微小な異能を与えられた世界(後編)
お互い恋をした人間は、何故か手を繋ぐという行為をする。お互いの愛情を確かめるためなのか、それとも一緒にいたいというだけの感情なのか、実際の理由は神である僕には分からない。
目の前を歩いている男女の行動は明らかに変だった。
お互い手を繋いでいる様に見えるが、少し離れている。まるで、磁石で同じ極性が向いている様に、何か反発している様に見えた。
神の力を使って男女の心を読んでみると、それは少し切ない感情が僕に帰ってきた。
(女性に触れる事ができない能力のせいで、今日も手がつなげないなんて)
(男の人に触れようとしても反発する能力の性で、今日も太一と手がつなげないのか)
お互い似た能力を宿してしまい、お互い近いけど、それ以上は詰めることができない状態となっていた。
『なるほど、能力の加護についてはランダムだったけど、こういう偶然でもお互い結ばれる事ってあるのね』
女神様は一人感心する。
「え、これって感心することなのですか?」
『生産性が無いもの。人間は男女の間に赤子を産んで子供を作り後世に残すの。そのためにはお互いを知り、お互いと苦楽をともに過ごす必要があるわ。でもこの二人には苦楽の楽が無いもの』
近づくことができなければ、子を産むことができないということだろうか。僕はその当たりの知識は詳しくないので、今度カミノセカイの図書館で調べるとしよう。
男女が何かを話し始めた。
「ねえ、私たちってずっとこのまま手もつなげない状態なのかな」
「うん、そうだろうね」
「それって、凄く、悲しいね」
「そう……だね」
そして、少女は大きく息を吸って、心を落ち着かせる。
「もう、別れた方が、良いのかな?」
涙を流しながら話した。
「雫……それは言わない約束だったろ?」
「うん。でももう耐えきれないの。好きになった人の手も、ぬくもりも感じられないのは、耐えられないよ」
「でも、それを乗り越えようって!」
「あのときはそう思ったけど、今はもう無理なの! だって、こんなにも好きになったんだもん!」
少女は最初、笑みを浮かべながら話していたが、徐々に顔がぐちゃぐちゃになりつつ話し始める。
併せて男性も不安になったのか、少し怒りの感情が顔から読み取れる。
「確かにこの神の加護は僕たちの弊害だけど、それを乗り切るんだろ!」
「もういいの! 毎日切なくて、毎日辛くて、もう嫌なの!」
そう言って少女は、
男を突き飛ばしてしまった。
少女の行動に反射的に両手を前に出してしまったのか、男の手と少女の手が重なりかけて、しかし触れることは無く、そして加護の力で男が数メートルほど後ろに飛ばされていた。
少女も反発したが、角度もあったのか、少女はすぐ後ろで転んだ。
そして悲劇はここからだった。
車が通りかかったのか、ちょうど男がぶつかり、男は血まみれのまま車の前に倒れ込んでいた。
「い、いやあああああ!」
付近のおばちゃんが悲鳴を上げる。周囲で気の利いた人間は救急車を呼び始める。
「太一、たいちいい!」
少女が立ち上がり、駆け込む。もちろん駆け込んだ先には血まみれの男である。
「太一、ごめん、こんなはずじゃ……!」
「いや……ぐふ……俺が悪いんだ。このままが幸せだと思ってたけど……雫は苦痛だったことに、気がつけなかった」
「そんなこと無い! 幸せだよ! でも、辛いだけなの! 待って、目を閉じないでよ!」
神の力で男の寿命を確認する。残念だがもう時間は僅かである。
「……はは、俺は、神にでも見放されたかな」
!
何故だろう、今一瞬男は僕の目を見て言った気がした。気のせいなのは間違いない。しかし、これが人間の直感や不思議な力だとすれば、少し怖い。
そして、何より、何もできない僕を許して欲しい感情で一杯だった。
「大丈夫だよ! すぐ救急車が来るから! さっきの話しは無し! これからもずっと一緒だよ!」
「そう……か。それは……本望だ」
そう言って、男はそっと目を閉じた。
周囲は未だ悲鳴や救急車等の応答に追われている。
そんな中少女は静かに泣きながら、ぽつりと呟いた。
「やっと、手をつなげたのが最期だなんて、嫌だよぉ」
その言葉にどうしようもできない僕は、女神様にお願いしてカミノセカイに帰還することとなった。
.☆
「人間というのは我が儘な性格もいるものね」
「どういうことですか?」
帰還して、今回の世界の感想を述べている中、女神様が話し出す。
「今回の事故は、偶然発生した事故よ。私は何もしていないわ」
いつもは何か刺激が欲しいと言って、何かイベントを発生させる女神様でも、今回は何もしていないらしい。
「あそこで少女はあんなふざけた事を言わなければ、幸せに暮らせた……いえ、男性は幸せにはなれなかったかしら」
「どういうことですか?」
「時間を戻して星を複製して事故が起きない世界を生成して様子を見たんだけど、少女は一生我が儘を男性に言い続けて、先に男性が死ぬ運命だったわ」
「つまり、あの男性は生きてても幸せになれなかったということですか?」
「難しいわね。一生苦痛を浴びるわけでも無く。娘が生まれた時は一番幸せを感じていたみたいだし。ただ苦労が耐えない一生が待っていたということね」
つまり、少女は本心で言ったわけでもなく、ただ男を困らせたかっただけということだろうか。
男性もその部分が好きだったという捉え方もあるが、本心を知ることができないのでわからない。
つまるところ、やはり人間の感情は神にもわからないというべきだろう。
「というか、そういう星の生成方法で平行世界を見ることができるのですね」
「普通はやりたくないわね。だって、疲れるもの。でも、今回は特別に見てみたかったわ」
「と言いますと?」
「アレが俗に言う、ツンデレってやつよね!」
そうだった。女神様は。
思考が破綻している残念な存在だった。
いとです。
今回は少し切ない感じの物語ですね。とはいえ、この世界については最初から展開を決めていたので、スイスイと書くことができました。
まだまだ物語は続きますが、途中カンパネの休暇を入れたいと思います。いわゆる外伝ですね。
では




