す。
とうとうカンパネの心境までもが露見してしまう世界に、どんなトラブルが待ち受けているのやら。
カミノセカイで最初に君臨した神、女神様。
いつもはその破壊的な性格により星を作っては壊してを繰り返していたのだが、今日は珍しく静かであった。
長い髪にワンピース。そして手に持っているのは本だろうか。
カミノセカイにも本は存在する。
どうしても長年生きる神にとって、忘れるという事が稀にあるから、本として残す場合。
情報伝達が苦手な精霊は、本を通じて情報を得る場合など、用途は様々である。
他の精霊や神達の行動が気になったのか、それとも単純に興味を引く人間の何かがあったのか。
ともあれ、こうして女神様が静かなのは、僕にとってとても好都合である。
女神様が一言話せば、僕の平和は無くなってしまうからである。
「どうして小説ってこういう感じなのかしら」
さようなら、僕の平和。こんにちは、絶望の日常。
「一体何を読んでいるのですか?」
「小説って、よく一人称視点や、第三者視点とか色々あるじゃない?」
「まあ」
人間の世界で小説をいくつか読んだので、なんとなく分かる。もしかして女神様の読んでいるのって小説だったのだろうか。
「台詞以外の部分、例えば行動する時とかはこういったカッコ外に書かれるわね?」
「そうですね。それで緊張感や、心境などが書かれているのだと思います」
「全部が台詞だったらどうなのかしら」
「……と言うと」
「もっと言うと、人間の世界で、全ての行動を口に出さないといけないルールをつけたら、どうなるかしら」
「……それはつまり」
僕の心境がダダ漏れである。
「やめましょう」
「いや、もう作っちゃった」
「早すぎです!」
「というわけで、行ってらっしゃい!」
今日も女神様の有言実行……いや、無言実行事後報告は健全だった。
.事実は小説より奇なる世界
「いつも通りベースの星に到着した僕だけど、見た目はあまり変わらない。ビルや交通機関も普通で、今日は平日のせいもあってか人間達が清楚な服装で街をであるいてって、なんで僕は独り言を話しているんだ!」
『この世界のルールね。カンパネにもそのルールに従ってもらうわ』
「つまり歩く際は前に進んでーとか言わないとダメということですか!」
『そうね。それに人間達を見てみなさい』
「言われるがままに人間達を見てみるって、これも何か知らないけど言葉が出る!」
「次の打ち合わせ、頼んだぞ。そう言って俺は肩を叩く」
「わかりました。そういう物の、次の会議はとても難題で、正直自信が無い」
「後輩の心境に気がつき、すぐさまサポートの言葉を考え話し出す。大丈夫だ! 俺がサポートする!」
「先輩の言葉を聞いて、少し安堵する。わかりました。頑張ります。そう言って深呼吸をする」
『なんというか、ウザいわね』
「そういう世界にしたんでしょ! 心からの叫びを女神様にぶつけた! ぬああああ!」
『何か、カンパネまで壊れそうね。もう少ししたらカンパネだけ除外してあげるから、そのまま頑張ってね』
「珍しく優しい言葉をかけられる。少し落ち着き女神様に話す。わかりました……いやその、僕の心境はあまり気にしないでくだされば」
『分かったわ……にしても、普段そんな事を思っていたのね……」
「想像以上に女神様があああああぬおおおおお!」
『ど、どうしたのかしら?』
「い、いえ、自分の感情を抑えつけただけです。それよりもこの世界はとても生きにくいです」
『そうね。さっきのサラリーマンもそうだけど、あの親子を見てみなさい』
「ベビーカーには赤子な乗っていて、それを押している母親。一見不思議な点は無いですね。そう疑問に思いながら僕はベビーカーを眺めると、驚くべき光景に出会う」
「お腹を空いた僕は、母親に何かを伝えようにも言葉を発することはできない。だから、とりあえず泣いて気づいてもらおう。オンギャー!」
「あらあら、どうしたのかしら」
「いやいや、赤ちゃん普通に話してましたよね」
『……どうやらそういう世界みたいね。自分の感情や行動はただの独り言。相手が理解できるのは会話部分だけみたいね』
「それにしたって赤ちゃんが突然流暢に話し出すのって、凄く怖いですよ!」
『うん、私も思ったわ。あれは可愛くないわね。まあそれほど感情に詳しくは無いけれど』
「とてつもなく違和感しか無い世界。とりあえず別なシチュエーションを探るべく。コーヒー店に入るのだった」




