イメージキャラが働く世界(後編)
店は閉店して、調理場の奥に魚のフライ男は立っていた。
どうやら座ることができないらしい。というより、座るとフライの油がしたたり、処理が大変そうだ。
認識阻害を解いて、魚のフライ男に近づいていく。
「おや、確かお客さんでは……?」
「ええ、まあ、ちょっと道に迷っちゃって」
下手な良いわけである。閉店後、誰も居ない店の中。泥棒と思われてもおかしくない状況である。
とりあえず詳しい事情等を聞かれる前にこっちから話しをふっかける。
「ちょっとした疑問なのですが、魚のフライさんが魚のフライを売るのって、どんな心境なのですか?」
「それはどういう意味でしょうか?」
えらく低い音程のボイスで、凄く響く。
「その、まるで自分自身を売り込み、自分を食べてと言わんばかりの行動なので、に……人間の僕にはなかなか理解できにくいのです」
「そうですか。そういえば店長も似た事を聞いてきました」
「そうなのですか?」
「ウチがここに来たとき、最初に質問してきました。自分の分身を売って、憎しみは無いのかと」
「貴方は何と答えたのですか?」
「当然。無いと答えました」
まるで答えは決まっていた。そんな意思を感じた。
「むしろ、ウチはこうして擬人として生まれ変わってしまいました。つまるところ、『食べられない』のです」
「食べられない……良いのでは?」
「そうですね。人間様には考えられない感情でしょう。でも考えてみてください。人間が生きるために魚を捕まえ、生きるために調理し、生きるために販売する。これらは全て人間が金という物があるからやることです」
「まあ、そうですね」
「でも、最後の最後で、消費期限というのが待っています。これを過ぎると私たちは捨てられるのです」
「それは……」
捨てられるのと食べられる。その二つの違いが僕には分からない。
だってどっちも言ってしまえば死だと思うのだけれど。
「人間に食べて貰えれば栄養になります。その体の中でウチたちは生きていけるのです。ですが捨てられれば、どこに行くか分かりません。もしかしたら、ずっと彷徨うかもしれません」
「その不安から、貴方は必死に子供達を売ろうとしているのですか?」
「そうです。一匹でも多く、ウチの子達を生かせる為に、売っているのです」
想像以上に、重い話になってしまってる気がする。
だって、最初は『美味しいよ!』って書かれたポスターから始まったこの世界だよね。
それが、まさかの魚のフライ男の重い話になるとは。
「生かせる為に食べて貰う。矛盾しているような発言ですね」
「これもこちら側の世界の常識で、人間様の常識ではありませんから」
苦笑いする魚のフライ男。
「今日はもう閉店してますし、時間があれば明日も来てください。次も言わせていただきますよ」
「美味しいよって」
翌日、魚のフライ男が気になったので一日延期してもらったのだが、そこには誰も居なかった。
店員さんに聞いたら、残念なことに、消費期限が切れたという事らしい。
消費期限が切れた商品は処分。どうなったかは聞かなかったが、少なくとも僕は魚のフライ男が次に生まれ変わるときは良い種族であることを祈りつつ、魚のフライを購入した。
「魚のフライ。美味しいな」
☆
「揚げ物の話なのに、盛り上がらないとはこれいかに」
帰って早々女神様がどや顔で僕に何かを話し出す。
「女神様も食べます? 魚のフライ」
「私は食という物を必要としないわ」
そう言って星の生成作業に戻る。
「人間は時に、神である私よりも残酷なことをすることが分かったわ」
「星を壊す女神様よりは平和かと思いますが」
一瞬睨まれたが、ため息をついて再度画面を見る。
「まあ、確かに私も時々思うの。こうして星を生成して壊して。自分の理想の星ができるまでは続けるつもりだけど、それまで何個の星が壊れて行くのかなって」
「では星作りをやめれば良いのでは?」
この質問は、愚問だった。
「いやよ。人間の可能性がある限りはやめる事は無いわ」
そう言って、先ほど行った星は、大きな音を立てて、爆発した。
いとです。
今回はスーパーでたまたま見つけたポスターを見て、ふと書いてみたお話になります。
本当に魚のフライ男がこう思っているのかはわかりませんが、十人十色ということで、あくまで一説と思ってもらえれば幸いです。
また、昨日は短編を投稿させてもらいました。本当は一日に一作とも思っていたのですが、気が変わって昨日投稿です。
併せてお付き合いいただければと思います。
では次回もまたお付き合いくださればと思います。




