イメージキャラが働く世界(前編)
スーパーのポスターを見て疑問に思った女神様。もしそのポスターに書かれた内容が現実になったら、どんな結末が待ち受けているのだろうか。またしてもカンパネはベースの星に転移する。
「カンパネ、これを見てくれないかしら?」
白いワンピースに身を包み、透き通り髪は腰まで伸ばしている人が僕を呼ぶ。
いや、今のうちにテンションを上げておかないと、次に来るろくでもない発言に、少し心が折れるんだよね。
「どうしたのですか?」
女神様の目の前には大きな半透明のスクリーン。
そこに映っているのは、様々な食品が売られているスーパーと呼ばれる店。
「この部分を見てよ」
そう言われて、目をこらして見てみると、そこには何やら絵が描かれていた。
「……絵ですね」
「そうよ。絵よ。残念ながら神である私にはこの絵の素晴らしさなどは分からないけど、不思議には感じたの」
「はあ、えっと、何が不思議なのでしょうか?」
絵の内容は、魚のフライが書いてあるが、どうやらイメージキャラクターだろうか。
美味しいよ! と言って子供にもわかりやすいイラストになっている。
「感情に乏しい私にも、この絵は子供にもわかりやすい内容だというのは分かったわでもね」
「この魚のフライ、自分が食べられるのよね?」
いやまあ、それは考えてはいけないと思います。
「子供にもわかりやすくするには、やはりこういう絵も必要になるのかと」
「でも、実際は自分を食べてという事よね。味方によっては自殺志願者にも見て取れるわ」
「それは行き過ぎな発想かと」
「というわけで、今回はこんな星を作ったわ。名付けて『イメージキャラクターが商品を販売する世界』」
ん?
そういうイベントは見たことあるような。こう、着ぐるみを着ての販売とか。
「深く考えず、とりあえず行ってきて頂戴。そして今回の目的は、『それでも人間は買うのか?』という疑問の解消よ」
言われるがまま。今日も一日頑張る僕であった。
.イメージキャラクターが働く世界
イメージキャラクターが商品の説明するをするのはよく見かける。
リンゴに目や手足が付いて、『リンゴの妖精!』と言って居るだけで場を和ませるイベントなど。
しかし、何だろう。目の前に居る『不気味な存在』に僕は目が離せなかった。
「いらっしゃい。ウチの魚のフライ、食べやせんか?」
凄い低音ボイスで、魚のフライを勧めてくる。
しかし勧めてくる事は別に悪いことでは無い。
問題はその姿である。
魚のフライが縦に立ってて、上部分から人間の顔がひょっこりと出している。
そして手や足もその魚のフライから出ていて、凄く気持ち悪い。
「えっと、大変ですね」
出た言葉がこれしか無かった」
「何、ウチの『子』が皆様の所へ行くかもしれない。そう思うとぐっと引き締まるんです」
「ウチの……子?」
「ええ、ウチは魚のフライから選ばれて擬人化した魚フライ男なんです」
「……えっと、ぎじんか?」
聞き慣れない言葉が出たが、とりあえず女神様に質問すると、思いのほか早く回答が来た。
『さすがに人間の世界だけの技術じゃ無理だから、クローン技術だけを覚えさせて、こうして小さい食品などはイメージキャラクターに具現する事ができるようにしたわ』
「ずいぶんオーバーテクノロジーですね……」
「お客さん、ウチの子、どうですか?」
女神様との会話は僕たちだけしか聞こえない。魚のフライ男はとりあえず僕に商品を勧めてくる。
「あ、えっと、後でまた来ますね。他の物を籠に入れてから惣菜コーナーに来ますんで」
「へい。お待ちしております」
そして少し離れ、神の力の一つ。認識阻害を使って再度接近する。
認識阻害はそこに何も無いと思わせるだけで、姿を消すわけでは無い。しかし、人間や……まあこういう魚のフライ男? にも効果はあるから、便利に使っている。
「良かったなお前達。きっと誰かが選ばれるから、鮮度を保っておけよ」
フライに鮮度を保つ自我があるのだろうか。
「おい、興奮のあまり、呼吸するなよ。油が劣化するだろ」
どうやらするらしい。てか呼吸してるって、生きてるの?
そんな自問自答や突っ込みをしながら様子を見ると、次のお客さんがやってくる。
「いらっっしゃい。どうですウチの子達は」
「ひいっ!」
逃げていった。
というか、よくよく考えるとそうだよね。魚のフライに顔が出てて手足が生えてる生物が目の前に居たらびっくりするよね。
「……安心しろ。あのお客さんは少しシャイなだけだ。次は誰かが選ばれるからな!」
そう言って、再度魚のフライ達に声をかける。
神の力を使って魚のフライの心境やその他諸々の力で何かを読み取ろうとしたが、何も返事が無い。
もしかして、この男にしか聞こえないのだろうか。
疑問で頭が混乱している中、今度はエプロンを着た男性が近づいてきた。どうやら店のスタッフらしい。
「売り行きはどうなってる」
「ええ、このあと一人、購入してくれます」
それはきっと僕の事だろう。
「それじゃあ足りねえだろ! 朝から全然売れてねえじゃねえか!」
「その、どうしてでしょう……」
「お前のその姿がキモいからだよ!」
「ですが、これは生まれもっての姿でして、ウチにはどうしようも」
「ったく、どうして発注するとき、雄雌を間違えるんだか! いいか、次俺が来た時は半分売っとけ! でないと、外に放り投げるからな!」
「それだけは! 油が冷めて、大変な事になる!」
「へっ、そんなのお前だけの問題だろ」
そう言い残して、エプロンの男性は持ち場に戻る。
「……へへ、ごめんな子供達。みっともない姿を見せてしまったな」
しかしこの言葉に返事は無い。だが、おそらく魚フライ男には聞こえているのだろう。
そして次々来るお客さんに話しかけるも、あまり良い対応はされないのが続いていった。
「キモい」
「何で手足が生えてるの」
「声だけは無駄に良いんだけどな」
そんな対応の中、小さな子供が近づいてきた。
「や、やあ。少年。魚のフライは食べないかな?」
「おさかな、きらいなの」
「そうか。でもな。フライにすると、とても美味しくなるんだぞ?」
「そーなの?」
「おう。少年はポテトチップスは好きか?」
「すきー」
「魚のフライはな、ポテトチップスの様にサクッとしていて、美味しいんだ。そして栄養もあるから大きくなれるぞ!」
「すごーい! 食べたい!」
そんな少年の姿に、僕自身少しほっとしている。だって、このやりとり、少し離れてみていると、魚のフライト少年が話してて、何か怪しいんだもん。
少年が魚のフライのパックを一つ受け取ろうとした瞬間だった。
「こら! 勝手に店の商品を取らないの!」
「わあ!」
そして悲劇は起こった。
少年が受け取ろうとした魚のフライが、宙を舞って、地面に落ちてしまったのだ。
「な、なんだと!」
魚のフライ男は、その落ちたフライを見て、その場で動けない状態となっていた。
「あら、すみません。私の息子が。そのフライは買い取りますので」
「その、その子……そのフライは食べてくれるのですか?」
その質問に対して、少年の親は頭に疑問を浮かべながら答えた。
「食べるわけ無いですよ。落としたのですから」




