微小な異能を与えられた世界(前編)
人間は異能に憧れを持つが、その異能は必ずしも強いとは限らない。例えば、人間全員が微小な異能を与えられたら、どんな生活を送るのだろうか。そんな興味本位から女神様はまたしても星を生成する。
人間とは、異能の力に憧れを持つらしい。
例えば、手から火を出したり、天候を変える力を人間は憧れる。
同時にそれらの力を使ったと思われる人間は、異能者として罰せられる歴史もあるらしいけど、僕から考えれば人間はそのような力を持っていないので、単純に愚かな行為だと思う。
そんな事を思いながらカミノセカイを歩いていると、女神様がいつも通り不気味な笑みを浮かべて今日も星を作っていた。
「カンパネ、ちょうど良いところに来たわね」
改めて女神様を見てみると、やはり見た目はとても美人だ。
長い髪に白いワンピース。純粋という言葉を当てはめて形取った容姿だが、内面は真っ黒そのものである。
とりあえず返事を返さないと怒られてしまうので、何か言葉を発する。
「今度は何ですか?」
「人間は大きな力を求めるものよ。例えば火を出したり、天気を変えたり」
「……もしかして、僕の心を読んでいましたか?」
「は? 読もうと思えば読めるけど、何か都合の悪い事でも考えてたのかしら?」
「い、いえ、人間は手から火を出したり、天気を変えたりという部分が全く一緒だったので、少し驚いただけです」
「そういうことね。とりあえず人間はそういう傾向があるらしいの」
危ない危ない。もしかして常に僕の心境を読んでいたのかとも思えたので、焦ってしまった。
と言っても、読もうと思えば読めるらしいので、今後気をつけよう。
「人間は大きな力に対して憧れを持つ。でも、全員に異能の力を持たせても面白く無いわ」
以前、人間が魔法を使えたらどうなるかという実験的な星を生成したら、あまり面白くない星ができあがってしまった。
「それを反省点に、今回は『微少な力』を与えてみる事にしたわ」
「微少ですか?」
「ええ、まあさっき作り置きしておいたから、行って来なさい」
そんな料理を作り置きした見たいな言い方で星を簡単に作らないで欲しい。
「わかりました」
とりあえず逆らうこともできないので、今回も行ってみることに。
僕の心の平穏は何処にあるのだろう。
.微少な力が与えられた世界
立ち並ぶビルに目の前を通る交通機関。
今回は文明の成長が見られる星という事で少し安堵する。
それにしても微少な力ってどれくらい微少なのだろうか。
『到着したわね。さて、今回は見るだけに専念してね』
「わかりました」
稀に人間と関わることを命令されるが、今回は見るだけらしい。
「とりあえず認識阻害をかけて、オフィスの中に入るとします」
『了解ー』
ご機嫌な返事はとりあえず聞き流し、オフィスに入る。人間はこの大きなビルでいくつもの仕事を行って文明を生んだり、保ったりする。
「これといって目立った力は見えませんが……」
『待って、その部屋で何やらもめている人がいるわ。聞いて頂戴』
男性二人が何やら言い合っていた。どちらも紙を持って、なんの言い争いだろう。
「お前の「〇」は、どうしてこんなに綺麗なんだよ。おかげで「ゼロ」と記号の「まる」の区別が付かないだろ!」
「仕方が無いだろ! 生まれ持って得た加護なんだから! お前だってその「若干地面に足が付いていない状態」をなんとかしろよ。スーって直立で立って移動するのを見て何度コーヒーを吹いたと思ってるだ!」
「知るか! 俺のことを見なければ良いだろ!」
「うるせえ! だったら俺の「まる」も気にするなよ! 察せ!」
……確かに、とても微少な力を得ているらしい。
一人は見た目では分からないが、どうやら文字を書くとき「まる」だけ凄く綺麗に書けるらしい。もう一人は……確かに一センチほど浮いている。
「生まれてから地面に触れたことが無い俺の気持ちが分かるか!」
「俺だって、大事な書類に何か書くと、何か伏せ字みたいになってふざけてると思われて怒られた事が何度もあったんだぞ!」
何か、見ていて悲しくなってきたぞ。
だって、おそらく女神様の気まぐれで得られた加護だし、これをコンプレックスに数十年生きてきたわけだよね。
『なるほど、丸が綺麗に書ける男はともかく、一センチ浮いてる人間はレア扱いなんだけど、本人は苦労しているのね』
「あ、全員能力は違う訳ではないのですね」
『さすがに一億以上のバリエーションを考える事はできないわよ』
女神様ならやりかねないと思うんだけどね。
とりあえずそれは置いといて、周囲を見ると苦労していない人もいるらしい。
例えば。
「笹原さん、机の資料いい加減整理して欲しいのだけど」
「大丈夫です。私の能力は物を積み重ねても絶対に倒れないので。あ、でも触らないでください。その瞬間倒れますから」
「ひっ!」
得た能力を使って本人は便利に利用している人もいるところを見ると、全員が不幸とも言い切れない。
「微少な力であれば、文明の進化の手助けにもなるのでしょうか」
『かもしれないわね。目の前のテレビのニュースを見てみなさい』
女神様に言われ、電化製品店に並んでいるテレビを見ると、何やら新技術の発明に成功ということで表彰されているニュースが始まっていた。
「細かい部品も正確に並べる能力を使って、昨日新しい
スーパーコンピュータが誕生しました。本日処理能力を計算したところ、世界一とのことです」
自分の能力を理解している人、それにちょうど得意分野が重なった人は、こうして表彰されるのだろう。
人間というのは得意不得意を持つため、女神様の様に何でもできるわけでは無い。それをこの体になってから知った。
「微妙な力を与えたところで、文明には影響が無いみたいですね。これと言って今回は収穫も少ないでしょうか?」
そう思った瞬間、目の前には高校生くらいの男女が歩いていた。
『いえ、まだ物語りは始まったばかりのようよ』
恵まれた人もいれば、当然不運な人もいる。
そんな状況の人達が前から歩いてきた。




